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子供だけならいい、なわけがない

短い話です。

あまり話が進みません。


ラグの木の粉の作り方は簡単だ。乾燥させ、ゴリゴリと木の棒で細かく砕き粉状にし、それを布と器などを使い蒸して殺菌、さらにあく抜きをして何度か濾過する。そしてまた乾燥させて完成、だ。


乾燥するのに時間はかかるし、かなりの量を作るとしたら体力もいるが特別な道具も必要ないため、村人たちが生活の一部に受け入れてさえくれれば、十分住人達に必要な量の木の粉は確保できるだろう。


「へぇー、けっこう簡単なんだな」

「あく抜きと濾過が大変ですけどね。おぼえられました?」

「うん、ありがとな」


こんばんはからこんにちは、ごきげんよう、野生の転生者エルザです。


私は村の少年イルクと共に日当たりの良い場所にラグの木を並べながらあれこれを話しをした。


イルクは外の世界に興味があるようで私に色々聞きたがったのだけれど、生憎私が知ってるこの世界は母さんと過ごした森の中だけだ。下手に話をして私とスレイマンの「戦争で故郷を追われた父子」という設定に疑問を持たれたらまずい。そのため私はもっぱら聞き手に回った。


一応この世界には宗教があるそうな。一神教ではないようで、主神とかその他の神々がそれぞれ祀られていたりなんだりと、イルクの子供の言葉ではわからないところもあったが、大きな村や町には教会があって神官たちが奇跡を起こすらしい。


「きせきって?」

「さぁ、おれもみたことねぇけど…父ちゃんがいうには怪我を治したり、病気のやつを元気にしてくれたり、とかだってさ」

「なるほど……」


治療魔法とか魔術を使えて、それを「奇跡」と売りにしてお布施でも集めているのかな?


戦争で国を追われた、スレイマンが設定で使ったのだから他国間での争いがあるのだろうと思っていたら、もっと小規模で領地同士での争いがあるらしい。


「おれもよくわかんねぇんだけどさ。このあたりの偉い貴族さまも何年か前は隣の領地と戦になったんだって」

「……大丈夫かこの国」


領地同士で争いなど…それ国として荒れてないか?

国王とかいるんだろうけれど…ちゃんと仕事してるんだろうか。


え、困るんですけど…。

レストランとか開くにはやっぱり国が安定してないと…ほら…集客に影響が出る。


イルクの父であるクロザさんやスレイマンならそのあたりを詳しいだろう。

あとで聞いてみようか。


「ところで、なぁ、おまえさ。この木…村のじゃねぇだろ。森にはいったのか?」

「入口の近くだけね。それにちゃんとスレ…父さんといっしょにですよ」


じっとこちらを見てくるイルク。何を考えているのかはわかる。この少年はこの村の現状が嫌だし、自分をもっと鍛えたい。

だが唯一の頼みの父親だって村での仕事があるからそう息子に構ってはいられないだろう。


他の子供たちとイルクはあまりソリが合わないらしい。

仲が悪いわけではない。だが、穏やかで聞き分けが良く優しい気質の村の子供たちと遊んでもイルクは「なんか、おれは違う、まちがったいきものみたいに思える」と疎外感を覚えるらしかった。


だから一人でいる事が多く、そしてそういう時はずっと森の入り口を眺めているとイルクは話してくれた。


「ずっと考えてたんだ。森の中は、どんなんだろうって」


変化と成長を切望しているイルク。いつも手の届くところに「行けば絶対に何かが変わる」と思えるものがあるのに、行くことができなかった森。


イルクは村人からしたら異質だが、それでもこの村で生まれて育った子供だ。だから、私からしたら「入ればいいじゃん」と思う森であっても、ずっと言い聞かされてきた「森に入ってはいけない」という決まりが染みついているのだろう。


「いいなぁ…。おまえはさ、そんなに小さいのに、外のやつだから、あのおっかないオッサンと一緒にどこにでもいけるんだろ?いいなぁ」


しゃがみこみ、膝を抱えながらつぶやく。

大きくなったら強くなって町に買い出しに行くのだと語ったイルク。村のため、だけではない。それが自分の夢でもあるのだ。


「男の子だもんなぁ…」


遠くへ、遠くへ、自分がどこまで行けるか試したい。


私は眩しいものを見るようにイルクを見つめる。

うん、人類万歳。

こういう心が人の世界を広めて、発見や交流、文明が栄え料理が発達していった。


「イルク!」

「わっ!なんだよ…!!?例のジビョウか!!?さけぶのか!!?」

「叫びません!!!そうじゃなくて、イルク!私はあなたを応援するよ!!」


大声だが叫んでいるわけじゃない。

ぎゅっとイルクの手を握り立ち上がらせ私は少年の瞳を覗き込んだ。


イルクはこの村で初めての私の理解者だ。

彼の存在と協力はこれから村で色々試したい私にとってはとても重要なものだし、それなら私だって、イルクを応援するべきだろう!おせっかいじゃない!


「お、応援って、なんだよ……?」

「具体的には今後私が森に入るときにはいっしょにきてもらいます」


もちろん子供二人だけなんて危険フラグを立てる気はない!

ちゃんと私の保護者であるスレイマンに許可を貰い、親御さんにも承諾を得る!

危機回避能力大事!!


さぁ!と私はまずスレイマンに話すべくイルクの手を掴んだまま走り出した。




===



「断る」

「そこをなんとか」


寝ているところを起こして不機嫌になられてはまずい、とそうっと部屋の中をうかがったらスレイマンは扉の前に立っていた。私が来るのが分かっていたようで「何かあったか」と上から下まで眺めてくる。このまず第一に怪我の有無を確認するのはクセのようなものらしく、道中ずっとこうだ。


それで私はイルクと並び「次に森の入り口に採集に行くときはイルクも連れて行って欲しい」とお願いしたのだけれど、返答はにべもない。


「なぜこの俺がおまえ以外の身まで守らねばならん」

「頼むよエルザの父ちゃん!おれ、森にはいってみたいんだ!」

「入りたければ一人で行け」


煩わし気に手を振り、スレイマンは藁の上に腰かける。


「馬鹿娘め。おまえは森の入り口なら危険はないなどとでも考えているんだろうが、どうせそのうち奥まで進みたくなるに決まってる。足手まといが二人などごめんだ」


今朝は私に付き合って森の入り口まで同行してくれたが、その間にスレイマンはきちんと防御魔法や周囲を警戒する魔術式を展開してくれていたらしい。それが二人分から一人増えたところでスレイマンからしたらさしたる労ではないが、イルクにそこまでする義理はない、と言うのだ。


まぁ、確かにそれはそうなのだが。


「な、なら…荷物持ちはいらないか!!?」


さてどう説得しようかと考えていると、イルクがバッと顔を上げる。


「荷物持ち…?」

「そうだ!エルザは小さいし、あんたは杖をつかうだろ。なら、エルザが森で取ったものとか、森で使う道具をもってく奴がいたらどうだ?!」

「ふん、貴様が持てるものなどたかが知れている」

「ばかにするな!おれは子供だけど、村で一番体の大きい父ちゃんの子だ!力だってある!」


言って、それを証明するように部屋の中にある私の葛籠を担ぎ上げ、歩いて見せる。

……思いっきりヨロヨロしてるけどね!!


三歳児の私は背負い運べているが、イルクは肩に背負って歩こうとしている。大きさもあるので、それではちょっとやりづらいのではないか。


「ど、どうだ…!!ちゃ、ちゃん、と…はこべるぞ!!」


イルクは部屋の隅から隅を歩ききった。

根性を見せて貰い私はとても感動しているのだが、見ているスレイマンの目は心底冷たい。


「で?」


短く言い放って「だからなんだ」と見下す様子は、子供相手に大人が取る態度ではない、絶対。


「………っ」


やはり重かったか、イルクが葛籠をどさり、とおろす。あ、と私は小さく声を上げた。その葛籠の中には空になった瓶や、母さんの爪のナイフなど私にとって大切な物が入っている。割れた音はしなかったから大丈夫か?


そんなことを考えていると、荒く息をし膝をつくイルクの胸倉をスレイマンが掴み上げた。


「乱暴に扱うな。その中に入っているものは二度と手に入らぬ物もある」

「そ、そんなの、し、知らなかったんだよ!!」

「荷物持ちを名乗り出るのなら、どんなものであれ自分が運ぶものは丁寧に扱え。そんなこともわからない愚か者が」


スレイマン、洞窟に捨てられる前はどんな対人関係してたんだろうな…。

沸点低いなぁ…。


私は殴られたことはないが、この短い間に二度も宙づりになるイルクを見上げぼんやりと思う。すぐに止めないのは今のはイルクにも非があったし、スレイマンも首を絞めてるわけじゃない。苦しそうにしていないところをみるとなんかこう、上手い具合に掴んでいるのだろう。脅しているだけというのが傍目からはちゃんとわかる。


「でも、荷物を持ってくれるひとがいたら助かるし一回お試しってどうでしょうか。私はイルクと一緒に森に行きたいです」


おねがいします、と裾を掴んで言うとスレイマンが眉を寄せ嫌そうに顔を顰めた。


「一回目はイルクのお父さんも一緒はどうでしょう。親御さんが一緒の採用試験ってどうかともおもいますけど、イルクのお父さんも心配でしょうし」


クロザさんは元傭兵ということだから森への抵抗感もそれほどないかもしれない。槍が使えるようなのでもし魔物が出たら前衛をお願いし、スレイマンが魔法を使う時間を稼いでもらうという役割も出来るのではないか。


提案すると鼻で笑われた。


「馬鹿娘の浅知恵だな。この俺にそんなものは必要ない」

「そんなに強くて無敵なら子供一人くらい追加で増えたっていいですね?」

「なんでそうなる」

「そうなりますよ普通」


何言ってるんですか。私は当然のように言って首をかしげると、落ち込んでいるイルクの手を握る。


「だいじょうぶですよ、イルク!この通り父さんは口は悪いし態度も悪いし性格なんてねじ曲がりまくってますが、でも、すっごく頼りになるんです」

「いや、今お前のうしろでめちゃくちゃ睨み付けてきてんだけど…」

「気にしないでください」


よし、決定だ。

とりあえず最初は森の入り口で草でも取ってクエスト終了という程度でいいだろう。


森に入ることへの村人たちの反応や、魔物たちが実際どのくらい危険なのかも確認しておきたい。

どうせスレイマンだって私が今後森へ進むのを止められないとわかっているのだから森を調べておきたいはずだ。


「それじゃあ、お昼前に出発しましょう!イルクはクロザさんに話をしてきてね!一緒に来てくれればそれはそれで心強いし」


私は朝からアルパカの世話をしに出て行ってしまっているマーサさんにも話をしておきたかった。一度解散してまた集まろう、ということにし私は部屋を出る。


お昼ご飯は森の中で何かお肉でも取れればいいなぁ。




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バーベキューがしたい

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