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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: しのぶ

「あの震災からもう14年か……」


 俺は海に釣り糸を垂れながら言った。


「そうですね……」


 隣では同僚の佐藤が同じように釣りをしていた。


 歳は離れているが、数少ない釣り好きの同僚なので、いつしか俺は佐藤と釣りに行くようになったのだ。


 俺は佐藤に言った。


「そう言えば佐藤って東北の出身だよな。何か思い出したりするのか?

……あっ悪い。話したくないならいいんだけど」


「いや、いいですよ。確かに大変でしたけど、俺は地震にはそんなにトラウマないですから。まあ大変だったのは確かですけどね」


「そうか……」


 そうは言ったもののその話は続かず、俺は吸った煙草を灰皿に落として言った。


「それにしても喫煙者の肩身が狭くなったよなあ……煙草も値上がりしてるし。まあ煙草なんて百害あって一利ないからやめたほうがいいってのは分かるんだけどさ」


「そうですね……」


 そのまま俺達は黙っていたが、しばらくして佐藤が独り言のように言った。


「でもね……少しはいいこともあったんですよ」


「え、何?煙草の話?」


「いや、地震の話です。俺は当時小学生でしたけど、当時は色々あって親戚の叔父の家に預けられてましてね……しかしこの叔父さんが毎日俺に辛く当たってまして……まあ虐待と言っていいと思いますよ」


「えっ、そ、そうなのか……それは大変だったな……」


「当時俺は毎日が辛くて、毎日叔父さんのことをあいつ死ね!と念じてましたよ。地震があった日も、俺は家に帰りたくないからできるだけ長く学校に残っていよう、いやでも帰りが遅くなるとまたあいつの機嫌が悪くなるから怖いな……なんて思ってました。

そんな時に地震があって、俺はしばらく避難所生活になりましたけど、そこで俺の家が流されて叔父さんは行方不明になったと聞かされました。

後になって家があったところに帰ってみたら、家があったところは流されてガレキの山になってました。それを見た時は、正直言って開放感を感じましたね。


もちろんそうは言っても、それからの生活はやっぱり大変でしたし、今は行方不明になっていても、いつか叔父がふらっと帰ってくるんじゃないかと思うと怖かったですね。夜中に一人で寝てる時なんか、今にも叔父が帰ってきてドアを開けるんじゃないかとびくびくしてましたよ。

でも結局そんなことはなく叔父は帰らないままで、俺も成人してこうして県外に働きに出るようになったから、今はあまりそんなことも考えなくなりましたけどね。


もちろんだからと言って地震があってよかったなんて言うわけじゃないですよ。実際それが惨劇だったのは確かですし、俺もその後の生活は大変でしたからね。でも……俺にとっては少しはいいこともあったってわけです」


「そ……そうなのか。そりゃ大変だったな……」


 俺は言うべき言葉が見つからず、また煙草を吸い始めた。佐藤も黙っていたが、しばらくしてまた言った。


「すいません。やっぱり今の話は聞かなかったことにしてください。こんなことは言うべきではなかったんだ」


「ああ……忘れることにするよ」


 そう言って、俺達はまた黙って海を眺めながら釣りをしていた。

※フィクションです

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