元傭兵のクロザさんとその息子、なるほど幼馴染ポジションですね?
誤字脱字報告ありがとうございます。
明日休みなので、訂正していきたいと思います。
おはようございます、ごきげんよう、そしておはようございます。
野生の転生者エルザです。
今回は初っ端から料理のうんちくがない?えぇ、そろそろネタ切れ…なんて恥ずかしいこと料理人としてあるわけないんですが、何しろ今朝は夜明けと共に飛び起きて、やってきましたよ村の後ろにうっそうと生い茂る…魔物がたくさんいる森!!
「……森を荒らすのは止めておけと忠告した筈だが…?」
私が森に行くと告げると、面倒くさそうにしながらも起きて一緒についてきてくれたスレイマンは寝起きなのかいつもより不機嫌オーラが増している。
別にもう慣れているので怖くはない。
「村から近いところだけちょっと散策したいのと、ラグの木で実験してもらいたいことがありまして」
「……あぁそうか、俺は善意でついてきてやっただけな筈だが、お前の中では俺が来るのは計画通りだったか」
「おさないむすめがあさはやく、もりにむかっていくのにちちおやはついていかない…なんてひどい」
わざとらしくたどたどしい口調をすればスレイマンが嫌そうに顔を顰める。
そういえばあの村には髭剃りとか髪が切れるハサミなんかはないのだろうか。伸び放題になったスレイマンの髪や髭をそろそろ整えたほうがいいような気がする。
「えぇっと、ラグの木…ラグの木…」
ラグの木は村の中や周辺にも生えているが、もちろん森にもある。村の中の物は村人たちが生活のために管理しているものだろうから許可なく手は出せない。よって森にあるもので実験をしよう、と思ったのだ。
ついでに森の中で食材に使えそうなものがないかも調べたかったしね!
森…と考えると、母さんと過ごしたあの森を思い出す。
つい数週間前の事なのに、随分と懐かしく感じた。あの森には調味料に使える木の実や樹液が多くあった。あの森だけが特殊だったのか、それともこの世界にはそういうものが当たり前にあるのかも確認できる。
「ラグの木をこう、粉みたいにしたいんですけど都合の良い魔法とか魔術ありませんか」
さて、それではと私はラグの木をぽんぽん、と叩いてスレイマンを見上げる。
実験のためにまずはラグの木を粉状にしなければならない。それはどう考えても私の手持ちの道具では無理そうなので、はい、助けてドラ○もん、じゃなかった、スレイマン。
「……お前は魔術をなんだと…」
「とってもべんりな生活の知恵だとおもってます」
え?違うの?
だって人間が今の生活を便利にしたいから発展してったようなものでしょう。
「スレイマンはなんでもできるイメージがあるんですよねぇ」
魔法や魔術がどのくらいこの世界では「あたりまえ」どの程度のものをどういう人間がどのくらいまで使えるのかはまだわからないが、村では魔法や魔術らしいものは見られなかった。
きっとスレイマンはかなり「上」の魔術師なのだろう。そのくらいはぼんやりとわかる。
だからきっと!いろんな魔術や魔法を使って私の料理を手助けしてくれるに違いない!
「……」
私は期待に目を輝かせてスレイマンを見上げる。
「粉状にする、で私が思いつくのは乾燥させることなんですけど、火を使う魔術とかで一気に乾燥させたりとかどうでしょう!?」
「それだと乾燥する部分にムラが出来るな。何に使うか知らないが、粒の大きさもそろっていたほうがいいんだろう?」
「はい、それはもちろん」
「……第六式で魔術を刻めば水分を奪い乾燥させることができるかもしれないが…」
ガリガリと理論でも考えているのか杖で器用に地面にあれこれ描いていく。しかし「いや、これだと粒が荒い」とすぐに打ち消してしまった。
なんだかんだと協力してくれる、そういうところがあった。
「……なんだ、バカ娘。マヌケな顔をしているぞ」
「いいえ、なんでも。うふふ、なんでもないですよ」
知らず笑っていたらしい、私はにこにことスレイマンを眺め首を振る。彼はそれに怪訝な顔をしながらもまた計算を始めた。
「第五十三式で時間を早め風化させるか…?触れるものを砂に変える悪魔を呼び出す…?いや、木を砂状にしたいのであって砂そのものにしたいわけではない。魔法ではなく、となれば魔術で術式を組上げる方が適しているか……」
ひっきりなしに地面に術式を描いては消し、描いては消しを繰り返す。私は気安く頼んでしまったが、どうも、どうやら難しい注文だったようだ。
「…もし無理なら、諦めますけど…」
ちょっとだけ申訳なくなったので、スレイマンが無理なら他の手段(ちょっと時間はかかるが薄くして太陽の光で干すなんかも候補に考えていたため)にしようか?と水を向けると、「馬鹿者が!」と怒鳴られた。
「この俺が!できないと思うのか!!」
なんか妙なプライドスイッチ入ったらしい。
……え、じゃあおねがいします。燃えるスレイマンを尻目に、私は周囲の草や木の実、葉を千切っては口に入れる。
ミントに似たものや、タイムなどハーブ系に近いものがいくつか見つかった。それらの味や癖から使えそうなものもあるが、わざわざ森に取りに行くのではなく、このくらいのものならいつでも気軽に使えるように村で育てられないものか。
「……この辺りの土は粘土じゃないっぽいから畑に使えそうなんだけどなぁ」
ちょっと木を切り倒してスペースを確保できれば小さな菜園くらいはできそうだ。
だがやはり森の中ということは獣や魔物たちの縄張りに関係してくる。
「いっそ森の主とかがいて戦わせてくれればいいのに。そしたら森の利権をいっきににぎれそうなんですけどねぇ」
「その場合戦うのは間違いなく俺になるんだろうな」
私の呟きが聞こえたのか、地面にガリガリと描くのはそのままにスレイマンが突っ込みを入れる。
「そうですよ?スレイマンは私の家族なので三歳児の私の代わりにおねがいします。なぜならば、これは私の料理のための食材確保でありスレイマンの食事のための食材確保なのです」
何を今更言っているのか。
私の中で、スレイマンは私が料理をするために必要な人間認定されている。それにギブアンドテイク。私は絶対にスレイマンにおいしい食事を提供し続ける。そのためにちょっとこう、手伝ってくれてもいいじゃないか。
「なぜそこまでしなければならん」
「私はおいしいものを知っていて、おいしいものを作れるからです」
溜息ひとつ、スレイマンはゆっくりと立ち上がった。そして描いていたものを杖で乱暴に消し、一度トン、と地面を叩く。
すると地面に巨大な魔法陣が現れ、淡い光を放ちながら収束し、一本の剣が現れた。
「ハクードの魔剣だ。シャルダーンの三つ連なる山に住む大蛇の女神がその牙で作り出したと言われる剣で、斬ったものの時を奪い取り粉に変える効果がある」
「魔術式を組上げるのは挫折したんですか?」
「いくつか使えそうなものはできたが、この俺がなんで一々お前のために魔術式をラグの木に刻まねばならん。ハクードの魔剣でお前が好きなだけ勝手に斬ればいい」
まぁ、確かにそうなる。
私が必要と思ったときにスレイマンが一々ラグの木を粉にし続けるのは、面倒くさいのだろう。
なるほど、やったね!便利な調理道具ゲットだぜ!!!
さぁレッツクッキング!!!!
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さっそく村に戻り、私はなるべく風上、匂いが村中に伝わりそうな位置を見つけると、そこに敷物代わりに布を引く。
その上に座り込み、マーサさんに借りた大き目のボウルのようなものに手持ちの小麦粉を全部と水適量、手持ちの砂糖がわりになった木の実を潰したもの・・・などなど、もう何もためらわない!!!全部いれちゃえと大盤振る舞いだ。
作るのはパンケーキだ。
子供の頃、嬉しいおやつといえばホットケーキだった。ふっくらとした丸いケーキ。分厚く作るにはどうすればいいか…どうすれば真ん中まできちんと火が通るか…悪戦苦闘した子供時代…。粉ものはお腹にも溜まりやすく、火ではなくホットプレートでも作れるので、母が仕事に行っていて火を使えなかった時代は大活躍した料理だ。
作り方はいたってシンプル。小麦粉に砂糖、牛乳、卵を加える。ふくらませるのはベーキングパウダーが一番手っ取り早いのだが、別になくても作れる。だって皆大好きホットケーキだからね!世界各国あらゆるご家庭であの手この手で試行錯誤!卵なしだろうがベーキングパウダーなしだろうが、なんとかなるようになった!人類万歳!!
「でも私は卵は使います。村に来る前になんかでっかい鳥が襲ってきたのでスレイマンに返り討ちにされて、泣きながら逃げる時に置いて行ったやつです」
「山に住む魔鳥の一種だったな。好戦的な性格だが万が一自分が敵わない存在がいると悟った場合のみ、逃げる隙を作る為に無精の卵を産む」
「へぇー、なんかト○コに出てきそうな…」
「卵は貴重な魔法薬に使えるため高値で取引されていると先日も言ったと思うが、なぜ何のためらいもなく食おうとする」
「卵は卵ですからね!今は他にないし!!!」
売りに行くまでに腐るかもしれないなら使った方が良いに決まってる。
卵を卵黄と卵白に分け、卵白はメレンゲに……したいのだが、やはりここで考えなければならない問題がある。
「メレンゲには時間がかかる、なのでおねがいしまーすスレイマン!!この卵白凍らせてください!」
「……魔法をなんだと思っているこのバカ娘」
本日二度目の台詞を言いながらももはや諦めが出ているスレイマンは溜息を吐きながらも魔法で卵白を凍らせてくれる。
そう、ベーキングパウダーがないときのホットケーキの膨らませ方!
黄身と卵白を別々にしてメレンゲ状にし、そこに残りの材料を加える、というものである!!
メレンゲは軽く凍らせシャーベット状にした卵白を混ぜ続けるとふわっふわのメレンゲになる。泡だて器の代わりは細い枝を綺麗に削り何本もまとめてツルで縛ったものを使っている。
「非力な三歳の私でもあっという間にふわっふわのメレンゲが!!スレイマンすごい!!」
「………もういい、さっさと続きをしろ」
「もちろんです!メレンゲに大事なのは時間ですからね!!」
私は手早くメレンゲを半分、卵黄と粉にさっくりと混ぜていく。気泡を潰してしまうとなんの意味もない。
そして残りの半分も混ぜ材料が合わさったのを確認し、マーサさんに借りたフライパンのような平べったい鍋に生地を垂らして丸い手のひらサイズの物を何枚も焼いていく。
生地の焼ける良い匂いが流れていき、朝の起床時間も合わさってちらほらと土づくりの家の中から村人たちが顔をのぞかせる。
「おはようございます!」
彼らと目が合うと私は全力で笑顔を浮かべ「はじめまして!ご挨拶もかねて朝食をごちそうさせてください!!!」と大声で話しかける。
私の「脱・木のスープ~村人たちよ立ち上がれ~」の計画第一段階にまず必要なことは、まずこの朝ごはんを食べて貰うことである!
さぁ怖くないですよ~怪しくないですよ~と伝わるようにニコニコしながらパンケーキを焼いて目の前に重ねていく。
「あんたらが昨日村長さんの話してた旅人って親子かい?」
「へぇ、これは何を作ってるんだ?」
「俺たちも貰っていいのか?」
流石は聖母のごときマーサさんの育った村である。私とスレイマンを警戒するそぶりも見せず、物珍しそうに集まってきてくれた。
……自分の思った通りとはいえ、私は少しやるせなくなる。
多分、彼らは今の自分たちの生活が「貧しい」と思っていないし、貧しいようにさせられている、などと思ってもいない。
表情は皆やわらかく、穏やかだ。外敵に追われ絶滅しかけたワカイアが唯一懐き、共存することを選んだだけある。
「はい、もちろんです!私と父さんは故郷がせんそうになって…とてもひどいめにあってきました。だから、昨日この村にたどり着いたときに、マーサさんたちが優しくしてくれたのがとてもうれしかったんです」
近づいてきた村人たちに私がスレイマンの服の裾を引っ張りながら話をすると、年配の女性たちが「こんなに小さいのに…しっかりして」と涙をぬぐうようにし、スレイマンが片足が不自由だと認めた男性陣には「自分のことだけでも大変だってのに…こんなに小さい子供をかかえて…きっと女房も戦争で…」などと同情めいた目を向けてくれる。
……人が良すぎて心配になる。
うん、ありがとう村人さんたち…安心してくださいね、御恩返しができるように、これからは狡猾部分は私とスレイマンが担当するから…。
私は決意し、村人たちに順にパンケーキを渡していく。
ただ焼いただけのものでも砂糖と卵を使っているので十分おいしいと思うが、ここにさらにジャムやヨーグルトを挟んだものにした。
挟む担当はスレイマンである。ただ黙って私の隣にいるなど、絶対に雰囲気が悪くなるに決まっている。スレイマンには焼いたパンケーキに黙々と、私がこれまで一生懸命集めてきた木の実の残りで作ったジャムやカブラの乳の残りに酵母を入れて作ったヨーグルト、蜂蜜、そのほか持っていた殆どの食材を挟んで貰って、村人たちとのコミュニケーションは私が担当だ。
……だって絶対、スレイマン口が悪いし偉そうにするし…。
「おい!みんなだまされるなよ!そんなきゅうにたくさんの食い物をタダでよこすなんて、あやしいにきまってる!!なぁ父ちゃん!!!」
村人たちと話をしながら交流を深めていると、大人の体をかき分けるようにして男の子が一人現れ、私を睨み付けてくる。
「どうせおまえらも俺たちをバカにしてりようする気だろ!そうはいくか!とうちゃんがそんなことさせないんだからな!!!」
そばかすいっぱいの赤毛の少年、私がこの村にきて初めて受ける敵意に満ちた瞳を燃やして駆け寄ってきて、私の手からパンケーキを叩き落とした。
「こんなもの!!!こんなものっ!なんだ!!!こんなんで騙されるか!!!」
叩き落されたパンケーキは少年の足によって何度も踏みつぶされる。それを茫然と見つめ、私はブチッと何かが切れた。
「なにすんのよ!!この悪ガ……」
「森に放り込んで魔物の餌にするぞ、貴様」
食べ物を粗末にするなんて!と私が怒りに任せ平手打ちを噛まそうとしたが、その対象物は私の攻撃範囲の遥か上……立ち上がったスレイマンに首根っこを掴まれ宙づりにされている。
「おい!なにすんだ!!!!はなせよ!!!ばかやろう!!!」
「このバカ娘が朝早くからこの俺の食事もしないまま貴様らのためにと手持ちを全て使い切ってまで用意したものに貴様は何をした?」
ゴォオオオオと、何か地響きのようなものが聞こえそうなほと重苦しいオーラを漂わせ、掴み上げた少年を睨み付けるスレイマン。
ははぁん?お腹すいててキレやすくなってるな?
……止めないと!!!
「ちょ、ま…子供の喧嘩だから!!!大人がでてくるのだめ!!ぜったい!!」
慌ててスレイマンの足元にしがみつき男の子を下してくれと懇願する。パンケーキを足蹴にされてびっくりしてあふれた涙も引っ込んだ。
止めないと土塗れになったパンケーキを掴んで男の子の口に押し込みそうだ。
周りの村人たちといえば男の子を「またイルクか…」「あの子はかわってるからなぁ」とちょっと困ったように笑っているだけで、私ほど慌ててはいない。いいのかそれで。
「あー!イルク…!お前、やめなさいと言っただろう……その二人は見るからに怪しいが…絡んでもロクな目にあわないぞ…」
スレイマンの怒りはなかなか収まらず、少年イルクをガクガクと揺さぶっているので段々と顔が青白くなったりと色々危ない。それで私がオロオロしていると、昨日村の入り口で会った槍を持っていた中年男性が現れた。
「とうちゃん!」
「いやぁ、悪かったなぁ、あんたら。うちの子は俺に似てるんだ」
父親の登場にスレイマンはイルクをどさり、と地面におろし「エルザに謝罪しろ」とだけ吐き捨てた。
「な、なんでおれが!」
「今のはお前が悪いだろう、イルク。わからないのか?」
「……っ、だって、だってよう…だって、どうせ、外から来た奴だし…」
「俺も外からの人間だよ。母ちゃんと一緒になったからここにいるだけで、村の血は流れてない」
なるほど、この男性…確かクロザさん、だったか?村を知れば知るほど「あれ?でもあの槍持ってた人は…」と不思議に思えたのだが、そういうことだったか。
この村のお人よし過ぎる気質から村の入り口に柵があったことや槍を持った人間が一人で見張りをしているのは妙だったのだ。だが、村で唯一クロザさんだけが「外の知識」を持った人間で、警戒心や他人を疑う心、を「当然」だとしていたからなのだろう。
イルクという少年はそういう父親の性質を受け継いでいるらしかった。
「よそものだもんね、私たち。うたがわれるのもむりないよ」
私は父親に叱られうなだれているイルクに向かって頷く。三歳児っぽいしゃべり方を意識しないと、余計怪しまれる気がしたのでその辺は頑張った。
「……その、ごめん…。ひどいことしちゃって」
「だがそこは許さない」
踏み躙られたパンケーキを思い出し、私は真顔になる。
「このパンケーキはね…ただ私たちのことを受け入れてほしくてつくっただけじゃないの…これからも、この村でまいにち、こういうものが食べれるようにって、くふうしたものなんだからね」
「…は?」
「……どういうことだ?」
私の言葉に眉を寄せたのはイルクだけではなかった。
え?何?と村人たちも私の言葉を待ち、そしてパンケーキを見る。
「毎日だって?そんなの無理に決まってるだろう?」
「この村の主食はラグの木だ。まぁ、旅人さんからしたら驚くのかもしれないがな」
口々に言い「気持ちは嬉しいよ」と微笑んでくれる村人たちをやや強い目で私は見た。
「このパンケーキは、確かに私がそとから持ち込んだ小麦粉を使っています。でもこのケーキの三割は、ラグの木を粉にしたものを入れているんです」
隣町が傭兵を雇いこの村にやってきて食品類などを売ってくれて、この村は一時だけは小麦粉やその他の食材を手に入れられる。食べられる期間は一週間もないらしい。一度に運べる量と消費を考えれば、それでも工夫してのことだろう。
「ラグの木はただの木ではなく食べれば魔力を取り込めて体のエネルギーになりますが、粉状にして小麦粉と混ぜてもその効果は失われないし、しかも混ぜてつくったものは、ちゃんと美味しいんです」
私の前世知識によれば、木をパウダー状にしてケーキやパンを焼いても三割以内ならその味や触感が損なわれることはないという。その事を思い出し試してみたのだ。
「……ラグの木を使ったっていうのか?」
「本当に…?」
信じられない、という呟きが聞こえる。だがそのまま消えるのを待っては「へぇ、外の連中はすごいことを考えるなァ」と他人事で終わる。
私は…自分の持ってる食材を惜しみなく使い、ただこの朝食に全力を尽くした。それは、彼らに知ってもらいたかったことがあるからだ。
「ラグの木を美味しく食べる方法があるんです。この方法だけじゃない、この村に住んでいても、一か月に一回の隣町からの情けを待たなくても、みなさんは豊かな食事を毎日三食することが、できるんです」
食に対する「欲」を持ってほしかった。
当たり前のものでも、自分たちがずっと「これはそういうものだから」と思ってきたものであっても、工夫すれば誰にでも「おいしいもの」にできるということを、求めて欲しかった。
ラグの木の粉を使えば、これまでの小麦粉の量でも数日長くパンを食べることができるようになる。村人たちが食べるために何かをすることに興味を持ってくれれば、長期的にはなるが畑を作るために土を耕す事、森に入り採集することなど、始められることが多くある。
そして、私がこの村に対して起こしたい最大の変化、ワカイアの体毛を使った布をこの村で作る、ということも、村人たちが協力してくれてこそできることなのだ。
「……うーん、別になぁ」
「うん。なぁ?」
「あたしらは困ってないからねぇ……?」
だが、私の願いは届かなかった。
村人たちはパンケーキを「おいしいね」と喜んではくれたが「これは特別なものだ」という意識が、どうしても私では消せなかった。
彼らの生活は、一か月に少しの贅沢に、あとは木のスープで構わないと、それが当たり前になっている。それが、それでいいと、染み込んでいる。
ありがとうね、おいしかったよ、村でゆっくりしてね、と優しく言いながらも私に「どうやって粉を作るの?」という質問をしてくれた人は誰も、誰もいなかった。
「どちくしょう」
ぽつん、と残され後片付けをしながら唇をかみしめるとスレイマンが溜息を吐いた。その声音は「わかっていたことだろう」と言うような響きがあり、私は首を振る。
「おいしいものは、人を変えられるって信じてました」
「そうか。今まで誰か変えたことでもあったか?この自惚れ屋の馬鹿娘め」
言いながらスレイマンは私がスレイマン用にとっておいたパンケーキを口に運ぶ。手で食べられる便利なもの。これなら携帯できるし、魔力入りのラグの木の粉が入っているので体力を回復したいときにだって有効だ。
……村が森を開拓する、獣を追いかける、という時に役に立つと思って考えたのに。
「……まぁ、作戦は他にもありますからね!!!!私はくじけません!!!そう、なぜならば…!!!料理人は失敗してこそ強くなるのです!!」
ぐっと腹に力を込めて宣言する。スレイマンはパンケーキを完食し手を布で拭くとちらり、と私の後ろに視線をやった。
「朝からたたき起こされて俺は眠い。たまには子供らしくガキはガキ同士遊ぶなりなんなりしたらどうだ」
そこには右手にパンケーキを、左手にラグの木をもってこちらを睨み付けている、少年イルクが立っていた。
「……ほんとうに、これを使って毎日うまいモンが食べれるのか……?」
……ほら!!!!やっぱり!!
美味しいものって素晴らしい!!人類万歳!!!!
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仕事から帰って来たのが日付変わってからだったから27日中に更新できなかった。悔しい。