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第5話 ツンデレ美少女と、料理対決(材料はなぜか爆発物)

 フェルナードの街から帰ってきた俺とルシアは、地下の住居――いや、アストレイン家の第一研究拠点に戻っていた。


 初めての異世界での外出、パン屋での毒味任務、……色々と精神的に疲れる一日だった。リビングのソファにぐったり座り込むと、ルシアがなぜか、ふふんと胸を張って宣言した。


「今日は、特別に料理を作ってあげるわ!」


「……は? いつもみたいに、あの……ゼリー状の保存食じゃなくて?」


「失礼ね。《魔素凝縮ゼリー》は、栄養バランスが最適なのよ! 味がないだけで!」


「いや、それを“食事”と呼ぶのはどうなんだよ……けど、やっとまともなものを食べられるならありがたいが」


「べ、別にあんたのためじゃないけど! あんたが空腹で倒れたら、こっちの実験に支障が出るのよ。だから仕方なくよ、仕方なく!」


「実験効率のため、ね……」


「そうよ! だから、文句言わずにありがたく食べなさい!」


 こうして、ルシアの料理スキルに命を預ける羽目になった。



「まずは、魔臭根ね!」


「それ絶対やばいやつだろ!」


 ルシアは保管庫から、紫がかった根っこを取り出した。見た目も臭いもどう見ても食材ではない。


「熱を加えれば匂いが薄れるって、記録にあったのよ」


「その記録って『食べてはいけない素材』の記録だったりしないよな?」


「うるさいわね、じゃあ次はこれ。《火花茸》!」


「ちょっと待て、それ見た目からして爆発フラグなんだが!?」


 案の定、鍋に投入した瞬間、キッチン中に小さな火花が散った。


「ほら、言ったじゃねえかあああ!!」


「落ち着きなさいよ! 火は魔法で消せばいいの!」


「火を出す前に使うなって言ってるんだよ!!」


 どうにか火を消し、俺はため息をついた。これはもう限界だ。


「……ちょっと代われ。お前、絶対料理向いてない」


「な、何ですって……!」


「調理以前に、選ぶ素材の時点でアウトだろ!」


「うぐっ……」


 ルシアは悔しそうに唇を噛みしめたが、俺がエプロンを手にすると、おとなしく引っ込んだ。珍しい。



 結局、俺が冷蔵庫(という名の魔導素材庫)から、なんとか「食材っぽいもの」をより分けて、簡単なスープと炒め物を用意した。味付けは塩と、ルシアが「これは安全」と太鼓判を押したハーブを使用。


「はい、できたぞ。……たぶん、食える」


 テーブルに並べた料理を見て、ルシアは複雑な表情を浮かべた。


「……なんか、悔しいわね。実験材料のくせに、料理ができるなんて」


「現代人は自炊スキルが命だからな」


「へえ。異世界の『現代人』って意外と役に立つのね……」


「意外と、ってのが地味に刺さるんだけど」


 椅子に座り、二人で料理を見つめ合う。


「……で? 先に食べてくれないの?」


「いや、お前が先に食えよ」


「え……わ、わたしが?」


「まさか、怖くて食べられないとか言わないよな?」


「ち、ちがっ……! あんたが先に食べて安全かどうか、確認してあげようと思っただけよ! べ、別に怖くなんかないからね!」


 真っ赤な顔でスプーンを掴むルシア。ひとくち食べると、彼女はピクリと動きを止め、しばらくもぐもぐして――ぼそっと呟いた。


「……普通に、美味しい」


「だろ?」


「……素材の味を生かしてて、香草の量も適切。熱の通し方も悪くないわね」


「……なあ、褒めるなら素直に褒めてくれない?……って、普通に褒めてる!?」


「べ、別に褒めてないし! 評価しただけよ、評価! 実験材料のくせにやるじゃないってだけ!」


「はいはい」


 結局、俺も自分の皿を取り、一緒に食べた。味は――まあ、普通だったけど、二人で食べるぶんには妙に楽しい。


 不意に、ルシアがぽつりとつぶやいた。


「……料理って、悪くないわね」


「なんだ、意外とハマったか?」


「べ、別に! ただの実験の延長よ! 次は素材を変えて、調理法の影響を――」


「おい、またキッチンが火の海になるぞ」


「……ぐぬぬ」



 食後、ルシアがスプーンを置いて、何気ない声で言った。


「ねえ。あんた、もし時間があったら……明日も付き合いなさいよ」


「え、また料理か?」


「ちがっ……! 次は素材採集よ。山の上に“希少な試験用”の植物があるの。採れるのは明日の朝だけ」


「朝だけ? また強引なスケジュールだな……」


「べ、別にあんたがいなくても行けるけど。ちょっとだけ、荷物持ちが欲しいだけよ!」


「……了解、付き合うよ」


「……ふんっ」


 素直に「ありがとう」と言わないその態度に、俺は思わず苦笑した。


(なんだかんだで、悪くない時間だったな)

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