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プロローグ

てん、てん、と、目の前を弾む、サッカーボール。

その後を、覚束ない足取りの子供が追いかける。

そのまま子供は道路へ飛び出し、そしてその向こうからは赤信号を無視して走ってくるトラック。


何という、テンプレ展開!


俺は、気がつけば子供に駆け寄っていた。

別に、お約束は守らなければならないと思っているわけではないが、未来のサッカー少年を見捨てることは出来なかった。

放っておいてもボールがクッションになってこの子は無傷で、将来スペインの名門クラブで活躍するようなサッカー選手になる、なんて、そんな超頭身な展開がそうそうあるわけもない。

なら俺が助けるしかないのだ。


ボールを抱いた子供を俺が抱きかかえ、道路脇へ飛び退こうと足に力を入れた、その瞬間、膝に激痛が走る。


それは、俺がサッカーを諦めることになった傷。

前十字靱帯に内外の側副靱帯の断裂。

左足一本で着地したところに体格の良い相手DF二人分の体重がのしかかり、元々右足の怪我を庇って余計な負荷が掛かっていた左膝周りは当然耐えられるはずがなかった。

長い療養生活の末、ようやく歩けるようになって、喜び勇んで病院へ定期検診に向かったのがさっきのこと。

厳しいリハビリは覚悟していた。

だけど言われたのが、もうサッカーは無理です、なんてな。


そして今、このざまですよ。


この傷は! 俺の夢だけでなく! 俺自身をも殺すのか!!


ああ、わかったよ、だが、なら。


――せめて最期に、こいつだけは絶対に助けてやる。


痛みをこらえ、踏ん張った力を使って、何とか子供だけは路肩に放り投げる。

俺だって、最後まで諦めはしない。片足で力一杯跳ぶ。


横っ腹に激痛。

空を飛ぶ感覚。

腹の中が、かあっと、熱くなる。

今度は肩甲骨に激痛。

骨が砕けたんじゃなかろうか、だが頭は無意識に守ったのか。

そんなことを考えるでもなく思っていたら、大きな音が聞こえて、次の瞬間。


遺憾ながら、その辺り一帯を空から俯瞰していた。


ここから多分、百メートル以上は向こう、ピクリとも動かない人影……。

ああ、あれは間違いなく俺だ。随分飛んだな。

歩道脇に倒れているが、どうやら他の人は巻き込まずに済んだらしい。

……それだけはちょっとホッとした。

トラックは反対側、中央分離帯を越えた所で横倒しになっている。

こちらは何台か車が巻き込まれている。迷惑な話だ。

子供は……、足元にいた。

あれは、姉か? 抱きしめられて泣いてら。

まあ、助けられたなら、最低限はクリアだ。


あとはもうどうしようもねえ。


そう諦めるようなことを思ったせいか、足元から光が立ち上る。

そして俺は、その光の流れに流されるように空へ舞い上がり――。

次の瞬間には、闇とも光ともつかないトンネルの中を飛んでいた。


前の方に分かれ道が見えてくる。

その先には、明確に光だと分かる点が見える。出口だろうか?

なら周りのは闇なのか? やっぱり光ってるようにも見えるんだが。

それよりも。分かれ道の手前に、光に背を向けて屈んでる人影が。


そいつはこっちを見て、安心したように笑う。


――押しつけて、ごめんね。


女の声でそう聞こえたと思ったら、右へ流れるように感じていた身体が、急に左に吸い込まれ始めた。


え? どういうこと?


その疑問は解決されることなく、俺は光に吸い込まれ、放り出された――。



――苦しい。


なんで!? 息が出来ない!?


――苦しい!!


背中をたたかれたような感覚があって、呼吸が出来るようになる。

とんでもない安心感と恐怖と、他にもごちゃごちゃと、そんな感情が溢れて、俺は、赤ん坊のように泣き喚いた。


――っていうか、俺、赤ん坊だよ! 比喩じゃなかったよ!


おっと、これが転生ってやつですね。

サッカーできずに暇だった時にライトノベルも沢山読んだからね、知ってるよ。


……って、マジかよ……。

いいよ、分かりましたよ、やってやろうじゃねえか。

あのときどうせ死んでたんだ。なら、よほど辛くなけりゃボーナスステージだ!


だが、この時の俺は知らない。

まさか、この後、あんな事実を突きつけられるなんて!


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