カテゴライズ眼鏡
どこかにある、不思議な雑貨店のお話。
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朗読目安:三分
登場人物二人+ナレーション
新しい小学校の先生は、口うるさくて几帳面。前の席の金元さんは、明るいバレリーナ。隣りの席の栗宮さんは、恥ずかしがり屋の世話焼き。
引っ越してきてすぐに見えるようになった、いろんな人の特徴。これで知らない相手も怖くない。
真っ赤な顔の栗宮さんに話しかけられて、美沙はぎこちなく笑った。
*
転校生になって二週間。みんなは委員会があるから、引っ越してきて初めての一人下校だ。もう四年生なのに、ちょっとドキドキする。
テレビでしか見たことがなかった、青いコンビニの角を曲がる。朝は何もなかった空き地に、一軒のお店がある。ずっと前から知っている、懐かしい雑貨店。
お店の中は今日も少し暗い。初めて会う店主のイナリさんが、いつものように出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、美沙さん。面白い物をつけていますね。ちょっと失礼します」
イナリさんが美沙の前にしゃがみ込む。右手がほっぺに伸びてきたから、思わず目をつぶってしまった。耳から何かが外れた気がする。
「あ、きれい……」
イナリさんの手には、レンズがキラキラ七色に輝くメガネがあった。前の学校での視力検査は一・五で、メガネは必要ないのに、いつかけたんだろう。
「これは色眼鏡。美沙さんから見た、人の特徴がわかります」
「そう! だから新しい学校も、怖くなくなったの」
イナリさんの説明を聞いて、美沙は引っ越し前を思い出した。
本当は、転校するのが怖かった。新しい先生やクラスメイトは、どんな人達なんだろう。でもお母さんはずっと忙しそうで、何も言えなかった。
返してと祈りながら、じっとメガネを見つめる。イナリさんがふんわりと微笑んだ。
「色眼鏡は便利です。使うと、相手のことがわかった気になる。でもそれだと、見逃してしまうこともあるんですよ」
「イナリさん?」
「新しいお友達と、もっと仲良くなりたいですか?」
美沙は二回まばたきをした。難しい話はよくわからないけど、栗宮さん達ともっと仲良くなりたいと思って頷いた。
「ではこの色眼鏡、他の商品と交換しませんか? 大丈夫。いい物が見つかりますよ」