少年と私と不安
「亘くんっ、・・・・、良かったの?・・さっきの子、放って来ちゃったけど・・・・・」
「・・・・・・・」
黙ったままの亘くんの後ろ姿を見る。
友達に会ってしまったのがいけなかったのかしら?それとも、友達の名前を聞いたのがいけなかったの・・・?
私は、混乱したままの頭で必死に考える。
けれど、考えても考えても答えは見つからなくて、結局、何も分からないままで、私は亘くんについて行くしかなかった。
「・・・ねぇ、どうしたの?何か私、いけない事した?」
「・・・・」
「黙ってたら、分からないわよ・・・」
今まで歩いていた亘くんの足が止まる。私は慌てて亘うんにぶつかるまえに立ち止まる。
「・・・・・綾女さん、」
「・・・何?」
前を向いたままで、亘くんの表情は分からない。
「・・・・?亘くん?」
「・・・・・・」
私の名前を呼んだまま何も言わない亘くんを不審に思い、亘くんの後ろ姿に訝しげな視線を向ける。
「・・俺じゃなくても・・・他の奴でも・・・・綾女さんは、助けてた?」
「・・・え?」
「俺じゃなくても、もし・・・あの道端にいたのが・・・俺じゃなくても、綾女さんは助けてた?・・・・家に連れて帰って、手当した?」
「・・亘くん?」
どうしてそんな事を聞くの?
そう聞きたいけれど、聞けない。
「ねぇ、綾女さん・・どうなの?」
「・・・そうね・・・きっと、・・亘くんの時と同じ様にしていたと、思うわ」
「・・・っ」
私の手を握っている亘くんの手が少し汗ばんできているのが分かった。
「でもね、ここまで面倒は見ないわ」
「・・・綾女さん?」
「他の人が倒れてても、こんなに世話は焼かないわよ。手当して、はい終わり。気を付けて帰ってねーって、」
「・・・・・・」
「・・貴方だからよ、亘くんだから、私は家に迎え入れたの」
他の人だったら、きっと私はここまでしなかった。亘くんのあの辛そうな、苦しそうな表情を見たから、だから、私は亘くんに言ったのよ。「この家にいなさい」って。でも、これは同情かもしれない。かわいそうだったから、なんとかしてあげたいと思ったのかもしれない。けれど、これが亘くんじゃなかったたら?・・・きっと、見て見ぬふり。
「他の人じゃなくて、亘くんだったから・・・亘くんじゃなきゃ、助けなかったわ」
「・・・!!・・・・・綾女さん」
「・・・なぁに?」
「・・・・・・・・・ありがと」
何が?とは聞かなくても分かった。不安だったんだ。このまま私のそばにいていいのか、迷惑なんじゃないかって。私は少し亘くんが分かった気がして、頬を緩めた。
「・・・ふふっ、どういたしまして」
やっと、こっちを振り向いた亘くんの表情は、迷子になっていた子供が親に会えて安心した時の表情と、まったく同じように思えた。




