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幕間5 起こりと終わり side.とある村の娘

 山間にあるとある小さな村。

 木材と畑の作物を売ることでなんとか食いつないでいるこのちっぽけな集落で、私は暮らしていた。


 今日も変わらない退屈な日常がやってくる。

 そう思っていたある日のことだった――。


「姉さん! わたし、見つけたの!」

「え、ええっと……なにを?」


 困惑する私に、妹が目を輝かせながら告げた。


「王都でね、見つけたの! いい仕事!」

「王都って、あなたこの村から出て王都で働くつもりなの……?」


 言外に危なくないかと問うも、妹は「大丈夫大丈夫」と軽い調子で首を横に振って見せる。


 話によれば、妹は王都でどこかの貴族様のお屋敷で使用人として働かせてもらえることになったらしい。

 最初は怪しい話だと思ったけれど、紹介してくれた人も貴族様の紋章が入ったメダルを持っていたらしく、それならばと安心して送り出した。


 しかし、それを後悔したのはその二月(ふたつき)ほど後のことだった。


「え、妹から連絡が来なくなった……?」


 毎週手紙のやりとりだけは欠かしていなかったが、それも急に先週から途絶えてしまっていたのだ。

 先週は忙しいだけだろうと思っていたが、今週も届かなかったとなれば、さすがに何かあったのではと不審に思ってしまう。


「ああ、あの子に限って手紙を書くのが面倒になった……、なんてことはないと思うのだが……」

「……お父さん」


 父の言う通り、マメな性格の妹に限って、そんな理由で一方的に手紙を返さなくなることは考えられない。


 結局、妹の様子を見に、私は王都へ向けて発つことになった。




「え、最近、姿を見ていない……ですか……?」


 王都へたどり着いた私が耳にしたのは、そんな信じられない言葉だった。


「ええ、よく毎日のように買い出しに来られていたのですが、先週ぐらいからめっきり姿を見なくなりまして……」

「そんな……」


 日用品を取り扱う店や食料品を取り扱う店。妹が手紙で名前を出していた店のどこで聞いても同じような答えしか返ってこない。

 その後、貴族様のお屋敷も訪ねてみたが、衛士に門前払いを受けてしまう。


 途方に暮れた私は、日が暮れる頃には村へと戻る準備を整えていた。




 村への帰り道。乗合馬車で山の麓まで戻ってきた私のもとへ、もの凄い剣幕でひとりの男性が駆け寄ってきた。


「な、なあ、そこのあんた! もしかして王都から来たのか!?」

「え、ええ。少し王都まで出ていまして。これから村まで帰る途中ですけど……」

「な、なら、うちの娘を見なかったか!? 一週間前に王都へ発ってから姿が見えないんだ!」

「え……?」


 その話はまるで私の妹の話のようで、耳を疑った。


「も、もしかして『王都でいい仕事を見つけた』なんて言って……――」

「……っ!? なんでそれを!? やっぱあんた、なんか知ってんのか!?」


 やはりまったく同じだ、と確信した。

 とはいえ、何が起こっているのか、完全に把握しているわけでもない。


 とりあえず男性には自分と妹の話をひと通り説明した後、情報交換のため、たびたび会うことを決めた。


 そして、その二週間後、私は同じく王都で起こっている行方不明事件の被害者たち。彼らと親しかった人物たちが集まった武装集団の噂を耳にするのだった。


     ◇ ◆ ◆ ◇


 目を覚ますと、夜空はすでに白さを取り戻しており、頭はぼんやりと霧がかかっているような感じがしていた。


「……あれ、私、いつの間にか寝てしまって……――」


 起き上がろうとするも、何か手首に巻きついた感覚があり、うまく身体を起こせない。

 しばらくもがいていると、様子を見に来た別の仲間の姿が目に入ってきた。


「お、おい。何があったんだ!」


 駆け寄ってきた仲間たちが手首の拘束をほどいてくれている間、昨晩のことを思い出す。


 ……昨日はレオンさんへ私たちの事情を説明して……――。


 そこでふと思い出す。

 たしか、その後、急に睡魔に襲われて意識を失ってしまったのだ。


「……あの、皆さんは?」

「……いいや、もぬけの殻だ」


 家の中を確認してみるも、やはりそこに彼らの姿はない。


 ……いったいどこへ行ったんだろうか?


 そう首を傾げていると、そこへ拠点の入り口で衛士をしていた仲間が慌てて駆け寄ってきた。


「おい、みんな! 柵の周りに変な霧が……! あと意味不明な立て看板も……――」

「お、落ち着け。ちゃんと聞いてるから!」


 取り乱して話が一切伝わってこない衛士を、別の仲間が落ち着けとたしなめる。

 すると、騒ぎを聞きつけたのかお頭が面倒そうな表情を隠そうともせずに歩いてきた。


「あァ? なにを騒いでんだ、テメェら」

「か、頭! そ、それが……。あ、朝になった途端、柵の周りに変な霧がかかって、外に出られなくなっちまいまして……」

「はァ? 気でも狂ったのか、テメェ? 霧なんて通り抜けりゃいいだけの話だろ」

「い、いえ、霧を通り抜けようとすると、いつの間にか同じ場所に戻されちまうんです……」


 埒が明かない、とお頭は私たちとともに拠点の入り口へ。

 そこには、衛士の言う通り濃霧が広がっていた。


「……ぁんだ、これは?」


 訝しむお頭の視線の先、そこには見覚えのない立て看板がある。

 看板に記された文言はこうだ。


『この拠点の周辺には()()()()の結界を張らせてもらった。


 この霧は敵意や害意のある者を通さない。王都への襲撃をやめ、元の生活に戻ると誓った者のみが通ることを許される。


 もし嘘をついて外へ出たとしても、不穏な動きを見せた瞬間、この場所へ強制的に連れてこられることになる。気を付けるように』


「ふ、ふざけやがって……っ!」


 看板の文言を見て、お頭が憤慨し霧へと突っ込んでいってしまう。

 その背を見送りながら、私は思う。


 ……どうしてあなたはこんなことを……――。


 そこまで考えて、ふと気づく。いつの間にか手に一枚の紙が握られていたのだ。

 おそるおそる視線を落とすと、何かの切れ端のようなそれには、綺麗な筆跡でこう記されていた。


『――君との約束は果たした』


「え……?」


 その瞬間、私は昨晩のこと――気を失う寸前に放った言葉を思い出した。


『……お願い、します。私、たちを……止めて……。私たち、を……、たす、け……て……』


「もしかして、あなたは……――」


 そこまで考えた後、私は深々と頭を下げた。

 霧の向こう。どこか遠い場所にいるはずの彼らへと。

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