第85話 レオンとレオナルド
場所は再び、洞窟内部……。
一度、続けざまに二度。都合三度。
洞窟内に鋼同士がぶつかり合う音が、壁に反響して広がる。
直後、大きくステップをとって後退。地面に片膝をつきながら、悠々と佇むユウヤを睨みつけた。
「……純粋な剣技のみだと互角ってとこか」
「ふんっ……。見え透いた虚勢を張るなよ、負け犬?」
視線を激しくぶつけ合いつつ、少し荒れた思考を整える。
……ああ。あいつの言う通り、もう想像以上だよ、ホント。
心の中で悪態をつき、ユウヤの手元を見る。
手に握るは、一本の剣。
背後に乱立する様々な武具は、まだその定められた位置から微塵たりとも動いてはいない。
つまり、今まで行われていた剣戟は、正真正銘互いの剣技のみでの戦いだ。
が、それでも競り負けている。
「キッツイなぁ、もう……」
深く息を吐きつけ、ゆったりと立ち上がる。
……さて、外の皆は――。
相手は騎士と魔物の軍勢。
数的不利を強いられたとはいえ、あの三人のことだ。そこまで心配はしていない。
きっとすぐに片づけてこちらへ戻ってくるだろう。そう思っていた。
しかし、今になっても戦闘の音は止まない。
むしろ激しくなるばかりだ。
……こっちも向こうも想定外ってことか。
外の様子を確認したい衝動に駆られるが、目の前のこいつがそれを許してくれるとは到底思えない。
「くそっ……」
舌打ちをこぼしつつ、まずは目の前の敵に意識を引き戻す。
と、そのときだった――。
「「……ッ!?」」
同時に息を呑み、視線を洞窟の外へ向けた。
「音が、消えた……?」
うるさいぐらいに届いていた戦闘音。
唐突にその一切が消え去っていた。
「いったい、何が……っ!?」
目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。
今必要な情報は音ではなく魔力。
自分の内部へ深く潜ってゆくような感覚に身を浸し、さらに深度を上げる。
そして、それが最大限に達した瞬間、温かな魔力が広げた感覚の端に触れた。
……これって、まさか――。
直後、さらにその温かな魔力が波となって広がってきた。
「なんだ、これは……ッ!?」
真っ暗な視界の中、ユウヤの狼狽する声が届く。
ゆっくりと瞼を上げる。
「……そっか。間に合ったんだな、マリア」
洞窟を満たす魔力に、自然と口の端が緩む。
肌を撫でるこの魔力の感じには覚えがある。
……『精霊の森』。それも『世界樹』から溢れる光と同じ感じだ。
何が起きたかはわからない。
だが、きっとこれはマリアが起こした奇跡。
なら、俺は――。
「――それを信じるのみ」
再び、剣をとる。
すると、怪訝そうに顔をしかめるユウヤと目が合った。
「……何をした、貴様」
「さあ? 俺の仲間がお前らのお仲間を片づけてくれたんじゃないか?」
「ほざけ……!」
今度は、向こうから剣を手に駆け込んでくる。
だが、その動きには少し違和感があった。
……さっきまでより、ほんの僅かに遅い?
踏み込む足。振り上げる腕。斬り込む剣速。
すべてが数分前と比べて、僅かに遅く感じる。
その差は『まるで別人』と言えるほどには存在しない。
が、剣士同士。至近距離。刹那の振りの差が勝敗を決する場面では、あまりに致命的。
「遅いッ!」
「がッ……!?」
剣の振りが遅れた刹那の隙間に身体を滑り込ませ、剣の柄頭でユウヤの腹を正面から殴りつける。
その衝撃に、たまらずユウヤはたたらを踏みながら大きく距離をとった。
「急に、速度が……上がった……っ!?」
目の前の現実を受け入れられないというように、ユウヤは大きく目を開いて虚空を眺めている。
それでも、腐っても騎士。そして、ここは戦場。
すぐに気を持ち直すと、今度はさらに敵愾心むき出しの瞳でこちらへ向かってくる。
……お次は二刀流で勝負、ってか。
直剣を捨て両手に握られたのは、二刀一対の短剣。
速度で負けたから、次は一撃の威力よりも取り回しの良さを重視したということだろうか。
……でも、残念だな。俺に競り負けたのは、決して得物が長剣だったからじゃない。
その理由が本当に理解できるまで、何度繰り返しても同じことだ。
「ぐっ……!?」
迫る二刀を眺めながら、どう返してやるか考える。
さっきと同じ隙間を縫うような方法じゃ面白くないだろう。
ならば――。
「だから、遅いって言ってるだろう……がッ!!」
「……っ!?」
長剣を鞘へ。代わりにユウヤと同じく短剣を手に取る。
そして、迫り来る短剣の嵐をすべて的確に捌き、こちらも同じ軌道をなぞって剣を振り返してやる。
「き、貴様……っ! 意趣返しのつもりか……!」
「正解。よくできました……ってなッ!」
やはり、まったく瓜二つの剣閃をなぞったとしても互角にならない。
徐々にこちら側が押し込み、ユウヤ側が劣勢になってゆく。
それにしびれを切らしたユウヤは一歩飛び退くと、背後に突き立つ大量の武具へと手をかざした。
「その醜い猿真似も、これならば――ッ!」
叫びと同時、背後の武具が浮遊。
それがピタリと静止したかと思った次の瞬間、それらが一斉に礫のように降り注いだ。
轟音。そして、静寂。
煙が晴れたその場所に立つ俺の身体には、かすり傷ひとつ刻まれてはいなかった。
「な、ぜ……だ……ッ!?」
目を開き、立ち尽くすユウヤ。
直後、洞窟内へひと際強い光の波が流れ込んできた。




