航海で後悔?いいや蒼海、ああそうかい!
まさか成人してすぐに死ぬことになるかもなんてな。
もっと生きていたかったぜ。
にしても寒すぎる。もう腕も限界だ。このまま手を離せばーーーーーー
突然だが俺はおそらく死ぬことになる。いきなりこんな言葉を聞いた人間は戸惑うかも知れないが、今の俺の状況的に悠長に構えてる暇はない。
ーーー暇がないのにここまで冷静なのはもはや焦る気力も失われつつあるからだった。
ザバァアアアアア!ザバァ!
「げほ!あぶ、げほ!うぇっ、水が口に入ってくる...死ぬ...げほ!」
俺はひとり嵐の海で木の板にしがみつき、漂流しながら半ば走馬灯のようにどうしてこうなったのか思い出していた。
話は遡ること数日前、俺は船に揺られながら水平線をずっと眺めていた。
ドム大陸から西の方角、海を隔てて数日かかる場所に大陸全体で別名竜帝国と呼ばれるサタナ大陸は在る。
そんな場所へ首都エルバースより南西に位置する港町オース。そこから出ている定期船で向かっていた。
理由はサタナ大陸の北東、ちょうど地図にしてみるとサタナ大陸はドラゴンの姿に似ていて、北東部分、ドラゴンの目に当たる位置で、前人未到のダンジョンが発見されたという噂が海を越え大陸を越え、俺の住むエルバースにも轟いていたからだ。
因みにだがサタナ大陸はドラゴンの形をしていて、ドム大陸はというと、全体的に見れば楕円形であり、サタナ大陸とは別の意味で不思議な形をしていたりする。
俺はと言うとその日暮らしの冒険者をしていた。冒険者はギルドで階級に応じた依頼を受け、それでクエストをこなし、報酬を得て自身の糧とする言わば命を売りにしてる死にたがりの職業だ。
そんな中、俺はギルドランクEのパッとしない、煌びやかな騎士や英雄のような人間とは正反対だった。
この世界においてギルドランクとはFからSSSまで存在しており、これらは全ての大陸である程度は共通認識として扱われている。※サタナ大陸に存在する帝都フランベルジュにもあるギルドでは少し勝手が違うらしいが......。まぁこの辺は似たり寄ったりだ。
そしてその中でも現存している人間でSS以上に辿り着いているものは片手の指ほどしかいないと言われている。
そうして荒事に向いていない一般的な人間がランク的にはFに当てはまり、つまるところ俺は"弱い"ってことだった。
ところが俺は強さとは裏腹にちょっと街では有名人だったりした。
生まれ付きだったが、なぜかこの世界では珍しい黒髪と黒目を持っていて、他の町行く人たちは皆が金髪で金色の瞳で、そんな中で黒髪黒目は、あまりにもそれだけで浮くような存在なのだが、如何せん実力は平均的いや平均より下回るような感じだったので、目立つけどパッとしない奴というなんともギャップを抱えた存在としてギルドじゃちょっとした名物として扱われているのだった。
ーーこれは船に乗る前日のこと、その日はダンジョンが見つかったと耳にして、とても気分が良く足早にエルバースの下町に存在しているギルド、通称"幸せの竜亭へ向かっていた。そうしてる内に目的の場所に着いた。城下町を下りあまり治安がよろしくない下町の一角に居を構えられているギルドの扉を開けて入る。
「お、見ろよ。来たぜ。奴だ、黒髪坊やの登場だぜ」
「ぷ、やめろって、本人も気にしてんだから...よ...っ...ガハハハ!!!」
「.........」
もう"こういう"のは慣れているので無視してカウンターへと足を運ぶ。受付嬢のレイダが俺の姿に気付くと笑顔を見せた。




