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幸せの竜亭2

「マスター?ライザくんですよ。いつも坊やなんて呼ぶの本当に良くないですからね」


 たしなめられたマギカは若干顔をしかめつつもレイダの指摘に対して素直な態度を見せる。


「ああもうわかってるわよ。ライザね、ライザ。うちじゃ有名人だから覚えてるわよ。それで?そのライザはなぜここにいるのかしら」


 マギカは俺に真っ直ぐ体を向けると吸い込まれそうな瞳を俺に合わせてきた。正直おれはこの人があまり得意ではない。というのもどこまでも心の内を見透かしてるような錯覚がしてくるからだ。そんなことはないと分かっているはずなのにどうしても気になってしまう。


「なんか私が気に入らないって顔してるわね」


「やっぱ俺の心読めたりします?」


 心で思っていたことを思わず突っ込んでしまい、言ってしまってから慌てて後悔した。やばい怒らせてしまう。だが当のマギカは面白そうに笑っただけだった。


「坊やは分かりやすいのよ」


「マスター」


 じろりとレイダに睨まれるマギカ。んん!と咳払いをして、俺の返事を待つように再び目線を合わせてきた。


「...サタナ大陸にて新しくダンジョンが見つかったと聞きまして。新しいダンジョンってことは色々と稼げそうだなと思っていたのですが、最近ギルドが出してるこの募集を見掛けたんです」


 そう言って俺は胸のポケットから一枚の紙を取り出した。そこにはギルドからサタナ大陸の前人未到ダンジョンを調査を募集すると書かれていた。

 参加資格はEからSSSまで。もちろんSSSなんて見たことはおろか、聞いたこともないがつまるところ最低ランクより上なら誰でも挑戦する資格が与えられるというものだった。

 しかも旅で使うことになるだろう定期船の旅費などは全てギルド持ちと来た。まぁギルドも国から褒賞などを貰っているのだろうが、冒険者にとっては破格とも言えるクエストだった。

 ダンジョンにおいて見つけた宝は基本的に見つけた冒険者の物となるらしい。それも俺がダンジョンに行くことを決めた要因の一つだった。


「ああ、それね。やめといた方がいいわよ」


 一瞬言われたことの意味が分からなくて思考が止まってしまった。え?ギルドが募集してるんじゃないのか?なんでギルドマスターのマギカがそんなこと言うんだろうか。


「えっと...それは、どういう」


「察しが悪いわね。アンタが行って生きて帰られる保証がないって意味よ。」


 言いながらマギカはレイダに目をやる。俺もレイダの顔を見るが、レイダは一瞬こちらに目をやり、申し訳なさそうに目線を外してきた。


「いい?確かに参加資格のランクは幅広く設定はしてあるわ。それが国王からのオーダーだからね。でも私の見立てではあのダンジョンはそんな生優しいものじゃない。少なくとも私が知らなかったというのが何となく引っかかるのよ。明らかに人為的に存在が隠匿されていた"臭い"わね。レイダ、あとは頼んだわよ」


 そう言いながらマギカは俺の返事を待たずにカウンターの側を通り、ギルドマスターの部屋へ通ずる階段へ歩き始めた。その背中に俺は思わず声を掛ける。


「俺はもっと強くなりたいし冒険がしたいんです」


 その言葉を聞いたマギカは一度だけ足を止め振り返ることはせずに俺に返事をした。


「...勝手になさい」


 今度こそマギカは階段を上がって消えていった。マギカが去ってやっとポツポツと竜亭に喧騒が戻ってくる。レイダは複雑そうにマギカが消えていった階段を見つめていたが、ややあって俺に向き直ると真剣な顔をして尋ねてきた。


「マスターも言葉遣いはあんな感じですが、ライザ君のことを考えて言ったのだと思います。現にうちで依頼を受けてサタナ大陸へ渡って行った冒険者24人中24人がまだ戻って来ていないんです。マスターも大分それもあってかピリピリしていまして...。ライザ君、本当に行く気なんですか?」


 レイダは真剣な顔で俺を見つめてくる。マギカの言葉も確かに気にはなるが、俺にはどうしても強くなりたい理由があった。もしかしたらそこに行けば何か変わるかもしれない、そんな期待を俺は抑えることができなかった。


「レイダさん、せっかく心配してくれたのにごめんなさい。でも俺にだって夢はあるんだ。冒険者になったからには死ぬ覚悟だっていつも持って臨んでる。俺はこのクエストを受けようと思う」


 たっぷり体感20秒はレイダの目を見つめ続けた。レイダもその間は視線を逸らさずにジッと真剣な眼差しで見つめ返してきた。やがてレイダは瞳を閉じるとため息混じりに返事を返してきた。

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