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第77話 ユウヤ vs クリスティア

 刃を合わせたまま、名乗りを上げた相手を見据える。


 ……そうか。こいつが“あの”ユウヤか。


 レオンから話は聞いている。

 自分の肉体を奪った異世界からの来訪者だ、と。


「なるほど。そういう顔をしていたのか、あいつは」

「……?」

「いいや、こちらの話さ。気にする必要はない」


 不意に笑った私に、ユウヤは怪訝そうな表情を浮かべる。

 だが、それを「気にするな」と言ってやると、すぐに冷徹な表情へと切り替えて再びこちらを睨みつけてきた。


「お前は?」

「私か?」


 そう尋ねながら、何と答えるべきか少し考える。


 ……普通に答えてやってもよいが、それでは少し味気ないな。


「――ただの精霊とともに生きる一般研究者さ。覚えておいてくれたまえよ、少年」


 フッと口の端を上げ、少し柄を握る手に力を籠め、相手の刃を弾いてやる。

 そして、再び離れた距離から睨み合う。


 一瞬の静寂……。


 次の瞬間、二人同時に地面を蹴って駆け出した。


「「――……ッ!!」」


 一度、二度、三度。

 続けて剣を交える。


 何度も何度も、金属同士がぶつかり合う音が洞窟内に反響した後、お互い弾かれたようにまた距離をとった。


「……お前のような一般人がいてたまるものか」

「それは大層なお褒めの言葉をいただけたようで」

「チッ……」


 刃の代わりに言葉を交わしながら、ユウヤの全身を注意深く見つめる。


 得物は長剣。鎧は急所付近のみの軽装。

 刃を打ち合わせた感触から見ても、手数と技量で押すタイプで間違いない。

 つくづく、レオンと似ている。


 ……そんなことを口にすれば、あいつに怒られるだろうがね。


 肩をすくめ、柄を握りなおす。

 直後、ユウヤの姿が掻き消え、背後に強烈な殺気の塊が現れた。


「……ッ!?」

「まあ、そう焦るな。不肖の弟子に代わって、私が少し相手をしてやる」


 背後から振り下ろされた凶刃を視線もくれずに防いでやりながら、不敵に笑って宣言した。




 そこからの戦況は、あっけないほどに圧倒的だった。


「ふむ、それは先ほど見たな」

「くッ……!」


 一度見た剣筋を再びなぞってくる一閃を、指二本で優しく挟んで受け止めてやる。


「筋は悪くない。……が、少し直線的すぎるきらいがあるな」

「戦闘中に説教とは、余裕のつもりか……ッ!」


 弾かれたように勢いよく距離をとるユウヤに、口の端を上げて「それは違う」と訂正をする。


「“余裕のつもり”ではない。“余裕”なのだよ、少年」


 余裕、とは言ったものの、あくまでそれは現時点での話だ。


 まだこの戦闘は、純粋な剣技のみの戦いに収まっている。

 だから、たとえ相手が『剣聖』の恩恵(ギフト)に選ばれた者だとはいえ、同じく剣に精通する恩恵『剣魔』を持っていた者として渡り合えているし、経験の差によってユウヤを凌駕することすらできている。


 ……それも、いつまで続くかわからない。ならば――。


「では、次は君の“守り”を見せてくれたまえ」


 言い放ち、今度はこちらから剣を振るいにゆく。


「……ッ!」


 双剣の素早い斬撃を、まずは防ぎやすい軌道で叩き込む。

 それをきちんと防げることを確認してから、次はフェイントも混ぜて防ぎづらいものへ。


「ほう、これを防ぐのか」


 鍛え始めた頃のレオンでは一撃で沈められたような意地の悪い搦め手も、器用に長剣一本で防ぎきっている。


 ……これは少々、戦力予測を見直さなければならないかもしれないな。


 攻めが直線的でわかりやすいからと評価を落としていたが、これは想像以上の技量を持っていると見た方がいいかもしれない。

 自分の中での予測に上方修正を加えながら、さらに速度を上げ、剣戟の密度を上げてゆく。


 そうしてしばらく斬り結んだあと、両者同時に距離をとった。


「――勝てない、ようだな」


 ポツリとつぶやくユウヤ。

 だが、その言葉とは裏腹に、彼の目は未だに殺意に燃えている。


()()()()()()な」


 そう告げると、ユウヤはおもむろに剣を頭上へ振り上げた。


 ……この距離から何を――。


 怪訝に目を細めながら、一応の身構えはとる。

 だが、刃の振り下ろされた先は、こちらと真逆――地面に転がされたユウヤの仲間たちの方だった。


「ぐぁっ……!?」

「何を……!?」


 ひとり、またひとりと気絶している味方へ、凶刃を振り下ろしてゆく。


「……仲間、ではなかったのか。君らは?」


 困惑するこちらを無視して、ユウヤは血が滴る切っ先を恍惚とした目で見つめるばかり。

 そして、次の瞬間、遠かったユウヤの姿が不意に眼前へと躍り出てきた。


「鈍いな」

「なっ……!?」


 急いで地面を蹴り、距離をとる。

 だが、急接近してきたユウヤの切っ先が鼻先を掠め、前髪を僅かに斬り落としてゆく。


 なおも距離をあけようと大きく飛び退くが、その瞬間、背後に強烈な殺気を感じて振り返る。


「それに軽い」

「ぐっ……!」


 身を捻りながら、なんとか双剣を交差させてその一撃を防ぐも、そのまま大きく弾き飛ばされてしまう。


 ……急激に速度が上がった?


 奴が仲間を斬り刻んだ直後、身に纏う空気が一変。

 速度も力も、なにもかもが跳ね上がったように思える。


「さっき色々と説教をしてくれた礼だ。受け取れ」


 そう宣言して、ユウヤは手のひらを眼前へ突き出す。

 刹那、彼の背に大量の武具が現出した。


 巨大な(から)の鎧。背丈を超える大楯。禍々しい血の色の巨鎌。他にも三つ又の鉾や弓矢、暗器に至るまで、この世に存在する武具の数々が彼に従うように乱立していた。


「じゃあ、こっちから行かせてもらう」


 言い放ち、同時に指を鳴らす。

 すると、空の大鎧がひとりでに動き出し、大楯と巨鎌を手にこちらへ駆け込んでくる。


「どういう仕組みなのか研究者として気になるねッ!」


 巨鎌の一撃を逸らしながら、軽口を叩いてみる。


「余裕か。なら、これはどうだ?」


 続いて矢の雨が飛び出し、避けるこちらの動きを追尾してくる。


 ……厄介な。


 歯ぎしりの音を漏らしながら、ひとつひとつ的確に捌いてゆく。

 が、すべては捌き切れず、数本が身体に浅い傷を残した。


「おまけだ。こいつもくれてやる」


 追加で指を鳴らし、今度はクナイの雨が降り始める。

 数は、先ほどの矢の倍以上。


「これは少々マズいな……」


 手を止め、呆然と迫る暗器の雨を眺める。


「――王手(チェック)だ」


 完全に勝利を確信した言葉。

 しかし、それは背後から来た言葉に上書きされた。


「いいや、それにはちょっと早いんじゃないかな」


 同時、すべての暗器が撃ち落とされる。

 そして、足音。


 姿を見ずともわかる。この声は――。


「ずいぶんと遅いご到着じゃないか。バカ弟子」


 振り返ると、そこには不満げに肩をすくめるレオンの姿があった。

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