Episode03 立派な騎士になるために
団長×キアラ(7歳)編
(騎士の初恋編のネタバレ含みます)
「さあ、好きなのを選んで良いんだぞ?」
お父さんが好きなのを買ってやると、馴染みのジェラテリーアに娘を連れてきたヴィートは高らかに宣言する。
だが今年7歳になるキアラは「いらない」の一点張りである。
仕事が忙しく、こうして二人きりで時間を取れたのは半年ぶり。
さすがにこれは嫌われているようだと、ヴィートは思わずジェラテリーアの壁に縋り付く。
「クリスティーナ。ついに俺は娘にも嫌われてしまったよ、俺には笑顔すら見せてくれないよ」
年甲斐もなく泣き出すヴィートに、彼の娘が向ける眼差しは侮蔑である。
妙に大人びたその視線はヴィートの亡き妻にそっくりで、店主のジュリオはおかしそうに見ていた。
「じゃあ、俺がオススメをもってやろうかな」
自分の世界から戻ってこないヴィートの変わりに微笑めば、キアラは慌てて首を横に振る。
それから子供用の台に乗り、彼女は声をすぼめた。
「私、もうジェラートは食べないって決めてるの」
「どうしてだい?」
「騎士は、子どもみたいにジェラートなんて食べないでしょう?」
「お嬢ちゃんは騎士になりたいのかい?」
「うん。だから、ジェラートは我慢するって決めたの」
子どもらしい考えに思わず吹き出したのはジュリオ。
「安心しな、この店は騎士御用達のお店だ」
「本当?」
「何だって、騎士団長が毎日来てるからな」
ジュリオの言葉に驚き、それから今更のようにキアラはガラスのケースに目を向ける。
「我慢しなくても、騎士になれる?」
「もちろん」
「じゃあ、お父さんが食べてるのと同じの、食べたい」
同じのを食べて、自分もお父さんみたいな立派な騎士になると告げるキアラにジュリオは思わず顔をほころばせた。
もし聞こえていれば本人は感動のあまり気絶したに違いないが、運悪くヴィートはめそめそしたまま人の店の壁をカリカリひっかいている。
「こりゃあ、娘の方も立派な騎士になりそうだ」
苦笑しながらジェラートを差し出せば、ヴィートが切望した花のような笑顔がそこにはあった。
団長×キアラ(7歳)編 [END]