Episode04 右手に剣を左手に短冊を
ジェラートとは関係なしの季節限定の小話(七夕ver)
ヒューズ×レナス編
とある島国では、7月7日に願い事をする叶うという言い伝えあるらしい。
そんな話が囁かれるようになった7月のある日。ガリレオ騎士団第4小隊の隊室では、「願い」に敏感な隊長が、早速噂の出所を探り出し、言い伝えの詳細を聞き出していた。
「だから、織姫と彦星って言う恋人同士がだな……」
「人様の恋路などに興味はない! その願いを叶えるという部分だけ教えろ!」
噂の出所ことヒューズを椅子に縛り付け、その胸ぐらを掴んでいるのはレナスである。
「何でそんなにムキになる」
「叶えたい願いがあるからだ!」
「男か」
「他に何がある!」
何もないのかよ、とツッコミたいのをぐっとこらえて、ヒューズは渋々話を進めた。
「短冊って言う紙に願い事を書いて、笹って言う木につるすんだ」
「たんざく? ささ?」
「どっちもフロレンティアにはないし、とりあえず紙に願い事を書いて、そこら辺にある木にでも吊せばいい」
「願いを書いた紙を吊す、か」
いつの間にか器用に縄をほどいたヒューズが、レナスの机の上に置かれたメモ帳を手に取る。
「これを縦に細長く切る」
「うんうん」
「で、上の部分に穴を開けて紐を通す」
「穴?」
「後で開けてやるから、とりあえずここに願い事を書け」
そう言って説明するヒューズと、彼の側で食い入るように説明を聞いているレナス。
パーソナルスペースを完全に割ったその距離に、周りで見ていた騎士達がこっそり囁き会う。
「今更星に何て願わなくてもって思うのは私だけかしら」
「それを言ったら隊長怒りますよ」
騒ぐ騎士達にレナスの副官がそう突っ込んだが、短冊に夢中の隊長が、周りの視線に気付く様子はない。
「できた!」
そう言ってレナスが掲げた短冊に書かれていたのは一言、『結婚』である。
「デカイ字だな…」
「星に届くようにと思って」
得意げにいうと、レナスは残った方の紙をヒューズに手渡す。
「ほら、あんたも何か書きなさいよ」
「別に願うことなんてない」
「じゃあ私のために願いなさい」
ヒューズに無理矢理ペンを持たせ、レナスはその腕を掴む。
『レナスが結婚出来ますように』
無理矢理書かされたその字はヨレヨレだが、レナスは満足そうに腕を放す。
「お前、本当にひどい女だな」
「願いがないなんて寂しいじゃない。だからあたしのお願い貸してあげたのよ」
どこまでも自分勝手なレナスには、もはや苦笑するほかない。
「さあ、木に吊しにいきましょう」
最後まで強引なレナスは、ヒューズを引きずって部屋を出て行く。
それを見送った騎士達は、隊長に続けとばかりに自作の短冊を作り出す。
「仕事中なんですけど」
キアラのつぶやきを聞く者は、勿論誰もいなかった。
右手に剣を左手に短冊を【END】