どっかの誰か
自分はきっと生まれつき人より劣っている。
学力とか技術とかの話じゃない。
好かれる才能の話だ。
カリスマとかそういうの。
小さい小さい頃。
物心がついた頃。
何もしていないのにいじめられた。
そんな大層ないじめではないけど。
自分の中の何かが少し歪んだ。
人との付き合い方が分からなくなった。
どうすれば仲良くなれるのかとか嫌われないのかとか。
覚えていることがある。
園のみんなでピーターパンの劇をやる時、くじで自分がピーターパン役になった。
嬉しかった。
嬉しくてだけどすごく怖かった。
みんなはどう思ってるんだろう、なんて考えて。
嫌そうにしていた気がする。
もう記憶も定かではないけれど。
その時の自分の気持ちだけは心に刻みつけられている。
小学生になった。
新しい環境。
クラスに知り合いは一人もいない。
やっぱりどうすればいいか分からなかった。
混ざるのが怖くて、友達ができなくて、勇気を出して担任の先生に相談した。
担任の先生は親身になって話を聞いてくれて、そしてホームルーム中に教室の前で言った。
〇〇くんがみんなと遊びたいけど輪に混ぜてくれないと言ってます。みなさん一緒に遊んであげてください。
違うよ先生。
そんな、みんなが悪いみたいな言い方してないよ。
そんなことを言って欲しかった訳でもないよ。
それで遊んでもらって何になるの?
自分の人生が決まったのは、きっとこの日だ。
そこからはもう散々だった。
いじめを受けたとかではない。
みんな良い子だったからそんなことはしない。
仲間外れにされた、が一番しっくりくる。
加害される訳でもなく、輪に入ろうとしたら嫌な顔をされるぐらいの、そんな感じ。
それでも入れてくれるんだからやっぱりみんな優しい。
優しくて良い人たちだからこそ、そんな人たちに嫌われる自分がたまらなく惨めだ。
少し話は逸れて、同じクラスに下ネタばかり言う男子がいた。
その子も周りから避けられていて、ある意味唯一自分が親しく接せる相手だった。
そしてその子自身の好感度はともかく、どうやら下ネタ自体は男子たちにとって面白いものらしいということは反応を見て分かった。
自分は下ネタに慣れてなかった。
けれどその子と仲良く居続けたかったから、下ネタを言うようにした。
何より周りに面白い奴だと思って、輪に入れてもらいたかった。
女子に気持ち悪がられても、それでも男子たちが笑ってくれる。
自分の行動で笑ってくれる人がいる。
また歪んでいく。
そんなことで得られる笑いなんていいものでも何でもないのに。
それで輪に入れてもらえるなんてあり得ないことなのに。
幼い自分はそんなことも分からず。
でもその道しかなかった。
みんなを笑わせようと頑張るその道しか。
だって好かれる才能がないんだから。
下ネタを言うようになったあとは。
冗談も積極的に言うようにした。
おふざけも加速した。
どんどん嫌な人間になっていく。
歪んでいく。
人を笑わせられるようになろうと決めてからは、自分も常に笑うようにもした。
聞こえはいいけどそんな良いものじゃない。
ただ自分も笑ってみんなも笑って、そんな空間じゃないと不安になってしまう、それだけだった。
病気だ。
今でも治らない病気。
ヘラヘラとしてると思われて、真面目な場では印象を悪くして。
違う、違うんだ。
そうじゃないとたまらなく不安になる。
冗談をよく言うのもそう。
誰かが笑っていないと、嫌われてしまいそうで怖くなる。
そんなことないのに。
そんなことで嫌うような人たちじゃないのに。
それでも、きっと冗談を言うことも笑うこともなくなれば、周りに好いてもらえないと思ってるのは今でもそうだ。
ある日、下ネタばかり言う子が転校した。
いよいよ自分は一人。
みんなから嫌われているというのは致命的で、まともなコミュニケーションを取る機会がなくなってしまう。
普通のコミュニケーションが分からない。
空気の読み方も分からない。
人の気に障ってしまう。
誰からも好かれない人間にどんどんなっていく。
悪循環。
誰かどうすれば良いか教えてよ。
そのまま中学生になった。
私立を受験して通うことになったから、またまた誰も知らない新しい環境。
この時の自分はどんな人間だったか。
変わらない。
冗談を言ったり騒がしくしたりして周りに迷惑をかける空気の読めない鬱陶しいガキ。
変われない。
人を笑わせられるような何かをしていないと一人になるのもまた真実なのだから。
そんな幼い頃に植え付けられた強迫観念が自分の本質だ。
嫌われない訳がない。
思春期に入って加速する下ネタ。
不快にさせない訳がない。
お前何のために生まれてきたんだよ。
自分で自分に尋ねる。
人に好かれない才能を持って生まれて。
人に嫌われるやり方だけ覚えて育って。
もう戻れなかった。
思春期らしく、恋愛とかそんな普通のこともしようと思わなかった。
したかったけど。
だって自分を好いてくれる人なんてこの世のどこにもいないんだから。
ううん、違うか。
両親だけはずっと自分を愛してくれている。
嬉しいけど、重い。
いっそ、本当に、全員が自分を嫌っていたら。
自分がいなくなって悲しむ人がいなかったら。
何もかも捨てて、身軽になって、それで。
ね?
高校生になった。
新しい環境ではなかった。
中高一貫だったから。
この頃には自分は少しはマシになっていた。
もう戻れないところまで来ていたとしても、小中で何百何千と過ちを繰り返して来たんだから、だんだんとやり過ぎとかの境目が分かるようになってくる。
これはウケるとかウケないとか。
今回も新しい環境になってれば、もしかしたら違ったのかもしれないね。
自分が少しずつマシな人間になろうと、周りの自分への印象はそのままだった。
コミュニケーションは相変わらず、分からない。
休み時間に寝てるフリをするのは、ずっと慣れなかったな。
大学生になった。
新しい環境になった。
この頃の自分は冗談の面白いとつまらないのラインがある程度分かるようになっていて。
友達ができ始めた。
人生の風向きが変わった。
けれど空気が読めないのは相も変わらず。
嫌われる人には嫌われる。
好いてくれる人も、自分を一番に思ってくれる訳じゃない。
ご飯や遊びにはわざわざ誘われない。
こっちから誘ったら来てくれるけど。
そんな温度感。
いてもいなくても変わらない。
奇数人で行動するといつも一人になる。
それが自分。
誰かの一番になりたかった。
両親以外の誰かに愛されたかった。
愛される訳ないだろお前なんかが。
感性だって周りと違う。
みんな身だしなみに気を遣って恋愛に積極的で。
自分はどうだ。
オシャレしたいと思ったことなんてない。
服屋に行ったら頭が痛くなる。
高校の時、倫理で自我の確立か何かの話があった時に、先生が例として挙げた話があった。
みんな思春期を迎えたら着る服とか自分で選びたくなるでしょ。親の選んだものは嫌になるとか。そういうこと。
どういうこと?
本当に分からなかった。
自分が普通の人間でないことをまざまざと突きつけられた。
今なら理解できる。
自分はとうに歪み切ってしまっているのだから。
自己表現の舵を間違った方向に切ってしまっていたのだから。
そんな当たり前の自己表現が分からなくなったのだ。
周りからしたら自分のことをきっと理解できないし、自分も周りを理解できない。
理解できないものは怖い。
もう一度言おう。
愛される訳ないだろ。
愛され方だって分からない。
家族愛以外の形で。
愛されたことがないんだから。
それでどうして恋愛に積極的になれるんだろう。
無理に決まってる。
愛して欲しいのに愛され方が分からなくて。
それ以前にこれまでの人生で地に落ちた自己肯定感が自分に鎖を巻き付ける。
おかしい。
友達ができるようになったのに。
ううん、友達ができるようになったからこそ。
自分は尊重してもらえる人間でも愛される人間でもないことを実感させられた。
心が疲弊していく。
生きるのが辛くなっていく。
そんななのに、いつか自分も人を好きになってしまう。
恋をしてしまう。
してしまった。
就活の時期が来てただでさえ辛いのにさ。
叶わない恋をしてもっと辛くなる。
気持ちを抑えられればいいのにね。
溢れ出して、フラれると分かってるのに告白して、フラれて、ボロボロに泣いて、ボロボロになって。
なのに就活は続くんだもん。
よく死ななかった。
偉いね自分。
そう褒めてあげたいけど一つ、この時の後悔がある。
親に言ってしまった一言だ。
生まれてきてよかったと思ったことなんて一度もない。
って。
あの時のお母さんの顔もきっと忘れない。
なんだかんだで就活が終わって。
エンジニアとして就職して、それからは割と楽しかった。
プログラミングは好きだったし、ホワイトだったし、新しい人間関係も良好だった。
それでもやっぱり愛してくれる人はいなくて、ぽっかりと心に穴が空いたまま。
穴が空いていた理由はもう一個ある。
ゲームや漫画が好きな自分が、クリエイティブなことも好きな自分が、そっちに進まなかったこと。
プログラミングは楽しかったけど、それだけじゃ満たされなかった。
それが分岐点。
自分は最悪の一言を両親に言ってしまったあとに決めたことがあった。
生まれて来てよかったって思える人生にする。
それが人生を賭けての目標。
幸せになりたい。
絶対なってやる。
こんな人生送って来て、それでもこうして生きてられんだからさ。
なれるだろ自分なら。
世界で一番幸せに。
だから、ゲーム業界を目指すことを決めた。
自分が大好きだったゲームを作る側に回ることを決めた。
こんな人生でも今までやって来られたのは、ずっとゲームがあったからだし。
モンハンもスプラもずっと一人でやってたけどさ。
ま、他にも理由は色々あるけど長くなるから今回は割愛。
ゲーム業界を目指し始めてからはもっと楽しくなった。
交友関係も更に広くなって、気の合う人も増えて。
同時に辛いことも多いけど。
コミュニケーションが分からないままここまで来たことが足枷になって、ゲーム制作のチームメンバーを不快にさせてしまうし。
相手の気持ちを分かる人間になれなかったから、どうやったら上手く伝えられるのかとかも分からなくて、企画書書くのも超下手。
オシャレができないんだしデザインセンスも皆無。
もうほんとできないことばっか。
でも天職だと思う。
だって自分は、自分にとって一番面白いゲームをきっと作れるから。
自分と同じような真っ直ぐ育てず捻くれた人たちにとって最高のゲームを作れるかもしれないから。
だから、頑張る。
こっから逆襲。
色々やらかしたり、あまり人に言えないことで傷ついてまたメンタル死んでるけどさ。
鬱ってなきゃこんなエッセイ書かないけどさ。
きっとこうして書いてるのも、誰かに自分を理解して欲しくて、その上で愛して欲しくて、そういう押し付けなんだろうと思う。
自分の気持ちの整理って側面も半分ぐらいあるけど。
しかし本当に愛して欲しいならこのエッセイを公開するかはすごく悩むところ。
だって印象悪くなるだけじゃない?
あるいは接しにくくなるだけじゃない?
これ読んでまだ変な気を遣わずにいられる?
って、色々思ったけど、それでも公開することにする。
今でも周りは良い人ばかりだし、もう少し周りを信用したいから。
これを読んでも態度が変わらないって信じてるから。
第一自分と仲良くしてくれてる人は、自分がぐちゃぐちゃな人間だって薄々気づいてるだろうしね。
公開するのは、今後優しくして欲しいとかそういうことじゃなくて。
自分はこういう形でしか、こういう文章にした形でしか、自分のことを曝け出せない人間だから。
受け入れて欲しいっていう邪な気持ちと。
そもそも読み物として自分の人生面白くない? ってクリエイティブな気持ちと。
そういうのが混ざって公開を決めた。
だからキモかったらキモいって言ってれて大丈夫だし、ウザかったらウザいでいい。
自分を嫌いな人も自分を嫌いなままでいい。
からまあ、応援だけしててくれたら嬉しいな。
ってことでこのエッセイはこの辺で…………ごめん、一つだけ嘘ついた。
公開する理由もう一つある。
こんなどうしようもない奴でも生きてんだからさ、同じメンタル病み勢も頑張って……頑張らなくてもいいけど、生きていこうぜーっていう。
そんな感じ。
ここでの生きていくってのは、命の話じゃなくて。
死んでないだけって状態は辛いから、頑張って生きようぜーっていう。
偉そうな自分のエゴも押し付けてる。
きっと自分以上に辛い人生送って来た人なんてたくさんいるのにね。
最後までどうしようもないけど、最後まで自分らしいってことで。
ではでは。