蒼海
「分かりました。ライザ君の気持ちはごもっともですものね。ただし何か危険を感じたら迷わず引き返してください。それが例え道中であってもです」
「...わかった。善処する」
俺の同意が取れたレイダは事務的な対応に移り、あっという間にクエスト受注書を発行してしまった。手際の良さはさすがと言ったところか。
「レイダさん、ありがとう」
「これがお仕事ですから。それよりサタナ大陸行きの定期船は港町オースより出ているのはご存知でしょうか?」
何となく聞き方に違和感を感じたので俺は聞き返していた。
「それは知っているけど...何かあるのか?」
「ご存知の通りここ最近になってドム大陸に魔物の数がとても多くなって来ています。その影響なのかどうかは不明ですが、ドム大陸とサタナ大陸を分けている蒼海がとても荒れやすいという報告も上がって来ています。幸い定期船はとても頑丈ですし大きいので心配はないですが、今まで蒼海が荒れたという話は聞いたことがありません。なのでくれぐれも命を大切にしてくださいね」
なぜただのギルドの職員がここまで俺のことを心配してくれるのだろうか。思えばマギカも心配してくれてると言っていたっけか。
「あのぉ」
後ろから声がしたので振り返ると順番待ちの冒険者が声をかけてきていた。いかん、時間を取りすぎたか。
「悪い、時間を取りすぎた。...じゃあレイダさん行ってきます!」
レイダは一度こちらに笑顔を向けると冒険者の対応に追われていった。そして走馬灯は終わり、思考は現実へと引き戻される。
ーーーザァアアアア!!ザパァ!!
「ごぽッげほげほ!くそ...なにが定期船は頑丈だから大丈夫だよ、腕も体も感覚がなくなってきた...もう目も開けてられない」
俺はあの後、宿で一泊したのち定期船に乗船し、無事サタナ大陸へと向かい始めた。初日は特になにもなく蒼海も澄んでおり、穏やかな航海となった。だが2日目に入ってから徐々に雲行きが怪しくなってきて、とうとう天気が崩れてしまった。
揺れが激しすぎて酷い酔いに苛まれ、船内にいられたものではないので、ほんの少しだけ外の空気が吸いたくなり、雷雨にも関わらず外に出た時だった。
最初は何かの見間違えだと思った。天気の影響もあってか、とても視界が悪くなっていたからだと思った。だから何かの見間違えであってくれと思った。
それは竜のような、形容し難いなにかだった。とんでもなく大きく、定期船と比べても負けないくらい大きく、それが定期船の隣で張り付くように存在しており、海から体を半分出して、尻尾のようなものをちょうど船に振り下ろす瞬間だったのだ。
それが船に叩きつけられた瞬間、外に出ていた俺は凄い勢いで海に放り出されてしまった。水面に叩きつけられるまでの数秒が無限のように感じてしまう。
瞬間、俺は海にのまれた。冷たく、暗く、耐え難い苦痛が襲ってくる。なんとかもがいて水面に顔を出すと、そばに何故か大きい木材が浮かんでることに気が付き慌ててそれに掴まった。
俺は船の姿を探したが、すでに船の形は跡形もなく、いま自分の掴まっているものの正体に気付いてしまった。そして海に放り出されたのは俺だけじゃなく全員だった。何故なら船は跡形もなくなっていたから。俺が掴んでるのは船の木片だった。




