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第一章:大地と海の争いを鎮める

ゼヴェルィドラが地球に降り、アゼェルとレヴィアンに対話で停戦を求める。合意に至らない場合、排除を実行する

ゼヴェルィドラは月の静かな岩床を離れ、大気圏を滑るように降りた。地表はゆっくりとうねり、海は際限なく岸を削っていた。大地の脈動は過大で、海流は過剰だった。地球の動きは早すぎる。熱と摩擦が寿命を削っている。


「アゼェル、レヴィアン。話をしよう」

声は大地と海の境で等しく届いた。


大地を統べる龍アゼェルが姿を現す。甲板のように平たい背は山脈の形を取り、眼差しは断層の奥へ向いている。

「我は地を組み直す。強い骨組みがなければ、生命は根を張れない」


大海を動かす龍レヴィアンが波から頭をもたげる。鱗の間から塩とミネラルが滴る。

「我は海を循環させる。岩を削らねば栄養は海へ降りない。遅らせれば、海は澱む」


ゼヴェルィドラは首を振った。

「いま必要なのは緩やかな動きだ。地球は疲れている。君たちの速度は、豊かさを超えて摩滅へ傾いている」


アゼェルは足元の地殻を鳴らした。遠くで山が持ち上がり、近くで谷が落ちる。

「緩めれば、歪みは溜まり、いつか大きく崩れる」


レヴィアンは砕けた波を背に応じる。

「削らねば、栄養は届かず、生命は痩せる」


ゼヴェルィドラは条件を示した。

「提案する。

一、地殻変動を周期化する。小刻みで、振幅は今の半分。

二、海の侵食は重点化する。古い岩帯を優先し、新生の土壌は保護する。

三、相互監視を行う。大地の持ち上がりは海の削りと連動させ、総量を帳尻合わせにする。地球の発熱は、現在値から一割減を目標にする」


アゼェルは黙考し、やがて言う。

「均衡の図は理解した。だが、我が裁量を奪うのか」


「奪わない。地球の寿命を守るための枠を設けるだけだ。枠の中で構想せよ」


レヴィアンが水面を叩く。高波が岸へ走るが、ゼヴェルィドラは掌を開いて減速させた。波は高さを保ったまま、速さだけが落ちてゆく。

「循環は速さに宿る。遅くすれば腐る。私はそれを見てきた」


「速さは価値ではない。確かさが必要だ」

ゼヴェルィドラは海風を集めて、潮汐の地図を空中に展開した。月と太陽の引力、海盆の形、風帯の向き。

「ここを遅く、ここを早く。全体の流速平均は下げるが、差をつけて滞りを消す。君の役割は残る」


アゼェルが問いを差し込む。

「歪みはどう逃がす」


「深部の熱柱を分散させる。君の手で。大陸は割らずに撓ませる。造山は連続ではなく段階化しろ。緩やかに、途切れず、だ」


短い沈黙ののち、アゼェルは頷いた。

「理は通る。だが、我の過去のやり方を否定するのか」


「否定はしない。時期が過ぎたと言うだけだ」


レヴィアンはまだ首を振る。

「私は止めない。止めれば、海は死ぬ」


ゼヴェルィドラは一歩踏み込む。

「止めろとは言っていない。緩めろと言っている。拒む理由は何だ」


「私の海は、私の速さで回る」

レヴィアンの尾が海底を打ち、濁流が走った。新しい岸は崩れ、森へ土砂がなだれ込む。


ゼヴェルィドラは深呼吸し、低く言う。

「対話はここまでだ。最後に確認する。枠組みに入るか」


レヴィアンは答えない。波がさらに高くなる。潮位が持ち上がり、群島が見えなくなる。


アゼェルが間に入ろうとした瞬間、ゼヴェルィドラは手を伸ばし、海全体の“速さ”の要を摘んだ。海流の結び目、渦の核、潮汐の共鳴点。力を奪うのではない。繋ぎ替える。

「排除、第一段階。速度権限の凍結」


レヴィアンの身体から勢いが抜け、波が形を保ったまま落ち着いていく。レヴィアンが吠える。

「奪ったな!」


「まだだ。君の意思は残した。だが、地球を削る速度の鍵は、私が持つ」


アゼェルがゼヴェルィドラを見る。

「海を殺すのか」


「殺さない。緩めるだけだ。君は段階化を誓えるか」


アゼェルは胸を張るように山稜を持ち上げ、すぐに半分沈めた。

「今、学ぶ。これで良いか」


「良い」

ゼヴェルィドラは海図を手直しし、レヴィアンに戻す。

「君にも役を返す。沿岸の削りは保留。代わりに深海の古い高まりを削れ。生命の詰まりを解け。速度は私が管理する」


レヴィアンはしばらく黙り、やがて短く答えた。

「……従う。だが、私の領域の判断は、私がする」


「枠内でなら、好きにしろ」


その時、地球の熱はわずかに落ちつき、海陸の境に薄い霧が立った。風は緩やかに方向を変え、雨脚は均等になった。どこかで谷が崩れる代わりに、平野で土が厚く積もる。崩れは小さく、積みは確かだった。


レヴィアンが最後に問う。

「なぜ、そこまで地球の声が聞こえる」


「私は地球の意思だ。速さで磨り減っていく痛みが、私の内側で響く。だから止めに来た。止めずに、緩めるために」


アゼェルは頷いた。

「ならば、我は撓む骨となろう」


レヴィアンも頷いた。

「私は深海から循環を始める。速さは、必要な分だけにする」


ゼヴェルィドラは二体に背を向け、次の地へ歩き出した。

まだ、話すべき相手がいる。

地上の均衡は、ようやく出発点に立ったばかりだ。

ロンドベェティとマリアラムへの対話。永遠の命の是非と、循環の条件を提示する。対話が破綻した場合、排除を実行する。

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