幸せの竜亭
「ライザくん、いらっしゃい」
「おはよ、レイダさん。今日も賑わってるね」
レイダは長いストレートの金髪を軽くたくしあげながら苦笑いを浮かべる。それにしても相変わらず綺麗な金髪だよなぁ。さらさらだし、俺って何でこんな黒髪なんだろう。
「君もわかってて来たんでしょ?もうギルドじゃその話で持ちきりなのよ。最近、魔物が増えてきていてね。ドム大陸にはダンジョンがないんだけど、やっぱり相互関係があったりするのかしら...」
言いながらレイダは遠い目をした。よっぽど最近は忙しくなっているらしい。ギルドが潤えば俺たち冒険者の懐も温かくなる。是非とも竜亭には頑張ってもらいたいところだが...。
本題に入ろうとして声を出しかけた時、ギルドの扉がバンッ!と大きく開け放たれた。振り返ると幸せの竜亭の支配者であり、絶対者であり、この大陸でも有数の有名人とされているギルドマスター、グランマギカが扉を開け放って入ってきた。
「ホンッット!!!あのジジイ(国王)たら私のギルドを何だと思ってるのかしらッ!?ただでさえ魔物が増えた影響で人手も猫の手もドラゴンの手すら足りないってのに!!」
とても大きな声で怒鳴りながら肩を怒らせこちらのカウンターの方へ歩いてくる。とても目立っている。喧騒に包まれていたギルド内は突然の支配者の登場で一時的に静まり返っていた。
「へへっマギカさん、お日柄もよく今日もとても綺麗でとてもきれ」
命知らずなよっぱらい男が1人、マギカに向かって声をかけた。あまりにも無謀すぎる。特に今マギカに下手な絡み方をするのは命知らずを通り越して生き急ぎ野郎でしかないだろう。
マギカは立ち止まると声を掛けてきた男のそばにゆっくり近付くとその男の首に手を伸ばす。既に男と朝っぱらから飲んだくれていた周りの人間達は退避していた。みんな命は惜しいものなのだ。
「うっさいわね、気持ち悪い声で声掛けてんじゃないわよ。噛みちぎられたいの?」
「ガッ!ぐひ!ぎッ、ご、ごべんなさい!ぐぐッ」
マギカはとても身長が高い。一般的な男性が170リージュに対し、マギカは明らかに175リージュ超えていた。そしてこの国ではまずお目にかかることのない真紅の色をした長いウェーブのかかった髪の毛。とても端正な顔立ち。
切れ長の瞳に見る人を魅了して止まない、"ドラゴンアイ"と呼ばれるおよそ人間じゃないその瞳の色。
細身だが、出るところはしっかり出ていて人を虜にするその圧倒的なプロポーション。
グランマギカはこのドム大陸で唯一とされる人と竜のハーフ竜人であった。
マギカは元々ドム大陸の人間ではなく、サタナ大陸から海を渡ってこの街にやって来たらしい。詳しい経緯は知らないが、竜とあまり縁のないこのドム大陸において竜の名を冠するギルドを立ち上げているのはそれなりに理由はありそうだ。自分が竜人だから名前も竜なのですかなんて怖くて尋ねる気も起きないが。
片手で男の首を掴んで持ち上げたマギカはそのまま男を無造作に放り投げてみせた。
「ぎゃッ!ぐ...ぅ...」
壁に当たり男はそのまま気を失ってしまう。それを見ることもなく。再びこちらに歩き出した。もうマギカにちょっかいをかける者はいなかった。
「マスター、おかえりなさい。如何でしたか国王様との会談は?」
カウンターの前まで来たマギカは憮然としてレイダに返事を返す。よほど怒っているのだろうか、マギカの体から熱気が放たれているような錯覚に陥った。
「相変わらずあのタヌキ(国王)ったら人の数も有限なのに、さらに人員をサタナ大陸に送って新しいダンジョンに潜らせろって言ってるわ。それで人がいなくなって冒険者が居なくなったら、最近増え始めてる魔物はどう対処するのよって聞いたら、そなたがいるだろうと来たものよ!!」
マギカは片足をダンッとその場で地面を踏み抜くかという勢いで踏み締めた。
この国において、国王に対しそんな口を聞けるのは、マギカくらいだろうと話を聞きながら俺はそう思った。
マギカはギルドマスターでありながら、この世界で有数とされているランクSSを冠する生きる伝説だった。それもあってか、何かあればエルバースの国王からオーダーとして、依頼や個人的な願いを頼まれることも少なくはないそうだ。
ふとそこで俺に気付いたようで若干見下ろしながら俺に対して声を掛けてきた。
「何よ。黒髪の坊やじゃない。アンタこんなとこで何してるわけ?」
黒髪坊やのあだ名は99.99%マギカが原因である。この人がそう呼ぶから周りも面白がってそう呼んでくるのだ。俺が返事するよりも先にレイダが反応した。




