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第84話 神域

 唐突に右の手のひらから溢れ出した閃光。

 その光が視界を()いた直後、目の前で何かがドサリと崩れ落ちる音を聞いた。


「……っ!? これは、いったい……」


 あまりに激しい光に、視界はまだぼやけたまま。

 次第に世界に色が戻ってくる中、ようやく音の正体が目に映り込んできた。


「え……ど、どうして……?」


 足元に視線を落とすと、そこには先ほどまでこちらへ全力で駆け込んできていた若騎士が倒れ込んでいる。


 続けて、自分の身体に視線を移す。


 ……怪我は……ありませんね。


 何度確認しても怪我は見当たらないし、痛みも感じない。

 が、肌に触れる風、風に揺れる草木の音、すべて明瞭に感じる。


 どうやら、死の間際で幻覚を見ているわけではなさそうだ。


 茫然と立ち尽くしながら、つい数秒前、視界を奪われる直前の光景を思い起こす。


 駆け込んでくる騎士。振り下ろされる剣。せめてもの抵抗で伸ばした右手。

 そして、閃光。


 気づけば自分が無事に立っており、騎士が地面に倒れ伏している。


 ……どういうことなのでしょうか、これは……?


 未だに目の前の現実を受け止めきれずにいると、直後、三人がほぼ同時にこちらへ駆けつけてきた。


「無事かいな、姫サンッ!」

「……何があった?」

「え、えぇ、何とか……。何が起こったのかは、わたくしにもわかりかねますが……」


 困惑しつつも、皆の様子を順に見てゆく。

 軽傷こそあるものの、ひとまずは無事のようでホッと胸を撫で下ろす。


「こちらへ来られたということは、そちらは……――」

「ああ。なぜか、騎士たちが突然その場に崩れ落ちたものでね」


 クリスティアの言葉に、辺りを見渡す。


 足元に転がる若騎士と同じように、他の騎士たちもなぜか力を失ったかのようにその場にへたり込んでいる。

 それに、先ほどまで指示を受けて襲いかかってきていた魔物たちも、その場で固まってしまっている。


 訳も分からず言葉を失っていると、イヅナがこちらの背後を指さして、ひとつ問いかけてきた。


「で、聞きたかったんやけど、()()姫サンが出したんか?」

「え……?」


 首を傾げながら、後ろを振り返る。

 そこには、見知った大樹がこちらを見下ろしていた。


「どうして、こんなところに……」


 見間違うはずもない。


 あまりに似すぎた姿に、すべてを優しく包み込むようなオーラ。

 それらが、この薄く透き通った大樹が『世界樹』の写し身であると示している。


 少し視点を下へズラすと、右の手からその小さな世界樹へと光の帯が伸びていることがわかる。


 ……つまり、これはわたくしが呼び出したものだということでしょうか。


 右の手から光が漏れ出ていることを見るに、これがレフィナの託したかったものなのだろう。

 だが、こうして顕現した今もその力の全容は把握できない。


 ……ですが、これはおそらく――。


 考えを整理しながら、力を失ったように足元に倒れ伏す若騎士を見下ろす。


「ぐっ……! 力が……抜け……て……」


 何度も何度も立ち上がろうと膝へ力を籠めるが、腰が上がり切るより先にまた膝から崩れ落ちてしまう。

 それはまるで、力を吸い取られているかのようにも見える。


 同じく、少し離れた場所に転がっている騎士の中にはうまく立ち上がれない中、周囲の魔物に必死に指示を出そうとしている者も見受けられる。

 しかし、それも魔物側の反応がない。


 それらの情報を総合し、導き出される結論は――。


「――『恩恵の能力(ちから)を無効化し、吸収する空間を展開する』魔法、ですね」


 徐々に、騎士たちの恩恵を吸い取って世界樹の写し身が大きくなっているのがわかる。

 これが本物の世界樹と同じ背丈を持った際、どのような効果を持つのかまではわからないけれど、少なくとも今はその力が現状打破に役立つことに間違いはない。


 もう一度、右の手のひらを眺める。


 ……レフィナ様、()()()()は必ず。


 レフィナと交わした言葉を思い出し、再び視線を魔物たちの方へ。

 そこには、すでに自我を取り戻しつつある魔物たちの姿があった。


「……ふむ、“これ”の効力は魔物どもには薄いのだね」


 透明な大樹と動き始めた魔物たちを交互に見やり、クリスティアが冷静に分析する。


 確かに、恩恵により騎士たちからの指令を受けている様子は見られなくなったが、魔物たちは特に弱体化した素振りは見受けられない。


 ……人と魔物では、この大樹の力の及び方が違うということでしょうか。


 すでに態勢を整えている魔物と違い、騎士たちはまだ立ち上がることすらできていない。

 このままでは――。


「――少々、マズいかもしれませんね」


 今、わたくしたちは皆、魔物から少し距離を離しており、魔物の近くには満足に動けない騎士ばかり。

 魔物とは生来、目についたものを片っ端から襲ってゆくもの。


 つまり、周りには格好の得物(エサ)が転がっている状況、というわけだ。


 明確な殺意の視線を向ける魔物たちの動きに気を配りながら、三人に語りかける。


「皆さん。ひとつ、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「魔物をぜーんぶやってまえ、ってやろ?」

「……おまけに騎士を救え、もか」


 イヅナとドラグから立て続けにかけられる言葉に、思わず目を見開く。


「……! お見通し、でしたか……」

「表情に出過ぎるのだよ、君は。少しは感情を偽る(すべ)を身につけたまえよ」

「ぜ、善処します……」


 クリスティアからの指摘に、バツが悪くなり目を逸らす。

 が、すぐに表情を整えると、改めて三人にその『お願い』を口にした。


「――お願いします。どうか魔物の掃討、そして騎士の救出を」

「「「応……ッ!」」」


 ひとつに声が揃った直後、三人別々の方向へと瞬時に駆け出した。

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