表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

荒海の舞

灰色の雲が低く垂れ込める日本海で、義経は北の風を感じていた。


蝦夷の水軍から借り受けた船は、和船とは異なる独特の造りをしている。波を切る船首の形状、強靭な舷側の補強、そして荒波に耐えうる船底構造。全てが北の海のために設計されていた。


「殿!」見張りの声が響く。「後方より、追っ手の船団!」


義経は舵取り場所から振り返った。水平線の彼方に、十艘ほどの船影が見える。泰衡の差し向けた追討の水軍だ。


「数で劣るな」


しかし、義経の表情に焦りはない。むしろ、どこか懐かしさが浮かんでいた。


「思い出したよ、弁慶」


「何をでございます?」


「壇ノ浦だ」


荒波を越えて、追っ手の軍船が迫ってくる。しかし、この海には味方がいる。北からの風と、複雑な潮流。


「全船、我が指示を待て!」


義経の号令が、船団に響き渡る。蝦夷の水軍たちも、彼の意図を理解したように舵を構える。


「来たぞ!」


最初の敵船が射程に入る。矢が放たれ、波しぶきを立てて落ちる。


しかし、義経の船団は巧みに舵を切り、波を盾にして矢を避けていく。


「北風が強まってきた」義経が呟く。「ここだ」


「殿、しかし風上は...」


「いや、見ていろ」


義経の船団が、一斉に大きく舵を切る。一見すると無謀な風上への転進。だが、その動きに秘められた意図が、やがて明らかになる。


波が高く盛り上がり、追っ手の船団に襲いかかる。彼らの船は和船の構造。この荒波には適していない。


「我らの番だ!」


風と波に翻弄される敵船を、義経の船団が包囲していく。蝦夷の船は、荒波の中でもしなやかに動きを保っていた。


「殿!」弁慶の声が響く。「嵐が来ます!」


北の空が、より一層黒く染まっていく。


「好都合」義経は静かに告げた。「この嵐こそが、我らの守り手となる」


追っ手の船が、次々と方向を変えて撤退し始める。彼らには、この海の猛威と戦う術がないのだ。


「全船、北へ!」


義経の船団は、嵐の幕の中へと姿を消していく。荒れ狂う波も、北の海を知り尽くした船にとっては、むしろ味方となった。


雨が激しく降り始める中、義経は北の水平線を見つめていた。その先には、新たな運命が待っているはずだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ