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第8話 ツンデレ美少女と、朝の体温測定と朝食作り(と、正式採用の話)

 ──ん。


 目が覚めると、視界の端に柔らかな赤色の髪が揺れていた。ほんの数センチ先に、ルシアの寝顔。静かな寝息と、わずかに揺れる睫毛。


(……近い。てか、布団……取られて少し寒い……)


 俺の肩口のあたりは完全に布団からはみ出ていた。隣で寝ているルシアは、ちょっとだけ寝返りをうち──


 ぴと。


(うおっ!?)


 細い腕が俺の胸元に乗っかってきた。顔も……さらに近づいてきて──


「……んん……素材のくせに、あったかい……」


 寝言までツンデレ仕様かよ!?


 どうすればいいか悩んでいると、ルシアの睫毛がぴくりと震えた。


「……な、ななな……なんで近くで寝てんのよっ!?」


「いや、お前が隣で寝ろって言ったんだろ……!?」


「か、勘違いしないでよね! あれは魔力測定のためなんだからっ! そ、それに別に、実験材料に触られたってどうってことないし!」


「いやいや、寝ぼけて抱きついてきたのお前だからな!?」


 完全にお約束のやり取りだ。慣れてきてしまっている自分がちょっと怖い。


「……ま、まあ、せっかくだから! ついでに、今朝の体温測定もしてあげるわよっ! 感謝しなさいよね!」


「まだその理屈やるの!? 寝起きから布団の中で測定する必要ある!?」


「朝はね、魔力量に変化が出やすいの。だからこそ、毎朝の測定が重要なのよ!」


「なんで体温測定が、朝の布団行事みたいになってるんだよ……!」


 俺が抵抗する間にも、ルシアは当然のように再び腕を絡め──新たな一日が始まった。



 階下から控えめにノックの音が響いた。


「失礼します、ルシア様。朝の準備をしに参りました」


 現れたのは、年配の女性。優しげな笑みを浮かべたその人は、別宅の管理を任されている村人のフレイさんというらしい。

 もともと今回のような滞在時の食事の支度は、館の管理の契約に含まれている仕事らしく、従者たちが詰所で待機している今も、フレイだけは通常通りに訪ねてきたようだった。


「朝食の準備、すぐにいたしますね」


 そう申し出た彼女に、ルシアはなぜかそっけなく言い放った。


「い、いいわよっ。朝食くらい、自分たちでなんとかするからっ!」


 フレイは少し驚いたように瞬きをしたが、チラリと俺に視線を向けてから、すぐにルシアに視線を戻し微笑んだ。


「では、お言葉に甘えて。何かあればいつでもお呼びくださいませ」


 礼儀正しく一礼して、彼女は退出していった。


「……え、いいの? あの人に任せた方が確実じゃ……」


 俺が尋ねると、ルシアはぷいと顔をそらしてつぶやいた。


「べ、別にあんたに食べさせるためじゃないけど……た、たまには練習もかねて、料理くらいできるようにしておこうと思っただけよ!」


「じゃあ……作ってくれるのか?」


「い、いいから黙って待ってなさい!」


 ──5分後。


 焦げたパン。焦げた卵。焦げた鍋。そして、なぜか溶けかけたスプーン。


「……なんでこうなるのよ!?」


「むしろどうやったらこうなるのか俺が聞きたいわ!」


 その後、結局俺が台所に立つことになった。

 焼きパンに、簡単なオムレツ。ハーブの入った即席スープ。異世界食材を使った割には、我ながらいい出来だ。


「……けっこう、美味しいじゃない」


「お褒めに預かり光栄です、お姫様」


「べ、べつにアンタの腕を褒めたわけじゃないんだからね! ただ、まあ……ギャップがね。ギャップって大事よ?」


「それはそれでちょっと嬉しいな」



 食後、コーヒー(っぽいハーブ茶)を飲んでいると、ルシアが唐突に言った。


「今後、実地訓練の一環として、あなたには私の身の回りの世話を任せるわ」


「……え?」


「あなた、魔力はないみたいだけど、わりと便利だし。まあ、雑用担当ってことで!」


「いやいやいや、完全に家政夫ポジじゃん!」


「違うわよ。実験助手よ。ついでに雑用もこなす、ちょっと頼れる補佐って感じ?」


「どんどん雑に扱われてる気がするんだけど」


 ……とはいえ、ルシアと一緒にいられるなら、それでも悪くない、のかもしれない。


「とりあえず、ここ出て、そのままフェルナードの本館に戻るから、荷物まとめて」


「えっ、本館ってもしかして領主館……?」


「そうよ。あなた、召喚されてからずっと疲れた顔してるじゃない。 あそこならちゃんとしたベッドもあってゆっくり休めるし、いろいろ便利なんだから!」 


「なるほど……」


「で、体力が戻ったら――正式に雇って、その、身の回りの世話くらい……任せてあげてもいいからっ。感謝しなさいよね!」


 魔力量測定から始まり、体温測定、朝食作り、身の回りの世話まで。


(俺の異世界生活、勇者なんかじゃなくて──)


「完全に家政夫だな……」


 でも、悪くない。


 この世界で、ルシアと一緒にいる日常が、少しずつ形を成していく気がした。

後書き

今回の話で、主人公とルシアの関係に少し変化が生まれました。このあたりで一区切りとすることもできる展開かもしれませんが、せっかくなので、もう少し続けてみたいと思っています。


もし本作を少しでも「面白い」「続きを読みたい」と感じていただけた方がいらっしゃれば、感想や評価、ブックマークをいただけるととても励みになります。どうぞよろしくお願いします。

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