表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/18

美味しい本棚

 どこかにある、不思議な雑貨店のお話。


 朗読台本としてご自由にご利用いただけます。

 ご利用の際は、作品URLをご明記ください。

(ライブ配信等、上記が困難な場合は、「台本:おさくらもみじ」とお入れください)

 著作権は放棄していません。


 朗読目安:三分

 登場人物二人+ナレーション

 薄暗い雑貨店を迷いなく進んだコン太は、奥にある丸テーブルに紺色のランドセルを置いた。椅子に座り足元へランドセルを移す。


 店の裏から店主のイナリが現れた。手にはお盆があり、おしぼりと、小皿に盛られた二つの稲荷寿司、白い急須と二人分の湯呑みが乗っている。


 コン太の向かい席に着いたイナリが、ほうじ茶を淹れる。店内に客はおらず二人きりだ。いただきますと手を合わせて、コン太は稲荷寿司を口にした。


「そういや最近、妙な噂がありやして。なんでも、夜中に本棚が消えちまうらしい」


 稲荷寿司を飲み込んで街の様子を報告する。ほうじ茶を啜ったイナリが小首を傾げた。


「消えるのは、中にある本もかい?」

「えぇ。うちのクラスの東山さんも、やられちまったみてぇでさぁ」


 コン太はぺろりと親指を舐めた。同級生の話を思い出し、唇を尖らせる。


「東山さんが言うには、本棚が消えちまったみてぇだって、なーんかあやふやなんすよねぇ」

「そっか。認識阻害されてるってことは、妖案件かな」

「違いねぇ」


 コン太は頷き、二つ目の稲荷寿司を手に取った。


「本棚を消す怪奇現象、か。放っておくと妖怪になりそうだ。消えた本から知識を得てたら、面倒なことになるかもね」

「そぉさねぇ。イナリ様もたくさん本をお持ちなんだから、どうぞお気をつけなすって」


 *


 翌週。定期報告に訪れたコン太の前には、定番の稲荷寿司がある。


「そうそう。この前の本棚が消える件、解決したよ」


 ほうじ茶を淹れる音に相応しいのどかさで、イナリが告げた。


「へぇ。事の顛末をお聞きしても?」

「コン太が帰った後、私の本棚に妖力を込めてね。釣り餌にしたんだ」


 コン太はお茶を啜って呆れを誤魔化した。


「そりゃあ大層なこって。イナリ様の妖力なんてパクついた日にゃあ、あっという間に怪奇現象が妖怪になっちまう」

「うん。だから本棚には、春画を詰めといた」

「ぶふぁ! ……オ、オイラ今、小学生ですぜ」

「ふふ。集めた春画から知識を得た妖怪は、然るべき所に引き取られたよ」


 イナリが優雅に微笑む。咳き込んだコン太は涙目になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ