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第73話 師との再会

 意を決してこの『大樹海』に立ち入った俺たちの行程は、すでに三日目に突入していた。

 魔物除けの結界を張りながら野営を重ね、ようやく『精霊の森』も目前。


 ――と、そのときだった。


「――……ッ! 相変わらず無茶苦茶ですね、師匠……ッ!」


 合わされた刃越しに、突然茂みから飛びかかってきた相手――クリスティア・エッジワースその人に恨めしげな視線を投げつける。

 久しぶりに顔を合わせた師匠は、一切変わっていない。

 いい意味でも悪い意味でも……。


 師匠の刃を振り払ってから、大きく息を吐き出す。


「し、師匠……!? ということは、この女性が――」

「ああ、うん。この人が、俺の師匠『双魔』クリスティア・エッジワースです、はい……」

「うむ、いかにも」


 なんだか恥ずかしさを覚え、紹介する声が小さくなる。

 だが、師匠はそんなことを気にする様子もなく、堂々と胸を張って紹介を受けている。


 ――が、そんなのんびりとした空気はそう長くは続かない。


 突如、マリアたちと軽く話をする師匠が目を細める。


「ふむ、十、二十……いや、五十体ぐらいはいるな」


 そのつぶやきに、マリアが目を見張りながら狼狽しはじめる。

 だが、ドラグとイヅナはすでにそれぞれの武装を手に、腰を落として臨戦態勢を整えている。


 ……マリアには精霊魔法で援護をしてもらうとして、ひとりあたり十体と少しってところかな。


 この付近は、すでに大樹海の中でも深層。

 それ相応に魔物の凶悪さも跳ね上がっている。正直、かなり骨が折れるだろう。


 面倒さを感じながら、一歩踏み出す。

 しかし、それを制す手が横合いから伸びてきた。


「まあ待て、レオン。ここは師に見せ場を譲るべきではないか?」


 目を見開き、隣に視線を向ける。

 視線を受けた師匠は、口の端をニヤリと吊り上げながらその目に闘志をみなぎらせていた。


 ――そこからの戦況は実に一方的なものだった。


 多対一の状況だってお構いなしに戦場を跳ね回り、一刀振るうごとに一体、また一体と魔物が断末魔の悲鳴をあげる。

 それでいて、当の師匠本人は口の端を三日月の形に吊り上げている。


「す、すごい……」

「なんや、アレ。人間業やないで……」


 そのあまりに凄まじい戦いぶりに、マリアもイヅナも愕然としている。

 ドラグに至っては、完全に言葉を失っている始末。


 彼女の戦いぶりを知っている俺でさえ、あまりの暴れっぷりに若干引いているところだ。


 ……さては、最近暴れ足りなかったってところだな。たぶん。


 いや、絶対にそうだという確信がある。

 その証拠に、魔物を斬るごとに不気味なぐらい晴れやかな表情を浮かべている。正直、怖い。


 その後も、見る見るうちにその数を減らしていく魔物たち。

 だが、その数が残り十体を切った時、突然師匠が足を止めてつぶやいた。


「――飽きた」

「「「「……………………は?」」」」


 突然すぎるその言葉に、全員揃って目を丸くする。


 ……あぁ、出たよ。師匠の()()()


 昔からそうなのだが、この人は良くも悪くもかなりの気分屋なのだ。


 今回は憂さ晴らしを終えてスッキリしたから、もう「飽きた」ということなのだろう。

 それにしても今回のは突然すぎるが……。


 が、こういうときには何を言っても意味がないのは、すでに何度も経験済みだ。

 それに、これから先の流れは決まっている――。


「レオン。――やりたまえ。残りはお前が全部、な」

「はぁ、やっぱりそうなるんですね……。そうですよねぇ……」


 諦めたように首を横に振り、師匠の隣をすれ違うように前へ。

 そして、そのまま腰に佩いた長剣を引き抜いた。


「さて、見せてくれ。お前がどんな世界を見てきたのか」


 背中越しに値踏みされるような視線を感じながら、腹を括って魔物の群れに向き合った。




 開戦から数十分……。

 俺の周りには、魔物の死体の山が出来上がっていた。


「これで、二十……ッ!」


 久しぶりの長剣での戦闘に若干のぎこちなさを覚えつつ、次々と魔物を斬り伏せてゆく。


 その間も師匠は無言で腕を組んだまま、一切手を出そうとしない。

 しかも、マリアたちが助けに入ろうとするのを制して、完全に俺単独での戦闘を強制してくる。


 ……それに付き合わされているこっちとしては、たまったもんじゃないんだけど!?


 心の中で師匠に悪態をつきながら、また一体魔物に地面を舐めさせる。

 ドサリと魔物が崩れ落ちる音を聞いた後、次の標的へ視線を即座に移す。


 こうして魔物を減らし続けている中、ひとつ気づいたことがある。


 ……これは()()な。群れのボスが。


 俺が感じ取った気配は、魔物の群れのさらに奥――そこに確かに()()

 まだ姿こそ現してはいないが、俺へ確かに凄まじい殺気が向けられている。


「――来るか」


 急速に接近する気配に、柄を握る手に力がこもる。


 次の瞬間、魔物の群れを薙ぎ倒しながら現れたのは、六つの腕と濃い体毛に覆われた身体、そして鬼の角と面を持つ巨猿だった。


「どんなのが出てくるかと思えば、これはこれは……」


 これは少し、想定以上だった。


 ……思っていたより、骨が折れそうだ。


 今にも師匠に恨み言を吐きたい気持ちをぐっと堪え、鬼面の巨猿を睨む。


 そういえば、精霊の森で生活をしていた頃にはずっとこんな戦闘ばかりさせられていた気がする。

 あの頃戦った凶悪な魔物たちを思えば、この程度の巨猿とその群れぐらい撫で斬りにできなければ、師匠に笑われてしまう。


 ……いや、最悪の未来は『不甲斐ない弟子を教育しなおす』とか言って、もっと厳しい環境に放り込まれることだ。


 あり得る。非常にあり得る。


 背中にうすら寒いものを感じながら、先に飛び出してきた魔物を片手間に斬り伏せる。

 そして、それを数度繰り返した後。ついに片手で数えられるほどに魔物がその数を減らした頃、ついに巨猿が重い腰を上げた。


「――さて、さっさと済ませようか」

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