表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第四章:生命の女神との対話

永遠の命の犠牲者たちを解き放ったゼヴェルィドラは、創造主マリアラムへ近づく。星を腐らせる循環の断絶を正すために

地表の空気は湿って重く、風の中には塩と花粉と灰が混ざっていた。大陸の端を渡るたび、ゼヴェルィドラの足元で地が脈動する。森の葉は色を変えず、風に揺れても散らなかった。老いのない世界。止まった時間の中に、命の形だけが整然と並んでいた。


マリアラムはその中心に立っていた。手をかざすたび、淡い光が地面を包み、草や獣や微生物までもが輝きを帯びる。彼女のまわりでは生も死も区別がなかった。全てが連続し、すべてが変化を止めていた。


ゼヴェルィドラはゆっくりと近づき、声をかけた。

「──マリアラム」

彼女は振り返り、微笑んだ。

「来たのね。海の底を静めたと聞いたわ」


「彼らは苦しんでいた。死ねぬ命は、星の流れを重くする。だから私は、終わりを与えた」


マリアラムは首を傾げた。

「終わりなど要らない。命は続くもの。私が与えた力は祝福。死がなければ悲しみもない。痛みもない」


ゼヴェルィドラはその言葉を受け止め、静かに言った。

「だが、痛みを忘れることは、生を感じないことだ。死があるから命の奔流がある。その流れが止まればこの星が澱む」


マリアラムは手を伸ばし、一匹の小さな生き物を掬い上げた。形を持たない微生物のような存在。それは光を帯び、やがて掌の上で成長し、次の瞬間には完全な形を保ったまま動かなくなった。

「この子を見て。老いることも、傷つくこともない。完璧な命よ。なぜこれを壊すの?」


ゼヴェルィドラは小さく息をついた。

「完璧とは、無だ。動かないものは、時間の流れに置いていかれる。だがこの星は動く、生命の胎動が止まろうとも。だから生も、死も、流れなければならない」


「あなたは破壊を好むのね」

「違う。私は破壊を始まりに変えるためにある」


マリアラムの目が細くなった。彼女の背後で、光がうねり、生命たちが一斉に目を向けた。動物も草木も、意思を持ったようにゼヴェルィドラを囲む。大気が震え、空の色が鈍く変わる。


「彼らは私の子よ。あなたに消される理由などない」

「消すために来たのではない。本来の状態へ正すために来た」


ゼヴェルィドラは掌を広げ、地面に手を置いた。土の下にある根の鼓動が聞こえる。無限に伸び、循環せず、栄養を地に返さない。植物は養分を奪うだけで還さず、土は硬く、風は通わない。

「見てほしい。君の永遠は、地を枯らす」


マリアラムは足元を見た。確かに根の先は灰色に変わり、動きを失っていた。彼女の顔に一瞬の迷いが浮かぶ。

「それでも、死の痛みを与えるよりはいい」


「痛みは命の形だ。痛みを拒むことは、命そのものを拒むことになる」


二人の間に長い沈黙が流れた。空に光が差し、影が二つに伸びる。ゼヴェルィドラはその光の中で言葉を選んだ。

「海の底で、君の子らが願っていた。“終わらせてくれ”と。君の優しさは、彼らの願いを止めた。優しさが命を閉じ込めてしまったんだ」


マリアラムの瞳が揺れる。彼女は遠くを見た。かつて生まれたばかりの微生物が、今も形を変えず漂っているのが見える。永遠の命を授かった彼らは、もう成長も減少もない。星の時間から外れた存在。

「彼らが、そんなことを……」


ゼヴェルィドラは頷いた。

「この星が教えてくれた。循環が滞るとき、痛みが生まれる。だから私は、君に協力してほしい」


「何をするつもり?」

「命に、終わりを返す」


マリアラムは唇を噛んだ。「死を与えるの?」

「死は罰ではない。命が星に戻る通路だ」


マリアラムは目を閉じ、掌を見つめた。そこに残る光が、ほんの僅かに揺らいでいた。ゼヴェルィドラはその揺らぎに静かに語りかける。

「君が創った命を、壊したくはない。だが、星を守るためには、永遠を終わらせなければならない。死なぬ命は星を痛める。星は息を詰まらせている」


マリアラムの肩が小さく震えた。彼女はゆっくりと頷いたが、表情は苦しげだった。

「あなたの伝えたい言葉は分かる。でも、私は恐れている。死が広がれば、恐れが生まれ、争いが生まれる」

「確かに争いは避けられない。だが、それは命が動いている証拠だ。静止し常に虐げられる逃げ道すらない状況よりはましだ」


マリアラムは深く息をつき、そして手を開いた。

掌から光が流れ出し、風に溶けていく。彼女の周囲で止まっていた命たちが少しずつ動き始め、枯れ、そして新しい芽が地面から顔を出した。小さな循環が生まれた。

ゼヴェルィドラはその様子を見守りながら言った。

「これが星の呼吸だ。死と生の往復が、星を緩やかに生かす」


マリアラムは静かに微笑んだ。だがその微笑みは哀しみに染まっていた。

「……あなたは優しいのね。破壊を選びながら、誰よりも痛みを知っている」


「私は優しくはない。ただこの星の声を無視できないだけだ」


しばらく二人は何も言わなかった。遠くで雷が光り、雨が降り始める。大地はゆっくりと濡れ、生命がその水を吸い上げる。時間が再び動き出していた。


マリアラムは背を向け、最後に言った。

「私は見届ける。もしこの流れが新たな争いを生むなら、またあなたに話すわ」


ゼヴェルィドラは頷いた。

「そのときは、また対話しよう」


彼女が去ると、風が静まり、星の呼吸が穏やかに続いた。永遠の鎖は解かれ、世界は緩やかに動き出した。だがその均衡の外では、別の力が動いていた。


──空の遙か高み、薄い雲の彼方で、星を魅せる龍アストイヴスがその光を見下ろしていた。

「やはり、彼は地球に溶けたか」


彼の声は冷たいが、確かな興味を含んでいた。

「──次は、私が動く番だ」


ゼヴェルィドラはまだその気配を知らない。星の調和の先に何が待ち受けているのか

アストイヴスが地球に介入し、ゼヴェルィドラとの対話が始まる。星の外から来た龍の真意とは──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ