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第61話 城塞都市センテレオ

「おっ、お二人さん。そっちはなんか目ぼしいもんでもあったんか?」


 まだ別の部屋の調査をしているイヅナとドラグのもとへ戻ると、諦めの入った声が飛んできた。


 その声に応えるように掲げるのは、ひとつの封書。


「……それは?」

「どうやらここの実験の詳細が騎士団に流れていたみたいでね」


 アンゼルムの私室で見つけた封書。そこに記されていたのは、人体実験の詳細とその成功体の受け渡しなどについてのやりとりだった。


「……なるほど。騎士団となれば――」

「うん、ユウヤ絡みで間違いないだろうね」


 この中でも特に気になるのは、実験の成功体の横流しがあったこと。

 つまり、ユウヤが何らかの目的のために、あの複数の恩恵を操る実験体たちを集めているということだ。


 ……問題は、肝心のユウヤの企みがわからないってところだけど。


「このような残酷な実験を広めるなど、なんておぞましいことを……っ!」


 怒りに肩を小刻みに震わせ、うつむくマリア。

 その肩にポンッと手を置きながら、イヅナが前へ進み出てくる。


「せやけど、これのおかげで調べなあかんことがハッキリしたんとちゃうか?」


 確かにイヅナの言う通りだ。


 ユウヤの企みを阻止し、腐敗した王国をつくり直す。

 漠然とした望みはあれど、ここから何を調べていけばいいのか、正直少し行き詰っていた。


 だが、これでハッキリした。

 実験体の行き先を追う。それがユウヤの企みを暴く鍵となってくれるはずだ。


 そして、ここには実験体の受け渡し場所も記されている。

 それは王国南域に存在する城塞都市『センテレオ』。魔物はびこる大樹海の近隣に位置するため、強固な城壁で固められており、さらには冒険者の数が群を抜いて多い町として有名な場所だ。


 ならば、次の行き先は決まった――。


「よしっ、じゃあ行こうか。次は城塞都市『センテレオ』だ」


     ◇ ◆ ◆ ◇


 王都から大樹海の方角――南へ下ったところにある南域最大の町、城塞都市『センテレオ』。

 町の四方を高くそびえる城壁で守られたそこは、魔物に備えてか道を行く冒険者や警備兵の数が異様に多い。


「妙にピリピリしとるっちゅうか、嫌な空気しとるわ……」


 この張り詰めた空気に一番嫌な顔を見せたのはイヅナ。

 精霊を感知できるほどに感覚が鋭いからこそ、この殺気立った雰囲気が特にストレスとなるようだ。


 逆にドラグは無表情で気にした様子は一切ない。


 ……いや、それはいつも通りか。


 そんなとりとめのないことを考えつつ、町を見下ろす。


 俺たちが立つこの場所は、城壁の上。

 今回は別に一般人に偽装して情報収集をする必要がないから、真正面から入らずに『幻影』の魔法で身を隠しての潜入となっている。


 とはいえ、こんな無理やりの潜入じゃ、どこかでボロが出てもおかしくない。


 つまり、時間との戦いだ――。


「……こちらは東側を当たる」

「じゃあ、ウチは西側や」

『ぼくたちは、みなみがわ~!』


 ドラグ、イヅナ、精霊たち。皆、続々と声をあげる。


「なら、俺とマリアは北側を」

「はい、それで構いません」


 それぞれ捜索範囲を定め、別々の方角へと駆け出す。

 少しすると、この場に残ったのは俺とマリアの二人だけとなった。


「俺たちも行こうか」

「はい!」


 頷き合い、城壁の内部へ。

 そうして研究拠点を探しているうちに、すぐ内部を警備する兵の姿が目に飛び込んでくる。


 ……ひとまず数は二人。これなら気づかれる前に終わらせられるな。


 念のため、マリアに物陰に隠れてもらっておく。

 その後、両手に双剣を召喚しながら、一瞬で兵の背後へ。


 ……よし、まだ気づかれてはいない。このまま一撃で終わらせて――。


 双剣を全力で振り抜く。

 その刃は敵に気づかれるより先に、その意識を刈り取る。


 ――そのはずだった。


「なッ……!?」


 意識外から振り抜かれた双刃。

 それは敵の身体へと届くことはなく、忽然と現れた大楯によって阻まれてしまったのだ。


 刹那、兵の男と視線がぶつかる。


 その視線から身の毛もよだつほどの殺気を感じ取った俺は、全力で背後へ跳躍した。


「お前は、いったい……」


 腰を深く落とした体勢のまま、兵の男とにらみ合う。


 困惑を隠せない俺とは対照的に、男は感情を失ったかのように冷静なまま。

 ただ鋭利な刃物のような冷たい瞳でこちらを見つめている。


「……侵入者、発見。排除、する」


 温度のない冷え切った声が届くと同時、眼前に大剣の極太の刃が迫る。


 狭い通路での戦闘にそぐわない、大振りの剣。

 しかし、それをまるで細剣(レイピア)でも扱うかのように軽々と、それでいて的確に突きこんでくる。


 ……いや、それだけじゃない。


 剣身は風を纏い、掠めるだけで深く身を抉ろうとしてくる。

 さらには毒まで風に混ぜられているようで、こちらの装備も壁も、風が抉った場所はすべて腐食してゆく。


「これは、あの実験の成功体――恩恵(ギフト)複数所持者(マルチホルダー)で間違いないな」


 見えているだけで、剣の扱いに関する恩恵に風の魔法に関する恩恵、あとは腐食系の毒物を生成する恩恵の三つ。

 ただ、この世界樹で出来た身体には、腐食毒など効くことはない。

 その点は無視できる。


 が、これで全部だとも限らない。


 ……まずは何の恩恵が何種類使えるかを見極めないといけないな。


 持久戦の覚悟を決め、深く息を吐きつけた。


     ◇ ◆ ◆ ◇


 幸い恩恵の複数所持者はたったひとりだけだったようで、相手の所持する恩恵の底が見えた後は実に一方的だった。


 そして今、俺たちがいるのは城壁内部の奥深くにある研究室。

 そこでアンゼルムとのやりとりが記された手紙や人体実験についての手記を調べていた。


「うーん……、実験の記録はあるけど、それだけじゃ騎士団の企みが掴めないな……」


 ここでの実験は、アンゼルムと同じ恩恵を他者から他者へ移植するというもの。

 だが、ここは少し別のことも試していたようだ。


 ……『恩恵の合成』。あとは『無機物への恩恵の付与』か。


 ひとつ目の『恩恵の合成』は、その名の通り似た恩恵を掛け合わせてさらなる進化を促せないかという実験。

 もうひとつの『無機物への恩恵の付与』は、人形に付与して心を持たない兵士としたり、武器や防具に付与して強力な兵器をつくり出せないかという実験。


 つまり、これは――。


「――()()()()()()、といったところでしょうか」


 マリアの苦い顔のつぶやきに、俺は静かに一度頷いてみせた。

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