ブロッコリーを讃えよ
どこかにある、不思議な雑貨店のお話。
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朗読目安:三分
登場人物三人+ナレーション
ブロッコリー。アブラナ目、アブラナ科、アブラナ属。
茎の先に広がる緑の蕾は、豊かな森の源だ。遥か昔、原初のブロッコリーが産声を上げ、瞬く間に産地拡大。こうして世界に、数多の森が生まれた。
皆は忘れても、大地は覚えている。始まりの緑ブロッコリー。愚かな生き物達よ、思い出せ。
ブロッコリーを讃えよ。ブロッコリーを讃えよ。
*
「父が捕まえた、異常増殖するブロッコリーです」
神社の娘である結衣子が、薄暗い雑貨店のレジ台に風呂敷包みを置いた。店主のイナリが中身を確かめる。丸いタッパーに封じられた、手のひら大のブロッコリーが一株。未加熱のため色は薄い。
「ブロッコリーって、キャベツの変種だよね?」
「そうなの? ……ですか。だったらこのブロッコリー的には、キャベツは草原の始まりなのかも」
咄嗟に出た言葉を無理やり敬語にして、結衣子はタッパーを見つめた。自認が森なのだから、ありえない話ではない。十五歳になったばかりのこの少女の勘は、妙なところで鋭いのだ。
「一日五個増えるって話だったよね? とりあえず開けてみようか」
イナリが風呂敷の中心でタッパーを開ける。
(ブロッコリー! ブロッコリーを讃えよ!)
「え⁉︎ 何⁉︎ うるさ!」
結衣子が耳を塞いだ。しかし脳内に直接響くブロッコリー讃頌には意味がない。
増殖したブロッコリーが、タッパーから溢れて風呂敷に転がる。イナリは、タッパーに原因のブロッコリーだけを残して再びフタをした。
「封印されて力が溜まってたようだね。一気に五個増えた」
「え? じゃあ、百日閉じ込めたら、一気に五百個のブロッコリーが……」
「いや、それはない」
「千年の封印を経て、地球がブロッコリーになったり」
「しないよ」
「良かったぁ」
イナリが風呂敷に転がるブロッコリーの一株を手に取る。
「どうするんですか? それ」
「普通に食べれるよ。いるかい?」
「はい! きっと母も喜びます」
「タッパーの子は、知り合いの筋トレ好きに聞いてみるよ。毎日新鮮なブロッコリーが食べれるとなれば、望み通りいっぱい讃えてくれるはずさ」