コンプラ桃太郎
どこかにある、不思議な雑貨店のお話。
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朗読目安:三分
登場人物五人+ナレーション
「桃太郎さん桃太郎さん、お腰につけた きび団子、一つ私にくださいな」
「やりましょうやりましょう、これから鬼の征伐に、ついて行くならやりましょう」
いつも通りの要求に、いつも通りの返答。だが、今回の家来候補達は一味違っていた。
「いや、それはぼったくりでしょう!」
「きび団子一つで命を懸けろって、酷いと思いませんか?」
「現代だと詐欺ですよ、詐欺。ま、私は雉ですが」
犬猿雉が、口々に不満を漏らした。視線をそらしながらも、桃太郎は説得を試みる。
「これは伝統で……」
「出た! 伝統。その当時は一理あったのかもしれないけど、現代には適してないことも多いやつ!」
「伝統という名の非合理。やりがい搾取では?」
「週刊誌にでも垂れ込めば、トップ記事を狙えます」
桃太郎は叫びたくなるのを堪え、深く息を吸った。
「け、検討させてください」
*
「どうすればいいんだよ! きび団子一つで鬼退治って、相場が決まってるの! 何百年も続く出来レースなの!」
薄暗い雑貨店の奥にある丸テーブルで、桃太郎は頭を抱えた。向かいの席には店主のイナリがいる。
「まぁどうぞ」
既に湯呑みに手をつけている桃太郎へお茶請けを勧め、イナリもほうじ茶を啜った。桃太郎は出されたきび団子をぼーっと眺める。
「もうやだ。姫になりたい」
「今の時代は男女平等ですよ」
「じゃあいっそのこと、海外に」
「桃太郎さんは日本の方ですからねぇ。映画とかで知名度を上げれば、あるいは」
桃太郎は目を見開いた。マンマミーア! 魔改造されて爆死する未来しか見えない。
「失礼しまーす!」
苦悩する桃太郎を追い詰めるように、大きな声が響いた。今は、鬼よりも恐ろしい声。来店した犬猿雉が、桃太郎の方へやって来る。
「桃太郎さん! 鬼退治の企画書、作りました!」
「時代と共に価値観は変わります。ならば、企画自体も変えていいと思いませんか?」
「一方的な要求だけでは、かっこうがつきませんからね。ま、私は雉ですが」
こうして歴史は資本主義に飲まれていくのか。
桃太郎は、震える手で企画書を受け取った。