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第58話 窮地に活路を求めて

「くそっ! いくつ恩恵持ってんだよ……!」


 殺到する攻撃の嵐から身体を逃しながら、悪態をつく。


 戦端が開かれ、もうかれこれ一時間ほど。

 未だにアンゼルムが用意した護衛たちの持つ恩恵の数の底は見えない。


 見えているだけでも、単純でありながら強力な膂力を得る能力から糸や影を操る能力、さらには武術に精通する能力まで多岐にわたる。

 だが、真に面倒に感じているのはまったく別の能力だ――。


「これでも食らっとけ!」


 攻撃から逃れる際に投げ出していた双剣の一振りを魔力で編んだ糸を使って遠隔操作する得意技。

 それによって背後から強襲された護衛のひとりが、背に剣を突き立てられたまま倒れ伏す。


 が、問題はそこからだった。


「チッ……またか……」


 明らかにすぐ立ち上がれないほどの傷。

 しかし、倒れ伏したはずのひとりはすぐに何事もなかったかのように立ち上がって、背に刺さった剣を無造作に引き抜く。

 すると、数秒とかからずに刻まれた傷跡は掻き消え、流れた血の跡だけが残されていた。


 ……あれだけ好き放題攻撃しておいて、挙句の果てに自己回復っていうのはなかなかズルがすぎるんじゃないか?


 歯噛みをしながら、放り棄てられた剣を魔力の糸を使って手元に引き寄せる。


 自己回復なんて、ひとりいるだけでも厄介だ。

 だけど、今ので都合五回目。全員に致命傷レベルの傷を与えたが、そのすべてを回復されてしまった。


 ――つまり、五人全員がもれなく自己回復の恩恵を移植されている、ということだ。


 そんなことを考えているうちにも、間髪を入れずに攻撃の雨が降り注いでくる。


「あー、もう反則だろう、これは!」


 文句を垂れながらも、しっかりとそのすべてを回避する。


 と、そこでふと気がついた。


 ……ん? さっきよりも()()()()()()()


 攻撃をひとつひとつ丁寧に捌きながら、違和感の正体を探る。

 そして、攻撃の雨が一度止んだ瞬間、ようやくその正体に行き着いた。


「なるほど、ようやく見えたよ」


 片膝をついた体勢から腰を上げ、護衛たちを睥睨(へいげい)する。


「何が見えたというのですか?」

「そいつらの弱点、って言ったら?」

「……弱点?」


 怪訝そうに眉をひそめるアンゼルムに、わざと見せつけるように笑みをつくって返す。


「では、何が変わったのか、見せていただくとしましょう」


 告げて、アンゼルムは一度パチンッと指を鳴らす。

 その音がこちらの耳に届く瞬間、護衛五人の影が頭上に忽然と現れた。


「……死ね」


 純粋な殺意だけがこめられた打撃、斬撃、魔法の群れ。

 が、それを剣で捌くこともなく、ただ飛び退くだけで躱して見せる。


「ふむ、転移の恩恵まであるのか。それはなかなかに厄介だ」


 追撃の魔法の嵐を踊るようにステップをとりながら回避していると、徐々にアンゼルムの表情が曇っていくのがわかる。


 さすがに何度か、かすり傷程度の傷が刻まれるが、どれも致命傷には程遠い。

 そんなものはすべて無視し、ただ致命傷になりうるもののみを的確に避けていく。


 結果、攻撃が止んだ後、俺の身体にはどれも些細な切り傷程度しか刻まれてはいなかった。


 ……やっぱり、そうか。


 今の攻撃の嵐を見て、確信する。


 ――あいつらには明確な弱点が存在する。


 となれば、話は早い。


「じゃあ、そろそろ終わらせるか――」


 そう宣言し、双剣の柄をもう一度しっかりと握りなおす。

 次の刹那、俺の身体は護衛のひとり、その背後に飛んでいた。


「……効かぬ」


 即座に張られる障壁。たしかに、俺の攻撃は一度それで防がれている。

 だから、今回も弾かれるはず。


 だが、今回は違った。


「なっ……!?」


 斬撃から身を守るはずだった障壁はその意味をなさず、すんなりと刃が護衛のひとりを斬り捨てる。


 護衛たちの間に動揺が走る中、俺は二人目に狙いを定めて駆け出す。

 二人目は、斬られた味方を回復しようとしているヤツだ。


「そうだ。お前らの弱点って話だったよな」


 言いながら、残像すら見えないほどの速度で二人目の脇を通り抜ける。


「まずは一つ目、複数の恩恵を使えるが一度に使えるのは一種類ずつだということ」


 通り過ぎた後、一拍遅れて血飛沫が舞う。


「だから、こうして回復の隙なんかを突かれて必殺の一撃を叩き込まれる」


 さあ、あと残るは三人。


「次は二つ目。まあ、これは至って単純なことだ」


 背後から迫る気配に振り返ることもなく、振り下ろされた戦槌を片手で構えた双剣の切っ先だけで受け止める。


「どうした? 力、足りてないぞ?」


 口の端を吊り上げながら、ゆったりと振り返る。

 そして、状況を理解できていない三人目の身体に乱舞のような連撃を叩き込む。


「複数の恩恵を連続使用する関係上、消耗が激しく、徐々にその効力は落ちていく。だから、障壁は攻撃を素通りさせてしまうし、人知を超えた膂力は本来の半分以下しか発揮されない」


 言葉を区切って、続けて四人目、五人目と斬り捨てる。


「これがこいつらの弱点だよ、アンゼルム卿?」


 わかったかい、とわざと厭味ったらしく問いかける。

 すると、アンゼルムは一瞬呆気にとられたように表情を崩すも、すぐに元の冷たい表情を取り戻して鋭い視線を俺へ投げかけてきた。


「そんな程度で勝ったつもりですか? まだ残っていますよ?」

「ああ、()()のことか?」


 もう視線さえくれない。

 ただ気配だけで背後に肘での打撃を叩き込む。


「どうせ、死に損なったヤツが自己回復していたって話だろう? そんなもの、いくら襲って来たところで何も変わらないよ」

「くっ……!」


 そこで初めて、明らかな動揺の色がアンゼルムの瞳に宿る。


「で、ご自慢の実験体たちは職務放棄しておねんねの時間だが、どうする?」

「なぜ、こんな神の御恵みを得られなかった者に、私の最高傑作たちが……!」


 アンゼルムが悔しげに唇を噛むと、そこから血が滴って肌の上に赤の線を引く。


 その言い草から察するに、彼には抵抗できうるほどの力はないのだろう。


 ……そりゃ、当然か。


 どうせこういう輩は自分の身体を実験台にして、成功するかどうかわからない研究をするほどの覚悟はない。

 だから、実験体が負けた時点で()()というわけだ。


 双剣を虚空に消し、続けて腰の長剣を引き抜く。

 そして、その刃をうなだれるアンゼルムの首筋に押し当てた。


「じゃあ、幕引きだ――」

「ま、待ってください、レオンさん!」


 刃が首を断とうとした瞬間、背後からマリアの甲高い声が飛び込んできた。

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