アルビノ少女・天は彼に願う
恋物語もちょっとした謎解きも初めてなんです
「三痣、帰ろ」
─素っ気ない呼びかけ。でも、これが僕と彼女を結びつける魔法の言葉。
彼女は、白羊 天。この中条小学校6年3組に所属する少女。外見は白髪に淡い紅色の瞳、真っ白な肌をしている、言うところの先天性色素欠乏症ってやつだ。
そのせいで登下校時には日傘が欠かせず、夏季の間は車による登校、ないし欠席することも少なくない。そして、クラスの面子はどいつもこいつもそのことを知ってはいても積極的に絡もうとはせず彼女の存在はクラスから浮いている。
彼女自身だってそのことを知らないわけではない。だからこそ彼女は帰宅時間を出来るだけ遅くし、登校時間も出来るだけ遅くしている。無駄な軋轢を生まないための彼女なりの処世術だ。
その付き添いを彼女と初めて出会った2年生のときから続けているのが僕、─三痣 施自だ。
「ん、りょーかい」
読んでいた学習漫画を閉じ、ランドセルに入れて教室を後にする。終わりの会が終わってから20分以上経った教室には僕と彼女以外の人影は無くなっていた。
彼女がその先天的な要素によってクラスから浮いている存在であるのに対して、自分は単純に人付き合いというのが苦手で、この期に及んで彼女以外のまともな友人がいない。そういう意味では僕もクラスから爪弾きにされているのだろう。
僕の日課である彼女と下校を共にするのは、2年生から彼女の両親公認で行われているものであり、また事実上先生からの了承を得ていると言ってもいい。しかし、アルビノであっても彼女が生まれついて持っているその類まれなる容姿は間違いなくこの学校一だろう。
そんな彼女と少しばかり恰幅がいいくらいで見た目、身長、共に平均もしくはそれ以下の僕では並んで歩くと不釣り合いだと思うのだが彼女にとってはあまり関係ないらしい。
「別に一日の内、10分を好きに使っても誰も何も言わないよ」
─とは、彼女の言葉だ。確かに彼女とは学校内で話すことはほとんどない。小学生と言えど、6年生にもなれば男女間の意識は変わっていくものだろう。
身近にいる友人、学友、苦手な奴、嫌いな奴、どんな存在であれその人物を一人の男ないし女として見るようになっていく。自分も、そして彼女も例外ではないだろう。
閉め忘れていた窓から吹き込む秋風が彼女の肌を濡らし、白髪の毛先をふんわり揺らす。その瞬間に、彼女の方へとくぎ付けになる。─ほら、やっぱり。
「……、白羊何かあった?」
「─、い、いや、そ、そんなことは……」
普段、彼女と話す生徒がほとんどいないせいでだが、嘘を意図的につこうとすると非常にしどろもどろになってバレバレになってしまうという所があるのはあまり知られていない。
ちなみに、僕が彼女の変化に気付いたのは直感半分、鎌をかけたのが半分。長年の付き合いが為せる技といったところか。
「──、今日こんなものが入っていた。私はもう誰がやったか分かるけど……分かる?」
校舎から出て校門を抜けたところで彼女がおもむろにポケットからその紙を取り出した。丁寧に四つ折りに折りたたまれたその紙を広げると奇妙な文字の羅列があった。
白羊へ
いつでも君のことを見ている。
─誰かに助けを求めるな、自分で助かれ。
─耳は一つでも青い傷を癒せる。
─世界は真意をそのまま伝えたりはしない。
「─何がしたいのかさっぱり分からない文面なんだけど……これはどっから?」
「今日朝学校に来たら机に入ってた。確かめたくても私が来た時には私以外みんな来てた。三痣は私の机に何かするところ見てた?」
「見てたらすぐに言ってるよ……。それでも誰がやったか分かってるんだろ?」
自分が一見したところでこの謎の手紙の意図は全くと言って読み取れない。悪戯にしてはなんか文章が詩的だとは思うけど、一番線が濃いのはそれだろう。
筆跡からなんとなく人物を絞り込んでみようにもこれといって特徴になりそうなのがない。というか、意図的にいろんな筆跡にしている感じで絞り込むことができない。
通学路の道を悠々と進む足に対して遅々として進まない僕の推理。彼女はこのときどんな顔をしていたのか分からないが、3分ほど経ったところでついに音を上げたのは僕の方だった。
「あーもう、ダメだ! お願いだ、教えてくれよ……誰が犯人なのか気になるじゃねえか……」
諦めることを示す発言を聞いて無表情を貫いていた彼女の目がほんの少し開いたように見えた。そのとき彼女はどういった風に僕の発言を受け止めていたのか。
しかし、こういう時の彼女の行動は、問題を『解決』へと直接結びつけようとはせず、間接的に繋がるようなことを言う。分かりやすく言えば、答えを教えてくれるのではなく、ヒントを提示するのだ。
「罫線を最初に付けている文は、本文じゃない。この文章で本文にあたるのは、犯人が言いたいことはただ一文だけ─」
─いつでも君のことを見ている─か。
それだけを聞けば、ただの白羊の隠れファンか、質の悪いストーカーかどちらかだろう。しかし、彼女の置かれている立場を踏まえると一概にそういった悪戯紛いだとも断定しがたい。
下手なことを書けばクラスからどういった扱いを受けるか分からない。だからこんな風に回りくどく書いた。そういう『彼女を心配している誰か』という線も捨てがたい。
少し大人に近づいたようで、内実やっていることは大人の真似事であくまで子供のやっていることの域を出ないのが小学校6年生という存在なのだと僕は思っている。
─例えば、下ネタがより具体的になったとか。
……閑話休題、本題へと戻ろう。
彼女が言うようにその文以外は本文ではない、つまりその裏を取って、文章で本文以外にあるものを考える。そうすると当てはまるものと言えば、題名や後書き、もしくは著者名といったところだろうか?
ただ見ただけではそれらのどれにも当てはまりそうにないように見えるが、わざわざその事をヒントとして言うということはこの文章の意図を読み取る点で不可欠だということではないだろうか。
「最後の一文がヒントになりそうだよな……。真意をそのまま伝えない……?」
その一文が彼女のヒントを踏まえると、一番分かりやすい文章中の、ヒントになりそうだと感じた。
この文章を基にして考えるとすればその前の2文を何らかの比喩の形として読み取るのが真っ先に思いついたが、それを考えたところで自分の脳ではこれらに上手く当てはまるようなことを思いつかない。
「─まだ、分からない?」
「そりゃまあ、僕は白羊みたいに頭が回らないし……」
解釈によっては挑発しているようにも読み取れる彼女の発言だが、そんな風に言葉を発そうとはしないことは自分が一番知っている。純粋にただ、そう尋ねただけだ。
むしろ、ヒントをくれたのに未だに解けないことを白羊と比較して劣っているからと言い訳がましいことを口走ってしまった自分が少し気恥ずかしく感じてきた。
─****。
「……? 何か言った? 白羊?」
「……いや、何も」
よく聞き取れなかったけど、白羊が何かを言ったのが口の動きから読み取れた。しかし、彼女は否定する。嘘をついているには流暢に話せていたので恐らく、さっきの言い訳がましい発言に後ろめたい気持ちになって何でもない口の動きがそう見えたのかもしれない。
寄り道しかかっていた思考を元に戻して、彼女にもう一度ヒントを提示してもらうように懇願する。そんな大層なものではなく普通にお願いしただけであるけれど。
「─最後の文の前2つの文はこの手紙を書いた作者の名前が入っているんだよ」
もう、これ以上は出せないと言外に告げているかのような極めて答えに近づくヒントを貰ったが、彼女はこちらを見ずにただ前を向いてしまった。ここまで来て答えを言わない自分にしびれを切らしてしまったのだろうか。
……でも、どうやったって僕の口からは彼女の求める解は出てこないだろう。否、僕の口からは出せない。
そこからはただただ、無言だった。彼女の家までの5分が永遠のようで、そして耐え難いぐらい苦痛だったのは後にも先にもこの時だけだったと僕は言い続けるだろう。言い続けなくてはいけないのだ。
─誰かに助けを求めるな、自分で助かれ。
この文章の要点は後半の部分、『自分で助かれ』だ。はっきり言って前半部分は後半に合わせるために作った帳尻合わせだ。
一見、クラスから実質仲間外れのような扱いを受けていることに対して自分から行動して変えろ。そういった意図の文章に見えるが、真に必要なのは自分で助かれを自らで対策を施せという風に置き換えられるかどうかだ。
─耳は一つでも青い傷を癒せる。
これも同様だ。文章をいろいろと別の形に置き換えて、ある答えに結び付けられるかということだ。耳を平仮名に直せば『みみ』。これを一つで『み』。
傷は傷でも青い傷と来れば想起されるであろう傷は『痣』。2つをくっ付ければ『みあざ』。
─もう、一々言わなくても分かるだろう。そうだ、犯人は僕だ。
僕には勇気がない。この下校中以外で学校で彼女に直接話しかけることも、こんな回りくどい方法を取らずに正々堂々と彼女を心配するような言葉を掛ける勇気も、……そしてこの手紙の犯人は僕だ、と自ら名乗りを上げることも。
彼女がこの手紙の犯人は分かっていると聞いたとき僕は内心ほっとしていた。彼女から僕を糾弾してくるだろうと。何故こんな文章を送り付けたのか、と。
そうやって何でもかんでも受け身で、受動的に動いていたから今回みたいに相手から何も言ってこないときに何も言えなくなってしまうんだ。
─本当は、ただ、彼女を、天を心配していただけなのに。どうしてこうなってしまったんだろう。
そのまま、彼女の家の前に到着し、さようなら、と事務連絡のように素っ気ない感じで僕たちは別れた。
─次の日から彼女は学校に来なくなった。
─最初はただの体調不良だと思っていた。
─その次の日も。
─その次の日も。
気付けば、外には雪が降り始め、一面が銀世界に包まれるようになっていた。もう、2カ月以上学校に来ていない彼女のことを先生も心配し始め、ちょくちょく僕のところへと訪れるようになった。
身体は大丈夫なのか、とか。特に何もしていないよね? とか。中にはお前が虐めたんじゃないのか? と僕によるいじめを疑う先生まで出てきた。しかし、証拠をきっちり押さえて突き付けるとその先生はそそくさと教室を後にしていった。
「三痣君、今日も……これ……」
クラスの担任である女性教師は申し訳なさそうにその日配布されたプリントを放課後、僕の前に持ってくる。白羊の家まで持っていけ、ということだろう。この教師を僕が気に入っている点としてはあまり詮索してこないという点である。
逐次、クラスの内情に探ってくるような教師では相手しているこちら側が疲れてしまう。他の教師からはもっと積極的にいけと言われているのを一度だけ聞いたことがある。
しかし、僕個人としてはそういった教師の方が都合が良くて助かる。担任にわかりました、と了承する旨を言うとまたそそくさと職員室の方へと戻っていった。貰ったプリントをランドセルに出来るだけ丁寧に入れるとさっさと教室を後にした。
「……」
一人だけの廊下、一人だけの階段、一人だけの下駄箱、一人だけの校門。同じように殆ど喋らずに通っているはずなのに、何かが違う。白羊と一緒に下校していた時には何があったのだろうか。どうしてこれだけ空気が変わってしまったのだろうか。
外は吹雪が吹き荒れていて、僕の身体はただただ、冷えていく。それは単に体が冷えて寒くなるとはまた違う、もっと内面的なものとだけしかその時の自分には分からなかった。
〈人の心が分かる人間になりましょう〉
教室に貼ってあった以前に作ったクラスの標語が今になって自分の心に突き刺さる。作ったときは『言われなくても自分は出来ている』『むしろ6年生にもなってそれが出来ていない奴はどうなのか』そうやってどこか上から目線というか、見下すような感じで見ていた。
……今の自分に、そう言うことが、言える権利は果たしてあるのだろうか。いや、多分分かっているんだ。それを見たくない、直視したくない、出来ない。でも、理解したくない、受け入れたくないんだ。
下校のための10分がどれだけ自分にとって支えになっていたのか。あの時はたった5分がとても長く感じたのに、今日はほんの一瞬で過ぎ去っていく。
プリントを白羊の家の郵便受けに入れるとそのまま走って帰宅し、その日は何も考える気がせず、毛布に体を預けた。
結局、彼女はあの日を最後に学校へ来ることは無かった。それどころか彼女の姿を見たのもあの日が最後になってしまった。そうして、鬱屈とした気持ちを抱え込んだまま卒業式の日は訪れた。
「白羊 天 ─欠席」
あの担任の普段とは打って変わった厳粛な声が体育館に機械越しに響いた。しかし、その声に答える者はそこにいなかった。そのまま式は続いていくものの僕の中ではその先生の声が頭の中で響いて止まなかった。
周りには泣いたり、緊張した様子でじっと壇上を見つめる者もいれば退屈そうにして今にも眠ってしまいそうな者もいたりと喜怒哀楽がはっきりしている様子だった。
でも、自分は彼女のことが頭から離れず泣くわけでも、喜ぶわけでも、ましてや怒るわけでもなく、漫然と前を向いていた。
式自体はつつがなく進行し、最後のクラスでの集合写真の撮影も終わって気付けば正面玄関で校舎を眺めていた。
「卒業……か」
そうは言っても、そのことが自分の人生に与えるものなど大してないだろう。中学受験をするわけでもなく、校区だってほとんど変わらない。精々新しい環境でまた学校生活が始まる、ということでしかない。ただ、卒業証書が入った筒を少しだけ力を入れ握りこむ。卒業という一つの区切りでもあるこの日に何か思うよりもまず、自分の行動次第でもっと違う別の『今日』があったのではないかと考えずにはいられなかった。
未だに彼女が何故あの日を境に学校へ来なくなったのかは分からない。それこそ彼女のみが知ることだろう。─だからといって、自分に何も出来なかったわけでは無かった筈だ。自分にはその何かを引き起こすだけの勇気が足りなかった。いや、これ以上悪化するのを恐れて触れないようにしていたのだろう。
「どれだけ理由を重ねても─、これが、導き出す答えは一つだけなんだろうな─」
─三痣 施自は罪を犯した。この一文が何もかも、一切合切に対して出す僕の答えだ。
白羊 天という一人の女性に対して償いきれない罪を犯してしまったのだろう。もし、彼女に再び会うときには、─その自分が犯した罪を明らかにしてみせる。それが僕の最初の贖罪だとこの瞬間、決意した。
─次に会うときには、この通いなれた通学路を歩む10分を、もう一度色彩のあるものにしたい。
*
『次の土曜日に小学校の校門前で待っている』
彼と会うのを止めて4年が経とうとしていたある秋、突如として私用のノートpcにそのメールが届いた。あて先は記載されていなかったが、添付されたあの手紙から誰が出したのかはすぐに分かった。
ただ、お互いに高校生になったこのタイミングでこの事を蒸し返そうとしてきた彼の思惑は読み取りたくても出来なかった。─お互いに時間が経ちすぎてどんな性格をしているかもう分からないから。
彼があの手紙を書いたのは内容を見てすぐにピンと来た。文章に隠された名前を読み取るよりも前に直感がそう告げていた。別に、怒っていたわけではなく、また、惚れていたわけでもなかった。ただ、自分の口から『僕が書きました』と、言って欲しかった。
こんな回りくどいやり口がそうそう受け入れられるわけもなく、中学校になればきっと集会が開かれる可能性のある悪戯紛いのことだとなんとなく察していた。
だから、小学生であるうちにそんなやり方を、考えを、性格を、少しでもいいから抜け出して欲しかった。─でも結局、彼の口から直接語られることはなかった。
(このままだったら駄目だろうな、お互いに)
そう決めてから、私は学校へ行くのを止めた。両親は心配してくれたが、無理に行かせることをしてくれなかったのは迂闊だったんじゃないかな? と今では自分の行動を含めて反省している。やり口が強引だったのも小学生らしいかもしれない。
一応、勉強はコツコツ続けていた。中学校にもほとんど行かなかったが、それでも通信制でそこそこ良い高校に入学することは出来ているので両親もある程度安心している。
ただ、やはりと言うべきか友人関係というものはあれ以来皆無だ。というか、彼以外にまともな友人なんているはずも無かった。よってぼっちであることは否定できない。女子高生としてはどうなのだろうか……。
「そういえば……ここ一カ月くらい外出してないような……」
私が生まれ持っているアルビノという特性からあまり多く外出する方ではないものの、流石に1カ月丸々外出していないのは不味い。主に、体力的な面で。それ以上に、外出用の服や日傘が問題ない状態であるかも把握できていないのは由々しき事態であると言わざるを得ない。
─数日後、土曜日が来た。小学生の時は単純に肌を隠せて、日光にさえ当たらなければいいので無地の長袖ロングスカートに、黒い日傘だったが、これでも一応、女子高生。それなりに格好には気を配るようにはなった。
「だからと言って、こんなゴスロリは大丈夫なんだろうか……」
……結果として、こういう自らの趣味に走ったファッションに関しては弁明の余地が無いと自分でもそう思う。数年ぶりに会う男友達のような何かに対してするべき格好でないことぐらい察しがつくが、外に出るときに親に用件を伝えると、半強制的にこの格好にさせられた。
……というか、どうしてゴスロリ衣装の在処をお母さんは知っていたのだろうか。母親の力が恐ろしいことをこんなことで知りたくは無かった。
「─とにかく! 三痣が何を考えているのかは突き止めないと!」
そういったことは二の次にしてでも、彼─三痣 施自がどうして今になってそのことを掘り返してきたのかを知りたい。予想はあっても、どれが正解なのかは分からない。
今になって謝りに来た? それとも無かったことにしてまた友人関係を持とうとしている? それともただの茶化し? ……いくつか候補はあってもどれもあまりあって欲しくないことだ。私個人としては。
通いなれたはずの道はしばらく続いた半ひきこもり生活によって小学生当時と同じもしくはそれ以下の速さで進むことになってしまっていた。
それ以上に、この衣装のせいで汗がすごいことになっている。蒸れてしょうがない。秋だとは言っても残暑が厳しいここ最近では秋というより晩夏という言葉の方が正確なのではないだろうか。
「ぜぇ……私こんな道通ってたんだ……。運動不足が堪えるなぁ……」
重い足取りではあったけれども、何とかあの中条小学校へとたどり着いた。植えられた並木の落ち葉が無造作に学校前の私道に散っているが、その光景も懐かしさを覚える。
そして、休日であるにも関わらず校門の前にスマホを弄りながら誰かを待っているかのような人物がいた。
─三痣だ。身長も伸びているし、顔つきも変わっているけれど確かに彼だ。
「……えぇ……?」
「─何か?」
「いや、……白羊にそういう趣味あったんだ─と」
彼にとっては小学生の私のイメージが強く残っていたようで、ゴスロリスタイルの私にひどく驚いていた。予想していたので大してショックは無かった。でも、無いわけではない……。
「─それより、今になって蒸し返してきたのは何?」
「……─、」
その言葉にドキッとした様子だったけれど、一拍置いて、彼は自分自身の言葉で語りだした。
彼が何を語ったのか。それは彼と私だけの二人の秘密だ。─でも、私があの日動いた意味はあったとだけ言っておこう。
─この日、二人の10分の繋がりは再び、色を取り戻したんだ。