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第87話 悪意の介入

 光の波が洞窟内にまで押し寄せてきた。


 この温かな波動は、きっとマリアのもの。

 そして、それが俺たちに優位に働くものだというのは、直感的に理解できた。


 その結果、明らかに動きが鈍化したユウヤを圧倒することになったのは、実に当然のことだった。


 ユウヤもすでに満身創痍。

 あとは決定打を入れてやれば、それで終幕。そのはずだった。


 ――が、事態は急変した。


「ぐ……ぁ……がぁ……ッ!?」


 ……なんだ、急に?


 目に灯る光は失せ、瞳は虚ろに。

 額には脂汗が滲み、掻き毟るように両手で胸を押さえている。


 ……なぜ苦しんでいる? いや、()()苦しんでいるんだ?


 苦悶の表情で、その場にうずくまるユウヤ。

 その背の向こう側――彼の身体から滲み出るオーラのようなものが、ぼんやりと目に映る。


 どす黒く、邪悪な気配を放つオーラ。

 それはどこか覚えのある“悪意”であるように思えてならない。


「……ぁ……ぁあ……っ! ぐ……ぁ……!」


 まるで病魔に蝕まれるかのように、今もユウヤはその“悪意”からの攻撃に苦しんでいる。


 だが、これは絶好の機会(チャンス)


 今、ユウヤの視界に俺の姿は映っていない。

 それも、無防備に背を晒したままうずくまっている状態だ。


 なら、ここはすぐにでもその意識を刈り取って……――


 そこまで考えた瞬間、忽然と眼前に()が現れた。


「――ッ!?」


 目を見開き後ろに身体を引きながら、刃が触れる寸前でその軌道を逸らす。


 ……お、重ッ!?


 先ほどまでとは比べ物にならないほどの衝撃が、双剣を握るその腕に伝わってくる。


「……おいおい。勘弁してくれよ、ホントに」


 上げた視線の先。無数の武具をその背に従えたユウヤの瞳は、夜闇を凌ぐほどの漆黒に塗り潰されてしまっていた。




 ユウヤが豹変してから、すでに十度以上斬り結んだ。

 しかし、打って変わって今度はこちらが劣勢に立たされていた。


「窮地で謎の力に覚醒して急成長って、物語の主人公みたいなことするなって、のッ!」


 苛立ちをぶつけるように、双剣の刃を飛来する鉄槌にぶつけて弾く。

 すると、今度は入れ替わるようにして三つ又の鉾、曲刀、月鎌がこちらの首筋を的確に狙ってくる。


 舌打ちをこぼし、さらにそれらも最低限の動きで捌いてゆく。


「くそっ……数が……ッ!」


 捌いても捌いても、一向に数が減らない。

 しかも、さらに面倒なのが()()だ。


 ……鎧を着た人形が一体……二体……合計三体か。


 豹変した今も、ユウヤは一歩たりとも動いてはいない。


 飛翔する武具の数々。それに紛れるように鎧を身に纏った命のない人形たちが斬り込んでくるのだ。

 それも、その一体一体が熟練の騎士に相当する力や技術を持っている。


 つまり、動く必要すらない、というわけだ。


 ……殴って目を覚ましてやりたいところだけど、そのためにもまず――。


 ユウヤから視線を切り、鎧の人形たちに目を向ける。


 元凶を叩こうにも、まずは阻む者を排除しなければ。


 目を細めながら腰を落とし、標的を定める。

 まずは、一番近くの戦斧を振り上げた鎧から――。


「――……っ!」


 今度はこちらから駆けだし、一息でその懐へ。

 切っ先が狙うのは、人体の急所となる脇や膝裏、足首。


 ……関節部を破壊して、動きを止めるッ!


 剣を奔らせ、大振りの隙に攻撃をねじ込んでゆく。


 次の瞬間、戦斧が届くより先に、四肢の関節部が破砕する。


「よしっ、これなら――」


 目に見てる成果に、一瞬、気が緩んだ。


 ――と、そのときだった。


「なっ……!?」


 横合いから、銀の拳が飛んできた。

 今にも千切れてしまいそうな四肢を強引に動かして、鎧が攻撃を放ってきたのだ。


 慌てて双剣を交差させて守りを固める。


 刹那ののち、拳と双剣が触れる。


 同時、その防御は一瞬にして砕け散った。


 ……け、剣が……ッ!?


 粉々に砕け散る双剣を眺めながら思う。


 確かに、予兆(きざし)はあった。


 それは黒竜との戦闘の後のこと。そのときには、すでに双剣の一部に亀裂が入っていた。


 この双剣は、師匠から渡されたもの。

 森に滞在する間、その修復を頼もうと思っていた矢先に、この戦闘だ。


 ……耐えられるわけがない、か。


 ぐっと唇を噛みながら、半壊した鎧を蹴り飛ばし、その勢いで鎧たちから大きく距離をとる。


「……これはちょっとマズいかな」


 警戒を緩めることなく、手元に目を落とす。

 そこには、跡形もなく砕かれた双剣が映り込む。


 ……絶対に師匠に怒られる、よなぁ。


 目の前の絶望的な状況よりも、ついその先のことばかり考えてしまう自分に苦笑が漏れ出る。


 ちょうど、同時に背後から複数の足音が近づいてきた。


「レオンさん!」

「……マリア。それにみんなも」


 振り返ると、見知った面々が駆け込んでくるのが目に入る。

 そこには、もちろん師匠の姿もある。


「む、レオン。その手のガラクタは、もしや……」

「し、師匠! そっちは無事片付いたんですね! よかったよかった!」

「……………………」


 顔を背けても、師匠からの冷たい視線が突き刺さるのを感じる。


 ……め、目が……いたい……。


 恐怖に震えそうになる腕を押さえながら、目を泳がせ続ける。

 すると、ようやく諦めてくれたのか、背後から盛大なため息が届いてくる。


「まあ、いい。――で、あの“異形”は?」

「ユウヤですよ。例の盗っ人の」

「……ふむ。にしては、妙な力に侵されているな」


 師匠の視線を追うように、こちらの様子を窺うユウヤへ視線を戻す。


 奴の周りには、無数の武具。

 対するこちらの手元には、大破した一対の双剣と使い古された一本の直剣のみ。


 ……一か八か、賭けに出るしかないか。


 覚悟を固め、破砕した双剣を虚空に消し去る。

 だが、腰の直剣は抜かない。


「――ひとつ、みんなに頼みたいことがある」


 代わりに、周りに立つ皆を見渡してひとつ()()を口にした。

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