告白チョコレート
どこかにある、不思議な雑貨店のお話。
朗読台本としてご自由にご利用いただけます。
ご利用の際は、作品URLをご明記ください。
(ライブ配信等、上記が困難な場合は、「台本:おさくらもみじ」とお入れください)
著作権は放棄していません。
朗読目安:三分
登場人物二人+ナレーション
「イナリさん! このチョコ見てください!」
薄暗い雑貨店に、結衣子が飛び込んできた。下校中に寄ったため、コートの下には中学校の制服を着たままだ。
カードサイズのチャック付きポリ袋がレジに出される。ピンクのアルミ箔に包まれた一口チョコレートが、塩に埋もれている。
「朝教室に行ったら、急に飛んできたんです。何もないとこから」
店主のイナリが、袋を手に取り軽く揉む。中にあるチョコは一つだけで、ハートの形をしている。塩は神社の神主を務める、結衣子の父が清めた物だ。
「咄嗟に叩き落としたら大人しくなったんで、とりあえず塩袋に入れました」
「手際がいいね。その対応で問題ないよ」
「よかったぁ」
イナリの評価に結衣子は安堵し、改めて学校での出来事を思い出す。
「他のクラスでは、チョコが当たった男子が救急車で運ばれたみたいです。突撃チョコ騒動は、朝が一番酷くて、その後も何度も救急車が来てました」
ここで一度話を区切り、口を尖らせた。
「でも学校は普通にあったんですよね。これってブラック?」
「ブラックっていうより、認識阻害だね。救急隊や病院関係者の方に、悪いことしちゃったな」
イナリの言葉に結衣子は固まった。気まずそうに視線を泳がせ、イナリの様子を窺う。
「もしかして、私がすぐここに来てたら、もっと早く解決してた?」
曖昧に微笑んだイナリが、ポリ袋を振る。塩とチョコがぶつかり合い、カサカサと音がする。
「まぁ、悪いのはこの子」
結衣子は恨めしげにチョコを見た。
「結局、そいつ何なんですか?」
「恋する乙女の気持ちが、バレンタインに合わせてあふれちゃったんだね。明日になれば、病院に運ばれた子達も元に戻るよ」
「ということは、今は?」
「愛情に包まれた、甘い夢を見てるんじゃないかな」
被害者の現状を聞き、結衣子は眉根を寄せた。
「一方的な愛の押し付けって、ホラーじゃないですか。こんな謎チョコじゃなくて、直接言ってくれたらいいのに」
結衣子は袋越しに、塩にまみれたチョコをつついた。アルミ箔のピンクが濃くなったことに、思い人は気づかない。