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私が幼馴染とフラグ立ててる間、村長が脅されてた


「げぇー、めんどうくせぇなぁ!なんでこんなのやらないといけないんだよ!」

「後片付けと道具の手入れができてこそ、料理上達への道がひらけるんですよ」


私に「この木をどうやったら美味く食えるようになるんだ」と詰め寄ったイルクを連れて、井戸の真横で調理道具の洗浄や使ったものの手入れを行っていた。


文句を言い手を抜いておざなりにしようとするイルクを注意しつつ懐かしいレストラン修業時代を思い出す。


見習いと言えば皿洗い。

皿洗いと言えば見習い。


なぜ見習いは皿洗いからと言われているか?皿だけか?鍋やフライパンなど調理道具は洗わないのか?と言葉尻を取って聞かれたことがある飲みの席。


そう昔は合コンとか行った。料理上手ならモテるだろうと安易な考えがなかったわけではないが、残念ながら私は「次のデートの時に作りたいの!」「お弁当作るって約束しちゃった!」などと可愛らしい女性にモテても、自分の恋……こなかった。仕方ない。

いつもベリーショートだったし、腕には火傷や切り傷、眉毛なんか火でチリチリになってたしな!!!合コンは見かけ大事!!!ワンピースはモテるって聞いたのにな!


まぁ、そんなことはいいとして、皿洗いとその他調理道具の後片付け、だが、はい、見習いは皿も調理道具も洗う。


ただお客様が使うお皿を洗う場所と、油まみれ&くっそ熱いフライパンや鍋を洗う場所は別々だ。人件費に余裕があるお店なら二人体制だが、私が修行したお店は一人がその二か所を行ったり来たりしていた。

グラスとかたまると「洗わねぇと割れるだろ!」と怒鳴られるよ!お前が洗ってもいいんだぞ!なんて怒鳴り返したかった!!皿とグラス用の業務用食洗器!?あったよ!でもね!!一回は洗わないと洋食の油は落ちないんだよ!!!


そして見習いは鍋に残ったソースをこっそり舐めたり、その時のメニューに必要な道具をここで自力で学ぶ。厨房では一々「この道具とこれを使って、次にこれを使うから用意しておいて」などとご丁寧なこと教えてくれず、なんなら火加減だって教えてくれないから洗い場から火のある方をうかがって、手首の返し方やらなんやらも覚えておく。


そして私の師事した料理長は、自分で使った調理道具は料理をしながら同時進行で片付けを自分でする人だった。なので料理長の使う火のすぐ隣には小さな洗い場がついており、調理台も汚れてもすぐにサッとふき取る為常にとてもきれいだった。


いわく、フライパンが1枚、耐熱性の平皿(ステンレスであることが多い)数枚に小鍋が一つあれば料理人は十分だという。


『自分で使った鍋に残ったものを舐めて、デキがどうだったか、冷めたらどうなるか、火力が十分だったかすぐにわかる。自分がどんな作業をして汚したのかちゃんと知っておかねぇと、自分の料理のクセに気付けねぇ』

『調理台は自分が一番長く立ってる場所だ。ちゃんとテメェで掃除しねぇと「おれは偉いんだ」って傲慢になっちまう』


などと言う人だった。


いや、本当…料理に対してのスタンスだけは心底リスペクトできた…。

怒鳴るし気分屋だし…大根の味噌汁を賄いで作れ、と言われ「馬鹿野郎!味噌汁の大根はイチョウ切りに決まってんだろ!!!」と短冊切りにした味噌汁を見て怒鳴られたりした。


なんていう理不尽だ!!!私の家では短冊切りだったし!!!料理長のこだわりがあるなら指示出して欲しかったなァ!!!!!


転生した今でも思い出して腹が立ってくる。


どうも、こんにちはからおはようございます、ごきげんよう、野生の転生者エルザです。


一気に村の住人達の食に対する「欲」を煽るのは失敗しましたが、そんな程度で私はくじけません。自分の考えた料理が受け入れられなかったことなど何十回もあるし、それに比べたらちゃんと「おいしかった」って言って貰えた今回などなんの悲しみがあろうか。


「……やっぱり、大勢にたべてもらえるの、うれしかったなぁ」

「あ?」

「料理です。つくるのも好きですけど、たっくさんいっきにつくって、たくさん食べてもらって、おいしいって言ってもらえるのが、やっぱりいいなぁって」


布を敷物のようにしてしいて、その上に水の魔法で綺麗にした木の板を置き、パンケーキを並べた。

お金を取ったわけではないけれど、まるで屋台でも出した気分だった。


楽しい。

自分が作ったものを面白そうに見て貰い、手に取って食べて貰う。

美味しいと言ってもらえて、人が笑ってくれる。

全く知らない、出会って数秒の人が全く知らない私の手が作ったものを口に入れてくれる。


うん……人類万歳。

料理は信頼で、握手で、理解で、喜びだ。


「はい、そうです。人類万歳!!!料理は文化で文明!」

「おいなんで突然さけびだすんだよ!!!おい!!!」


まだ朝は始まったばかり。

村人たちの活動もまだまだ本格的ではなく、各家の中でゆっくりとしているのがなんとなくわかった。


私は二度寝をキメたスレイマンから「なにかあれば吹くように」と笛のようなものを持たされ、久しぶりに二人別々で過ごすことになっている。


「持病です。ときどきあるんです、きにしないで」

「びっくりするから止めろよな…」


少年イルクは赤毛にそばかすのとても、見かけは可愛らしい男の子だ。この村には珍しい父親が傭兵上がりの男性というだけあって、普段から父親に鍛えられているのか穏やかな村人たちとはどこか顔つきが違う。


使った鍋や平たい鉄板は布で水分をふき取り空焼きしてから薄く油を塗っておく。「もったいないことするなー」とイルクが言うがこうしてコーティングしておくことで空焼きで酸化し発生した膜に油の膜が合わさって、焦げ付かず、熱の伝達も早い便利な鉄鍋になるのである。


料理の時の油も少量で済むしね!!


「ところでイルクはどうして、私に木の粉の作り方をきいてくれたの?」

「……だっておかしいだろ、木だけ食うなんて」

「うん。まぁ」


私はそう思うが、この村では「普通」だ。

だがイルクは納得いかないんだ、というように顔を顰める。


「外から、時々くる隣町のれんちゅうは、おれたちが時々しかくえないもんをまいにち食べてるんだ。でもあいつらが金持ちってわけじゃない。金なら、この村のほうがたくさんもってる」

「アルパカの毛、なんだかんだで高くうれるもんね…」

「アルパカ?ワカイアだろ」


わかってるが中々アルパカという言葉が抜けない。


そう、確かにこの村には収入はある。ただ「傭兵を雇って態々こんな危険な場所まで食料を持ってきたのだから」と月々の支払が高額になるし、村人たちは村から出ないのでお金があっても使い道がないのだ。


アルパカの体毛はどういうルートで売られ、収入が入ってくるのだろうか?その当たりをスレイマンが村長さんから聞いていない…だろうな、そんなに詳しいことを最初から教えてくれるはずもないか。


領地の主が全て定期的に買い取って市場に卸してくれているのなら、その買い取りが「お金」なら今後は半分を小麦か何か食べ物に変えて貰えないものだろうか。


「おれ、もう少し背がたかくなったら父さんに剣をもらうんだ。それで、おれが町までいって、たくさん小麦とか、たべものをかってくる」

「そっか、イルクはえらいんだね」


私より頭ひとつぶん大きい程度なので歳は5,6歳くらいだろう。それなのに村のために、と考えているのか。


「……おまえは、外のやつだから「そんな必要ない」っていわないんだな」

「村のひとはいうの?」

「とうちゃん以外はみんないう」


イルクは変わり者扱いされているようだ。それでも村人たちから迫害されているとかそういうことはないようだが、周囲の考えと自分の考えが違いすぎる、というのは苦しいものだ。


「……おまえが言う、木の粉ってのをおれも作れれば、木の粉だけをたべる日が減るし、たぶん、おれもとうちゃんみたいにでっかくなれる」


じっとイルクは自分の小さな手を見つめた。


「ラグの木は食べると動けるようになるけど、それだけじゃでっかくなれねぇって、だから時々…父ちゃんは自分の分をへらしてでもおれに食わせようとするんだ」

「……魔力は維持や元々の体に回復、はさせるけどあらたには細胞を作らないってことかな…?」


洞窟の捨て置かれ生活でスレイマンはガリッガリにやせていたが魔力を体に行き渡らせることで元の筋肉なども取り戻していったという。だがイルクの話を聞くと、なるほど、万能というわけではないのか?


確かに村人さんたちは小柄な人ばかりだ。


小麦をかさ増ししているだけで摂取する小麦粉の量が変わってるわけではない。その辺が体の成長にどう影響するのかも確認したいものだが…。


「それはさておき、それじゃあレッツクッキング!!!」


さぁ始めましょう!

魔剣を使わず、村人でもできる木の粉の作り方!!!




====




エルザと別れ一度宛がわれた部屋に戻り、スレイマンは洞窟から持ってきた革袋を手に取り、中から目当ての物を一つ掴み取った。


そのまま村長の部屋に行くと、エルザのつくったパンケーキを食べずじっと見つめている老人が顔をあげこちらに「これはこれは、魔術師どの」と手を前で合わせ礼を取る。


昨日、スレイマンは村長と二人だけで話した際に自分は簡単な魔術が使えると伝えた。見るからに怪しい男が一人、たとえ幼い子供を連れていたって「騙して浚ってきたのかもしれない」と警戒してもおかしくない。


それで、魔術が使えると触れ込めば村にとっては貴重な薬を手に入れられると多少は受け入れられやすくなると、そう思ってのことだった。


そしてスレイマンは村長に村の話を聞くことと、一晩泊まらせて貰う事を条件に魔獣が嫌う煙を出す魔法薬をその場で作って渡している。


「朝から娘が騒がせたな」

「いいえ、村の者も久しぶりに珍しいものが食べれたと喜んでおりました」

「娘はそれが日常になればいいと思っているようだがな」


勧められた椅子に座り、スレイマンは村長の目の前のパンケーキを見つめる。視線に気付いて、村長が苦笑した。

穏やかな村人たちとは違う、人間というものをちゃんとわかっている目をした老人だ。スレイマンはこういう目を王宮でよく見てきた。


「なにをお考えで?魔術師どの」

「俺の考えではない。娘はこの村が一日三回、ラグの木だけではない食事を取れるようにとあれこれしでかすだろう」

「……森に手を出してはなりません。森は我らの領域ではなく、魔物たちのものなのだから」


神妙な顔で警告してくる村長にフン、とスレイマンは鼻を鳴らした。


実際のところスレイマンはただの森の魔物が全て襲ってきたところで返り討ちにできるし、なんならすべて従えてしもべにしてやることだってできる。

神性も持ち合わせていない本能だけの獣どもなどなんの脅威でもない。だがエルザにそうは頼まれていないし、あのバカ娘が望むのはそういうことではないだろう、とそういうことはわかる。


「貴様はそれでも村の代表か?」


この村の住人達はお人よしだ。それは、朝のあの場面でのやりとりでも十分わかった。スレイマンはその半生から他人の敵意や悪意、その心根の黒い部分に敏感だった。だから、その反面「善人」というのもわかる。偽善者も、だ。


その己から見て村人たちは気の毒になるほど無知で愚かで、底抜けの善人だ。


ただ、善人は良いものではない。あまりに人が良すぎて周囲を巻き込み不幸にすることもあるし、利用されるだけされそれに気づかない、気付いても何も感じない愚か者でもある。


そういう善人を昔のスレイマンは馬鹿にしながら利用してきたものだが、エルザを託す候補の村だ。仕方ないのでこの俺が手を貸してやろう、という気にもなる。


「……魔術師どののように、魔力を扱えない平民は魔物に怯えるのが普通でございます」


スレイマンの言葉に村長は眉を跳ねさせ「なにがわかる」と少し強い目をした。そう、この村長だけは無知な愚か者、ではない。知識のある愚物だ。


閉鎖的に生きてきた。時折外から人を迎え村人たちと結び合い、しかし発展はしなかった村である。


背後が魔物の森だから、最短の村まで魔物が出るから、引き籠るのは簡単だ。単純だ。

ラグの木を食べる、ということをしなければとっくに滅んでいただろう。


「ワカイアとの共存?うぬぼれるなよ人間種などが魔法種と共存できるものか。貴様らはあの魔法種に都合よく利用されているにすぎん。便利な世話係としてな」


魔法種は、何もその体毛が特殊というだけでなれるものではない。

元々が穏やかであったため外敵により追われたワカイアはたまたまこの村でだけ助かった?


そんなバカな。そんな偶然、奇跡のような偶然で、300年も保てるわけがない。


「魔法種などと言っているが、所詮は魔の獣だぞ?人間とは理が違う。貴様らが勝手に「懐いている」「信じてくれている」などと思い込んでいるだけで、ワカイアどもが人間のように貴様らを思うものか」


スレイマンは王都にいた頃、商人からワカイアの体毛で編んだ布を献上されたことがある。染色には向いていないが金をかければ白く色を抜ききることはでき、神官たちには好まれている布であった。


この己にそんなものを寄越すなど嫌がらせか嫌味かと激昂しスレイマンは商人を切り殺し、その布を編んだ女魔術師に呪いを送ったが、今はどうでもいいことだ。


「なにを言うのです…?あなたは……」

「そもそもラグの木の葉はワカイアの主食だ。その木をお前たちも食べ必要としている。これは、どちらが最初にこの村にあったものだ?」


村長は顔を顰めた。スレイマンの言わんとすることが分かっているのだ。


「……我々は、操られてなどいない」

「それほどの力のある魔法種ではないから、それはそうだろう。だが、そうなるように仕向けられてはいる。ここまでお人よしの連中など、教会の巫女や神官どもだって顔を覆うだろう」


魔力で、ではない。それは確かだ。

だが魔力というほど大げさなものではない、一種の思念のようなものが村人たちの思考を代々誘導している、そのようにスレイマンには思えた。


自分達を守るように。

自分達に依存し離れられない様に。


「違う。……我々はワカイアを守り、守られているのだ。この村の生活は……ワカイアがなければならない」

「そうだろうさ、そうだろうな。この村の唯一の収入源だ。貴様らはあの魔法種を守り育てるしかここで生き延びる術はないと、そう300年付き合わされてきたんだろう」

「違う!!」


ダン、と村長が机を叩いた。エルザの焼いたパンケーキが揺れ、床に落ちそうになるのでスレイマンは木の皿ごと受け止める。


「別に俺は貴様らがそう生きるのがどうだなどとは言わん。魔法種にであれ、人間にであれ、弱い生き物は利用されて生かされるものだからな」

「……」


皿を机に戻し、指でパンケーキを千切って口に運ぶ。

木の粉が入っているとは思えない食感に、口触りも悪くない。挟まれた柔らかなものは道中「保存食!それはジャム!人類は!保存食を作ることによりさらに食を発展させた!!!」などと叫びながら鍋の中で回していたものだろう。甘く酸味もあり、口の中でゆっくりと溶けるようだった。


材料となったのは聖なる森で手に入れた木苺で一粒で袋いっぱいの砂糖と交換できる、とさえ言われている貴重なものをあっさり使ったのには溜息しか出ない。


愚かで無知で、憐れな娘だ。


「愚かさを気付かせようなど、変えようなどと思ってはいない。だが、貴様は村長だろう。村人たちが大切なら、その穏やかで馬鹿正直な生き方を「愚かではない」と尊び守りたいと思っているのであれば、貴様だけは連中と同じように生きてはならないはずだ」


ワカイアに思考を誘導され、穏やかな気質、性格になっていたとしても、それを洗脳ではなく、共存ゆえの心の豊かさと思いたいのであれば、そう生き続けることを美徳としたいのであれば、村長だけは狡猾に、抜け目なく生きねばならなかった。


村人がその心根のまま、木を食べる生活だけではなく、他の村の人間に利用されることなく生きれるように、村長だけは考え、他人の理不尽を怒り、対処していかねばならなかったはずだ。


「貴様らはただの家畜だ。ワカイアに利用され、他の人間たちからも魔法種の体毛を刈ってくるだけの、家畜だ。俺はエルザを家畜の仲間入りさせるために、こんな田舎まで来たのではない」


スレイマンはテーブルの上に、先程革袋から持ち出したものを置いた。コトン、と小さく音を立てたそれは淡い緑の、鱗だ。


「真龍の鱗だ。少し大きな町の魔法道具屋で売ればそれなりの家一つは軽く買えるだけの金になる」


これで、スレイマンは六日後に来るという隣町からの傭兵を雇うつもりだった。


それで何をする気かと村長の目が怯える。まさか村を乗っ取ろう、などというのではないかという色にスレイマンはバカにしたように笑い「雑魚どもの力なんぞ借りずとも、そんなものはこの俺一人で十分にできる」と答えた。




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