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第76話 邂逅の時

 弟子たちが精霊の森を訪れてから明日でもう二週間。

 今日も弟子たちは訓練に励んでいた。


「では、皆。今日もいつものように」

『あいあいさー!』


 精霊と一気に増えた弟子たちにそう告げてから、私――クリスティアはひとりで自宅へと戻る。


 部屋の中は以前とは違い、荒れた様子はない。

 書き散らしの紙束は床に散乱していないし、使い終えた食器の山も机の上に積み上げられてはいない。


 これもすべて、世話焼きの弟子どもが帰ってきたおかげだ。


「それにしても、まさか()()()でこんなに弟子をもつことになるとはな。人生とはわからないものだ」


 肩をすくめ、弟子たちの顔を思い浮かべる。


 王国を追放されて以来、人間とのかかわりはもう二度と持てないものだと思っていた。

 だが、レオンに引き続き、なかなか見込みのありそうな弟子が二人と、自分と同じく王家に濡れ衣を着せられたうえで追放された姫が一人。

 想像以上に色々な出会いをしたものだ。


「――が、あまりに拙い」


 一番マシなのがレオンだが、それでもまだ足りない。


 ……それまではまだ“子守り”が必要というわけだ。世話の焼ける。


 短く息を吐き、窓の外へ目をやる。

 すると、ちょうど精霊のひとりがこちらへ向かって飛んできているのが目に入った。


『きんきゅ~、だいしきゅ~!』

「ん、どうした?」

『また“だいじゅかい”にへんなかんじ!』


 またか、と思いつつ、目を伏せる。

 あいにく今、手が空いているのは私ひとり。


「……仕方ない、か」


 首筋を掻きながら、再び家を出る。


 向かう先は、『大樹海』。

 近頃、騒がしさを見せる樹海にほんの少しの胸騒ぎを覚えながら、結界の外へと足を踏み出した。




 大樹海に足を踏み入れて、しばらく経った。


「ふむ、これは……」


 境界線を踏み越えた瞬間から漠然と感じていた違和感が、今もずっと続いている。


 ……やはり、魔物の気配が少し薄いな。


 それは、レオンたちと再会したときから感じていたこと。

 あのときはてっきりレオンたちが腕試しもかねて駆除しながら進んでいたんだと思っていたが、どうやら少し違うらしい。


 それに精霊たちの感じた『へんなかんじ』っていうのも気がかりだ。


「ふん、レオンの奴を向かわせるべきだったな……」


 短く息を吐き、腰に佩いた双剣を一瞥する。


「“こいつ”の出番がなければよいのだがね」


 最悪の未来を予感しながら、さらに森を進む。


 そうしてさらに一時間ほどが経過した頃、()()()()を見つけ、足を止めた。


「これは――」


 視界に飛び込んできたのは、山のように積まれた魔物の死骸たち。その数は、実に二十体を超える。

 それも、この深度だ。魔物の強さもかなりのものになる。

 さらに特徴的なのが、魔物たちの身体につけられた大量の斬撃の痕。


 ――つまり、この数の魔物を容易く斬殺した者がこの近くにいる、ということだ。


「……一度戻るべき、かね?」


 足を踏み出しかけて、僅かに躊躇う。


 と、その瞬間、森の奥の方から精霊がひとり慌てて飛んでくるのが目に入った。


『たいへんっ! たいへんっ!』

「ん? 何かあったか?」


 いつもののんびりとした口調とは打って変わって、かなり焦っているのがわかる。


『“へんなひと”! ぼくたちのもり! さがしてるっ!』

「“へんなひと”……?」


 もしかして、と魔物の山を再び見やる。


 ……これは、戻ってなどいられないかもしれないね。


 一度、長い息を吐き出し、飛び出す精霊を追うために駆け出した。


 案内された先は、森の奥地にある小さな洞窟。

 入り口の陰に身を隠し、中の様子を窺う。


 ……騎士十数名。白衣の研究者、僅か。


 息を潜めながら、何やら床に資料を広げて議論を交わし合う連中の頭数をカウントしてゆく。


 ……遠足にしてはいささか命がけがすぎると思うのだがね。


 嘆息し、ひとまずは様子見を続ける。


 しばらく眺めていてわかったことがある。

 この連中はひとり残らず王国の所属だということだ。鎧や白衣に掲げた紋章がそれを物語っている。


 王国の騎士と研究者どもが大樹海に何の用だと言いたくなるが、そんなことを悠長に聞いていられる暇はない。


 ……それに何より、あの精霊の言っていた『奴らが精霊の森を探している』という言葉が気になる。


 ならば、と腰を落として目を細める。


「――早急に迅速に手っ取り早く、連中を眠らせてからじっくり資料を拝見させてもらうとしようか」


 見たところ、ここにいる騎士どもは木っ端ばかり。

 提げた双剣はまだ、抜く必要はない。


 隠形をそのままに、いざ洞窟の中へ。

 まずは手近な騎士ひとりを殴り飛ばしておく。


「ぐぁっ……!?」

「ふむ、鍛え方が足りんな」


 軽く顎を殴って気を失わせようとしただけだったのだが、思った以上に勢いよく吹っ飛んでいってしまう。


「な、何者だ、貴様ァッ!」

「弟子基準で考えるといけないな、まったく」


 騎士たちの怒号を聞き流しながら、自分の中の力加減の値を少し調節する。


「これならばどうかね?」


 それを試すように、もうひとり殴りつける。


 ――が、失敗。

 また吹っ飛んだ騎士が、洞窟の壁に身体を打ちつけられてしまった。


「なかなか骨が折れるな、適切な力加減というものは」


 ひとり殴り飛ばし、手加減の具合を調節し、また殴り飛ばす。

 その微調整の繰り返しを続けて、都合十数度。


 適切な力加減を身につけた頃には、すでに洞窟内に立っている自分以外の人影はひとつとしてなかった。


「……家事以外にも不得手なことがあったのだな、私にも」


 しみじみとつぶやき、足元に散らばる資料に目を落とす。


 と、その瞬間だった――。


「――ッ!」


 背後に強烈な殺気を感じ、双剣を抜き放つ勢いのまま振り返る。


 直後、ぶつかり合う刃と刃。

 飛び散る火花に目を細めていると、その向こうにある者と視線がぶつかった。


「……名を聞いても?」

「レオナルド。レオナルド・ウォーロック。王国第一騎士団の副団長を務めている者だ」

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