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FIX - escape to elysium -  作者: Elysium
1話 心の無垢
3/5

3節 両者の溝

- 1話 心の無垢 -


人が溢れても、人が消えても 何処にいても空は常に美しく平等に笑顔で居る。

彼らは其々に立場も理解せず 唯自分の為だけに無邪気に生きている。

-ルイス パラベラムギルド-


 「こんな朝からとても慌てて・・態々ギルドに何かご入り用ですか ?」


  ルニアの表情は至って普段の笑顔

 横髪をかきあげながら 語り掛けるのは微笑みの眼差しこそ彼女の営業スタンスだ。  

 私が知る限り、彼女はどんな時でも冷静に対処してきた

 何時かの話、反ヴェイグを掲げる人間の集団に彼女が銃を突きつけられた事もあったが

 ルニアは堂々と そして一言も口を割らなかった。

  

 私の前でルニアを盾にする非道な輩に 時には首をきつく絞められても

 口元を上げ、優雅に屈しなかった。 

 硬直は長く続いた。あのころのメンバーは私とルニアとロバートという男の3人だった

 という事もあるが、ルニアを絞める男にさらに2人が銃を彼女に向けているという事態で

 私は"彼らの反応より先に"すべてを無力化する事が可能か否か、判断がつかなかった。

 その長い硬直の間、私がついに無力化に挑んだのは

 アイコンタクトで私を説得してくれたルニアのおかげだった。


 無力化する手前 そのぎりぎりまで彼女の人間たちに対する優雅な対応は

 今でも記憶に新しいが、それよりも一番強い印象を与えたのは

 私が聞いた"怖くなかったのか・・?"という不安の一言に大して

  

 "貴方達を、信じてるから"

  

  その言葉だった。


  もう何年も彼女と共に歩んできた。

 最初は唯彼女の為にと、唯一私にやさしい手を差し伸べてくれた恩人の為に

 常に横を歩き、力になろうと努力し 手に入れた今の場所。

 常に笑顔である彼女に慣れてしまっていた私だった。


 だからこそその言葉を聴いて、私は突き抜けた笑顔に不安を持ち

 "なんで、そんな笑えるんだ もしかしたら今ごろルニアは・・!!"

 言葉を荒々しく 心の声を外に吐き出してしまう私を

 それでも彼女はよりいっそう包み込むような笑顔で頭をなでてくれた。

  

 その時 気がついたのだ。

 彼女の心は、器は、度量は とても大きな物なのだと。

 彼女は人間でありながら、脅しなどにまったく屈しない度量

 綱渡りのような場面でも正確に物事を測りうる冷静さ

 そして、信じぬける力。

  

 ただの人間だとしても私には決してかなわない

 彼女はその地位を得るだけの素質があったのだとあのころ確信した。



  今目の前の哀れな中年の男もきっとルニアの冷静な対応には驚きを隠せないだろう

 彼もまたこの時代に生きている人間だ、ならばこそ感じる唐突な違和感を感じるはずだ

 開いた口がなかなか閉じず、言葉が出なかったのが何よりの証拠だ。


 「ぁ・・あのっ えっと・・」


 彼もまた、彼女の笑顔に困惑した。

 ならば私が動く必要もないはずだ。現に奴はその身に"得物"すら身につけていない 

 私は目を反らし、ルニアがわたし好みに淹れた紅茶を手に取り・・口に運びながら・・

 さて・・ 何ページ目だったか・・


 男に飽きて というわけではない。

 私は唯、ルニアにとって害か否かを判断したのだ

 もとより私はそういう役目で、人間であり頭脳である彼女を守るのは

 彼女と出会ったときからの任務だ。決してつまらないわけではない


 そう自分自身に言い聞かせつつ、本のページをめくっていると不意に

 金属がすれる音がする。その音の反響を辿れば行き着く2階

 響き方から形を察するに巨大で長い鉄の塊。

  

 それは・・たぶん


ガシャーンッ!!


 「うぁあっ!?」



  それでも私は揺れる家内でも動じず本のページを捲っていた。

 予想内の事態であり、驚くのはきっとそこの中年くらいだ

 ほら、目を横に流せばルニアだって口をあんぐりだ。


 3秒ほど私以外は固まったが、衝撃的な事態というのはゆっくりと把握していく物だ。

 たとえばだ。そこの中年と言えば、衝撃音と共に声にならない悲鳴をあげた 

 そんな男も3秒たてば足を突然ばたつかせ、まずその落ちてきた

 巨大な鉄の塊から離れようともがく。 それはもうすさまじい形相でだ

  

 その塊を見ても見なくても、予想は確信を得る 絶対に"奴"だ。間違いない 

 視線はまた本に戻るが油断だけはしないでおく。

 奴は 人間を憎んでいる。それでいて良くも悪くも素直だ。

 もしその拳がこの中年に向かうならば その時はたとえ中年に興味が無いとはいえ

 防ぎ止めなければならないだろう。

  

 しかし、投げたソレで人間を殺さないとは 奴も少しは成長したようだな

  

 「ぉぃそこの人間!さっさと依頼してこっからでてけっ!!

    お前がいるだけで家が腐るんだよこの加齢臭っ 匂い移るだろーが!!」


 

  視線を送らずとも予想できる顔は 短い金髪をした紫の目の少女の笑みだろう

 ならばきっと刺さっている鉄の塊も、彼女が愛用する西洋の剣のはずだ

 大人しく荷物の整理をしていたらいいものを・・ ルニアは大迷惑だろう


 ふと見ればルニアなんてあきれた顔をして後ろすら振り向きもしない

 依頼に来た人間も尻餅をついて顔が真っ青だ これでは依頼どころじゃないだろう

 助けてくれるはずのギルドに殺されかけたんだ。


 「大丈夫ですか? アレは気にしないでください。」



  アレなんて呼ばれ方をされた奴はどんな反応をしているだろうか

 そうやってまず中年のフォローに回るルニアを見ていたが、その言葉と同時に

 視線を一度だけ此方に向けた。


 ・・理解した。それはルニアなりの合図だ

 いつしか、私達はこうやって互いの意思を伝え合っている。

 今回はふざけた内容だが、その意図はしっかり受け取った。

 手にしたカップと本を仕方なく置き、私は上で威嚇したままの彼女に声をかける。


 「ミア、2階にいこう。」



  やっと私は彼女の顔を見たが、予想通りの金髪ショートの少女は

 私の顔を見て見るからに血行を悪くした。非常に不快だ

 余計な手間を掛けさせられて イライラしているんだ。

 私の邪魔をして、ルニアの邪魔もして・・・ 今にも何かを投げつけそうだ・・


 ただし今回は許可を得た。

 だからこそ私の口元は少し釣り上がる。


 「ちょ っ」



 と 言った時には彼女の顔を掴んでいた。

 次にミアが何かを言おうとした時には縄で縛り吊るした。

 そしてその次に何かを言おうとした時 彼女の口は喋れなくなっていた。


 「んんっ!? んーっ !  んんーっ!!!」





  ミアとクリシスは上で仲良くやっているのかしら?

 私は怯えたお客を宥めながら、二階を見上げていた。


 それにしてもミアの行動には毎度ながら困っている。

 思う通りに行動をする、無邪気で我侭な少女の言動

 そこに善も悪も彼女には関係が無い。

 人の事を言えた義理ではないが、彼女も突然に失いすぎたのだ

 彼女の恨みの根底にある、普通の人間に対する恨み

 それに彼女の性格が重なると、これはそう簡単に変わりそうもないが


 今回の依頼主を傷つけなかっただけまだましなんだろうか?



  巨大な剣は今尚刺さったままで、私では抜く事はおろか動かす事すら出来ない。

 怯えた中年は徐々に落ち着いてきたようで、冷たい水を喉に流し込んでからは

 その冷えた汗を拭いつつ、やっとまともに言葉を出せるまで落ち着いた。


 内容はこうだ。

 町の中の酒場で働く彼は酔った元エルハインの軍人に店を荒らされ

 火器を持つ彼らを止める事も出来ず、彼は他の従業員やお客様を助ける為

 噂を頼りにここに来たんだと言う。


 話が本当ならこんな処で油を売っている余裕もないはずだ。

 しかし妙な話、この町にはヴェイグが常に巡回しているはず

 なぜ彼らではなくわざわざ私達新参者のヴェイグギルドを訪ねてきたのだろうか?

 予測でしかないが、そこにはまた別の理由が見え隠れしてならないが・・


  いつもなら私達の依頼受諾には前払いを要求する。

 基本的に互いに常に裏切る可能性を大いに秘めているからだ。

 パラベラム という看板を掲げて、私達は依頼された仕事を

 報酬をもらえば必ずどんなことでもクリアしてきた。

 それは小さくても確実にパラベラムの信用を生んできたはずだ。


 だからこそ依頼を受ける側の私達が裏切るメリットは

 第三者が居ない場所を除いてデメリットのほうが大きい。

 むしろ裏切るメリットは どこぞの馬の骨とも知らない依頼主のほうが大きいはずだ。

 そういう点を考えて、初対面の依頼はまず先払いを要求する

 その条件をのみこめない程度の依頼主とは関係を築けるとは思えないからだ。


  

 ヴェイグギルドというのは 信用される場所からは大いに信用される

 組織という存在が大きいのもあるが、故にヴェイグのチームであるからこそ

 端から絶対に信用しようとしない連中も多々居るのだ。


 だが今回は今考えている間に失いつつある物が大きい

 何を優先すべきか、それを失えば後に発生するかもしれないメリットが消えてしまう


 「クリシス~っ!! お仕事ーっ!!! 遊んでないで降りてきてーーーっ!!」



  ようはメリットとデメリットの話

 彼の仲間が、という話ではなく、価値があるか否かの問題だ

 依頼される側ではあっても、力を持つのはこちら側なのだから。 


 珍しく大声を張り上げて家の主力を呼びつけた

 降りてきたクリシスはにやり顔で縄を片手に降りてきた

 ・・聞かないことにしよう 深く首を突っ込んでいい思いをした試しがない


 それよりも


 「彼と一緒にすぐ現地に行って」


  男はとても困惑した顔をしていた。どういう表情なのか表現に困る感じで

 私がそういう報酬の取引を考えるということはどこでも大抵そういう流れなのだろう

 きっと中年の彼もそういう流れになると鞄から何かを出そうとしている仕草を見せていた。

 信用も無し、おまけに報酬内容の確認もなし

 あからさまに不審な引き受けかたをしている私達はきっと怪しまれているだろう


 しかしそれでも何の罠もなく引き受けるのならば

 それは世にも珍しいただのお人好しか、気の狂った者か どちらかのはずだ

 

 「ぁ あの、報酬は・・!?」


 「"信じて"ますから」


  最後に見せた私の顔は きっと優しい笑顔だったはずだ

 然り そういう顔を作る事に慣れているだけだ

 信じている という言葉は 優しく暖かい言葉に見えて

 実の所本当は恐ろしい表情も多々隠している事がある。

 私がずっとこの言葉を多様するのは

 まさしくその二面性をどこか自身と照らしあわせているからかもしれない


 家を背に、クリシスは無言で人間の男とその場を後にする

 入り口に置いてあったバイクはまだ無事に誰にも触られていないようだった。


  かくしてルイスの最初の仕事が幕を開ける

 入居から2日目の 早朝 慌ただしいスタートであった  



-ルイス 本通り-


ブロロロ・・


  バイクに火を入れ、依頼主と共に朝の町を駆ける

 荒れた道を削り走る轟音は私達と共に、まだ冷たい空気を斬り裂いていく

 目の前の景色は常に廃墟ばかりで、まだ町という感覚を得なかったが

 それも中心部に進むにつれて次第に景色の色は変化していく

 私達の拠点と町の中心は それほど距離があるわけでもないが

 やはり人の多い場所というのはそれだけ人の手が行き届いているし

 安心して寝られそうな建物も数多い


 彼が居なければ走って行ける距離ではあるが

 ミア程ではなくとも、私だって女だ ・・バイクがあって本当によかった。




 彼の指示を受けながら古めかしいバイクを走らせる

 エンジンの音が若干とおかしい気がするが、たぶん短い付き合いになるだろうから

 いつこれが止まっても特に困ることはないだろう エンジンが止まるかミアに壊されるかだ

 本通にもなると今には珍しく、食料店や酒場がちゃんと営業している。

 ヴェイグが巡回している町だからこそできる事だが、故にヴェイグの客も来る

 中年がなかなか度胸があったのもきっとそういう場所で生き抜いていたからだろうか


 しかし、後部の中年に尋ねれば 今回の原因はヴェイグではないらしい



 日の昇る朝 町の中心 そしてシンボルとも言える一際大きな時計塔の付近では

 朝から人々が売り物の準備などでせかせかと動き回る その群店の中の一軒

 私は中年の顔を一度確認してから、そこでバイクのスタンドを降ろした

  

ブロロロ・・・  ガコンッ


 回転数はゆっくりと回転数を落とし、鳥のさえずりが朝の静けさと共に訪れた。

 エンジンを止めた直後には確かに中で騒ぐ声が聞こえた。だがそれも最初だけ

 店の前で耳を店内に傾けた時には荒々しい声も何かが割れる音も聞こえない


 聞こえないが、同時に感じる 静けさと、荒々しさとの混ざりあった歪な空気

 腰に備えた拳銃の弾丸を一応確認し、バイクに刺した刀を片手に握りしめ

 中年の男にはここで待たせるよう指示した。


 「     」


 そして私は口を閉じる。

 例え相手がただの人間であろうとも、依頼は依頼だ

 『酔った暴れ馬を止める』という依頼を正確に果たすだけの 私は剣  

 早く済ませ、さっさとここから立ち去ろう



-ルイス中心街 酒場-


  店内は深い沈黙と硬直で冷え 割れたビンが一人で空しく"カラン"と音を立てている

 その中心には汚れた服を着た2人組みが なにやら1人の客に対して胸倉を掴み

 熱のこもった物言いで何かを口走っている。

 度々向けられる銃口に客は涙を流しながら白旗を上げているが

 その会話を傍聴していると、なにやら彼らの古傷を抉られたようだ。


 "非力なくせに偉そうな口叩きやがって・・"


 酒の入った彼らに対して、つい隣の客が口走ったが最後

 こういった流れになってしまったようだ。

 服装を見るに あれはルニアの言う軍人という奴だ。

 ヴェイグやフィックスの居ない時代に活躍していた保安部隊だとは聞くが

 彼らもまた普通の人間だ。今の時代で普通の人間が鉄砲玉で保安活動なんて出来やしない。


 「今までお前達を守ってたのは俺達軍人なんだぞ・・っ!?

  隣の国とっ 世界と戦って!! お前らを守ってやってたんだ!!


  それを・・使えなくなればそうやってすぐ見下しやがってっ!!!ぇえっ!?」



 周りの客や店員も恐慌し、震えながら物陰に隠れている

 人間同士で必殺の武器といえば銃 それを目の前にしては人間は怯えることしかできない

 ギリギリと、銃口を突きつけられる客人は枯れるほどの涙を流し許しを請う

 人の怒り 火のついた導火線は一度付けば簡単に止まることはない

 時々と机や椅子を蹴飛ばしながら 彼の力は次第に強まっていく


 周囲で心配そうに見守る彼らも 心配はしても動くはずがない  

 ここにいる皆人間だ。誰もが銃を前には自分の命が一番恋しいに決まっている

 自分を犠牲にして信念を貫ける者など 私は見たことがない。

 この世界で生きるに必要なのはいつだって優しさより冷徹さなのだ。


 そして突きつけられている彼は"殺さないでくれ"と、只そう願う事しか出来ないし

 彼には救いはない きっと私がいなければ彼はこの世と別れを告げていただろう。


 

パキッ


 床板を踏む音にさすがに興奮した彼らも気づく

 罵声も許しの声も目線も 皆ドアに集中し、空気が止まる。

 

 「   」


 目の前の人間を救いたい?それを自らに問うても、何の価値もない。

 唯報酬の為、ルニアの為でしかない。それ以外に何も感じやしない。

 涙流し許しをこう男の目線が私を見つめる その顔は荒れ地ではよく見る顔で 

 私は無言で元軍人達の輪に入り、視線を投げつけ

 茶色の革コートをを翻し、左手には長物を一つ 携えて

 私の眼はきっと、蒼く光を濁していた。


 「よぉ女 こんな所に一人お散歩かい?

  それ以上俺達の目の前うろうろされたら肉団子になってもしらねぇよ・・?


  綺麗な顔に免じて許してやる・・さっさと出て行きな・・ 」


 

 男の声は若干震えている

 脈拍が、血液が、アドレナリンが すべてが高ぶっている。

 私でなくてもきっとこの場の誰もがそれを感じていたはずだ。

 1歩1歩と足を前に進めていたが、ここで一度足を止める

 これ以上進んではいつ彼が指に力を込めるか分らないからだ。


 "客の口に銃口を差し込む男が一人 そして私に銃を向ける男が一人か"


 男はアルコールと古傷を抉られた事で理性のコントロールが出来ていない

 もう一人の男だってそうだ、同調して頬をピクピクと上げながら拳銃を私に向ける。

 これでは私が素直にまわれ右をしたって後ろから撃ち抜かれない。

 ならば説得はどうだ、いや・・それも止そう。今の空気はもう限界を超えている

 それに私は他人と話す声を持っていないし・・苦手だ。


 "そう、私が得意なのは" 

 

  私は眼を細めた その時にはすでに"私はそこには居なかった。"

 居るのは彼らの後ろ

 誰もが私を見失い、私が消えたことにすら気づいていない

 瞬間 瞬く間。その言葉通りに左手に持つ鞘に刀をしまう。


カチンッ


 彼らが、皆が私が消えた事に気づいた頃 私に向けられたはずの銃は

 彼の手から"手首"ごと落ち、後ろの私に気づいて振り向いた彼の首は

 ゆっくりとスライドするように頭も仲良く床に落とした。


ゴトッ 


 彼の顔は、体から落ちても変わらず

 困惑したような表情のまま口から血を垂れていた。


 「ッ!?」


 慌てたもう一人の男が命乞いをする客人に向かってトリガーを引こうとするが

 残念な事に彼の拳銃は私が 今 奪った。

 私を見る彼の表情がある意味で滑稽で、わざと見せびらかすような仕草で

 彼の拳銃の弾数をゆっくりと確認する。

 目の前の彼は開いた口を閉じれずにいる。彼にとっての瞬く間まさしくこれだ。

 その瞬いた一瞬で仲間の首が落ち、構えた武器も奪われてしまったのだから 


 「ぉ・・ぉぉっおまえ っ!!  ヴェッヴェイグだな・・・っ!!?!?」


  途端 空気が荒れた。

 目ではなく、感覚で感じたそのざわめき

 私は紫の目を持つ普通のヴェイグとは違う青い眼をした特徴がある故

 気づかれにくいが、ヴェイグの存在はやはりどこでも同じ扱いだ

 ヴェイグ支配の町といえどやはりどこにいても色もの扱いをされ、距離は溝になる



  そうだ。この感覚だ。

 ずっと昔から感じ続けたこの溝だ。

 目の前の男だけじゃない、ここにいる人間皆が同じ目をして私を見ている。

 合間見えない溝 ここに立つ私と彼らの間に感じる

 目には見えないひどく開いた溝を・・

  

 "・・ぅ・・  うぅっ ・・ひっ く・・  ぐず・・"


 "この・・っ 化け物・・!!" "来るなっ それ以上近寄るなぁっ"


 手を伸ばし続けた記憶がセピア色に脳裏を過る

 その映像を私は脳裏で鑑賞するほどに

 現実の私の眼は光を失っていくんだ

  

ドッ


 足で床を蹴り飛び 目の前の男が客人にトリガーを引く前に 気づく前に

 彼の顔を鷲掴み、彼から奪った拳銃を脳天に一撃


ドンッ 

 

 トリガーを 引いた。

 鉛を打ち込まれた彼のからだはゆっくりと手足を下ろし、静止

 周りの人間は命が救われた、だが私の心は閉じていく。

 ずっと向けられてきた視線だ。いつものことだ そう自分に言い聞かせて

 この瞬間 仕事は完了したのだ そう心に呟きながらも

 私は少し、うつむいていただろうか。


 外で待つ依頼主が私の顔をみて一瞬と困惑した その表情が余計につらくて

 私は何の言葉もなしにバイクに跨り、エンジンに火を入れた。


  

  沈黙した店と そして私の心

 アクセルを絞る手にどことなく力がこもる。

 もう慣れた。という私と、視線がずっと下を向いている私 どちらが本当だろうか 

 彼らの視線は今でもまだ焼きついて離れなかった。

この小説には残酷な描写が多数描かれております。

そういった物が苦手な方は注意してください。


尚、この小説はアメーバブログにてキャラクター毎の文字色並びに

画像や、絵 3DCGを挿入したバージョンがあります。

そちらのほうも興味が湧きましたら、下記のアドレスからどうぞ。


http://ameblo.jp/elysium868/

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