貝殻ビキニと豚と真珠
どこかにある、不思議な雑貨店のお話。
朗読台本としてご自由にご利用いただけます。
ご利用の際は、作品URLをご明記ください。
(ライブ配信等、上記が困難な場合は、「台本:おさくらもみじ」とお入れください)
著作権は放棄していません。
朗読目安:三分
登場人物二人+ナレーション
「ねぇ、イナリさん。パーフェクトパールって曲、知ってますか?」
薄暗い雑貨店で商品を眺めていたトン吉は、ちらりとレジへ目をやった。椅子に座り本を読んでいた店主のイナリが顔を上げる。
「えぇ。最近流行ってるみたいですね」
イナリの脳裏にぼんやりと、貝殻ビキニと短いデニムパンツ姿の女性アイドルグループが浮かぶ。
「その中に、豚に真珠って歌詞があるんですが……」
躊躇いがちに言いながら、トン吉はイナリに近づく。
トン吉は、トンカツ屋の軒先に立つ看板豚だ。全長一メートル弱。コック姿の二足歩行の豚像が、人に愛され妖怪となった。
「見てもらえますか?」
「はい。構いませんよ」
イナリはレジを出て、頭一つ以上小さなトン吉と向き合った。白いコックコートに蹄がかけられる。
ちなみに、ただいま来店中のピンク肌のトン吉は、分身である。本体は燻んだ金色の豚像で、コックコートは一体化していて脱げない。
トン吉のコックコートがはだける。紐で左右が繋がった、六対の貝殻ビキニが現れた。張りのあるピンク肌にホタテの貝殻が十二個。紐が食い込むわがままボディーは、まるでハム。
思わぬ姿にイナリは息を飲む。トンカツ屋看板豚の名誉を守るため、ハムは頭から追い出した。
「驚くのはまだ早いですよ」
虚ろな表情で、トン吉が貝殻ビキニをずらす。純白の球体が姿を見せた。
「真珠ですか」
「えぇ。乳首が真珠になりました」
まさに豚に真珠。だが、イナリは首を傾げる。
「真珠といえば、あこや貝。トン吉さんのそれは、ホタテでは?」
「歌ってる子達がホタテの貝殻ビキニなので……」
「結構いい加減なんですね」
トン吉の目が、遠くを見やる。
「私は、人の思いにより生まれました。そのせいで、世間の影響を受けやすいんです」
「民意の反映ですか」
「でもこれじゃあ、トン吉じゃなくてトンチキですよ」
「心中お察しします」
力なく笑うトン吉を労い、イナリは仕事に取り掛かる。
「そのビキニと真珠でしたら、うちで買い取り可能かと」
「査定、よろしくお願いします。ハム状態はもう嫌だ……」