第79話 因縁の二人
握る双剣の感触を確かめながら、ユウヤの前へ進み出る。
……ちょっとまだ慣れないな。
今握っている双剣は、今まで使っていたものとは違う。
黒竜との戦闘の際に破損した片割れを師匠に見られて、没収されてしまったのだ。
今は新調したものを使っているのだが、若干、まだ慣らせていない。
……ユウヤとやり合うなら、もう少し急ぎで慣らせておくんだったな。
とはいえ、この双剣は今までのものよりも俺の戦闘スタイルに合わせたものらしい。
精霊との交信を助け、その力を十全に引き出すことができると、これを渡してくるときに師匠は言っていた。
「――ぶっつけ本番にはなるけど、やるしかないか」
そう意気込み、眼前で佇むユウヤを睨みつける。
鋭い視線を受け、初めて向こうから口を開いた。
「足手まといを抱えて、余裕のつもりか?」
「いいや、それは早計だと思うけどな」
再びの沈黙……。
そして緊張感が極限まで高まったそのとき、唐突に背後から声が飛んできた。
「騎士サン、急に走り出してどないしたんや! って、なんやこれェッ!?」
「……騎士か。王都の」
警戒を若干薄めて、後ろを一瞥。
すると、ちょうど洞窟の入り口ぐらいに、息を切らして不満げなイヅナとドラグの姿があった。
「はぁ? 王都の騎士がなんでこないな物騒なとこにおんねや?」
「……知らん。そういうことは知っている奴に聞け」
「じゃあ、何が目的なんか吐けェ、そこの兄サンッ!」
二人の独特の温度差の掛け合いにも眉ひとつ動かさず、ユウヤは無言を貫いている。
「なんや、聞いても答えてくれへんで?」
「……こっちに聞くな」
なおもおかしなやりとりを続けている二人から目を離し、再びユウヤの方に向き直る。
「悪いな、こっちの方が優勢みたいだ」
「お前の言葉を借りるなら早計だ、レオン」
その直後、洞窟の外から何やら多くの足音が重なってやってきた。
「……?」
……なんだ、この音は?
人の足音に混じって、何かずいぶんと重量感のある音も届いてくる。
こんな樹海の奥地にそんな音を発するものなんて……――。
そこまで思考が至った瞬間、俺は後ろの二人へ全力で叫びをあげていた。
「……ッ!? ドラグッ! イヅナを抱えて横に避けろッ!!」
俺の言葉に、ポカンと口を開いて疑問符を浮かべるイヅナ。
しかし、ドラグはすぐに俺の伝えようとしている意図をくみ取ったのか、聞き返すこともせずにイヅナを肩に担ぎ、全力で横へ跳んだ。
「ちょっ……、なにすんねんっ!」
「……黙っていろ。舌を噛む」
二人が跳んだ直後、その場へ大量の矢と棘のようなものが突き立った。
「「なっ……!?」」
飛び退きながら、驚愕に目を見開く二人。
その鋭い視線は洞窟の外へと向けられていた。
「……騎士の増援か」
「いいや、ちょいと違うで。魔物のオマケつきや」
そう、襲撃者の正体はおそらく辺りの探索に出ていたと思われる騎士の一部隊。
しかし、その傍らにはこちらにだけ射殺すほどの眼光を放つ魔物の群れの姿があった。
……どうして、魔物を狩る役目を負うはずの騎士が魔物と?
ただの仲良しごっこにしては性質が悪すぎる。
が、何度現実逃避に目を擦ってみても、状況は変わらない。
魔物が騎士し使役されているようにしか見えない。
「どうだ、形勢逆転だろ?」
「さあ、それはどうだろうな? なかなか趣味の悪い遊びだとは思うけどね」
「フンッ……見え透いた嘘を」
面白くなさそうに鼻を鳴らすユウヤ。
すると、外の騎士たちがユウヤへ声を投げかけてきた。
「副隊長! ご指示通り、授けていただいた新たな恩恵による魔物の使役、確認いたしました!」
やはりというべきか、嫌な予想が当たったというべきか。あの魔物たちは使役されているようだ。
……それにしても、『新たな恩恵』ねぇ。
どうやら今回の大樹海侵攻作戦には、ファクティス神の思惑も絡んでいるようだ。
「よし、なら試運転をかねて、この襲撃者どもを片付けろ」
「はっ! ですが、こちらの方々は……?」
「貴様らの目は節穴か。この場に伏す騎士たちを見ろ。それを見てもわからん愚か者ではないだろう」
「なっ……!? かしこまりました。ただ今より、賊の掃討へと移らせていただきます」
先ほどとは打って変わって、最大限の殺意のこもった視線が騎士たちから飛んでくる。
「……なんとまあ、盛大な冤罪だことで」
もう弁明する気も起きないぐらい心底呆れ果てて、大仰に肩をすくめる。
――どのみち、もう戦うしかないのだ。
ならば、この場で必要なのは届かない反論の声をあげることじゃない。
ただ、目の前の敵を打ち倒す覚悟を決めることだ。
心を決め、己の中できっちり目の前の標的を敵と定める。
呼吸、ひとつ。
そうして波立った精神を鎮めると、ドラグとイヅナ、そして師匠に背を向けながら声を飛ばした。
「後ろ、頼めるか?」
「……ああ」
「任せときィ!」
全力で答えてくれる二人。
が、師匠だけは少し反応が違った。
「ずいぶんと偉そうな口を叩くようになったものだな。弟子の分際で師を顎で使うか」
……あれ、言葉間違えたか?
ここはひとつ弁明を――。
「あ、あの、顎で使うとかそういうことじゃなくてですね?」
「構わんよ。その代わり――後で覚えておきたまえ」
「ひっ……!?」
駄目だ。弁明失敗。もう後ろを振り向けない。
……もしかして、ここを生き延びても地獄が待っていると?
その未来を思い描いた途端、急に目の前のユウヤに対する恐怖が一切消え去っていた。
もしかしたら、これは師匠なりの一種のジョークだったのかもしれない。ジョークにしては肝が冷えすぎたが。
それが良いのか悪いのかはわからないが、ひとまず必要以上に委縮することがなくなったことは素直に喜ぼう。うん、そうしよう。
……そう考えないと、後が怖すぎる。
再び荒れ始めそうな心をなんとか鎮め、俺は視線を前へ。
どのみち、こいつを相手にしながら騎士連中と魔物どもを掃討できるはずもない。
だからと俺は剣の柄を握り直し、その片割れをユウヤへ向けて突き出した。
「やろうか、レオナルド」
その宣言に、ユウヤは一度目を見開いて、すぐに返す言葉を放ってきた。
「ああ、決着のときだ、レオン」
次の瞬間、二人同時に地面を蹴って一直線に駆け出した。




