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第50話 逃げ延びた先で

 窓の外、門のあたりに続々と集結してくる怪しげな集団から視線を外さずに、背後の三人に指示を飛ばす。


「イヅナは先頭、ドラグはマリアを抱えて真ん中に。俺が殿(しんがり)を務める。異論は?」


 問いかけ、振り返る。

 すると、ドラグがすぐさまマリアを担ぎ上げ、イヅナも扇を手に不敵な笑みを浮かべた。


「なんや、ウチみたいなか弱い乙女が先陣切ってもええっちゅうんか?」

「性格的に殿なんて地味な役目、したくないだろ、イヅナは?」

「ハッ、ようわかっとるやんか」


 最後に、マリアへ問いかける。


「いいかな、それで?」

「……はい。こうなってしまえば、致し方ありません」


 すぐに気持ちを切り替えて、マリアも小さく頷く。


 それを確認した直後、玄関口の方からひと際大きな破砕音が鳴り響いた。


「――イヅナ!」

「任せぃッ!」


 視線でコンタクトをとり、イヅナに先行してもらう。

 続いて、指示するまでもなく、マリアを担いだドラグがその背を追って駆け出していく。


 ……じゃあ、俺も――。


 一歩。踏み出した、その瞬間だった。


「――ッ!?」


 窓が割れる音がして、咄嗟に大きく飛び退く。

 鋭く睨みつける視線の先。そこには窓から押し入ってきた黒づくめの襲撃者が五人、腰を低くして立っていた。


「……さすがに五人は面倒だな」


 吐き捨てながら、腰の長剣の柄に手を添える。


 次の瞬間、殺到してくる黒づくめの集団。

 だが、一切慌てることなく、ゆったりと剣を引き抜いていく。


 そして、五人の持つナイフが触れる直前、横薙ぎに剣を振り払った。


「まだまだ師匠には及ばないか……」


 宙に浮いていた五人が同時にドサリと落ちるのを確認することもなく、踵を返して三人を追う。


 そうして合流を果たした俺たちは、一時間後、潜入した王都からの脱出に成功したのだった。


     ◇ ◆ ◆ ◇


 王都から抜け出した俺たちが今歩いているのは、鬱蒼とした森の中。

 顔の高さにある木々を手で避けながら、森を奥へ奥へと進んでいた。


「……まさか、逆戻りする羽目になるなんてね」

「……ええ、想定外でした」


 ――そう、俺たちが向かう先は『精霊の隠れ里』。


 あの場所なら普通の人間は知っているはずもないし、もし万が一その存在を知っていたとしても、精霊の案内なしにたどり着くことはできない。

 そういう特別な場所なのだ。


「にしても、精霊の気配がとんとせんなぁ……」

「……また道が逸れたのではないのか? お得意の迷走術で」

「お? ケンカ売っとんか?」


 ドラグとイヅナの軽い口喧嘩のようなものを聞きながら、さらに奥へと進んでいく。


 すると、少し進んだあたりで物音がして、ふとその足を止めた。


「これは、人の声……?」

「……ああ、あとは獣の臭いだ」


 ドラグと目を見合わせ、同時に頷く。


「イヅナ。マリアのそばについていてくれるか?」

「任せとき」


 イヅナにマリアの警護を任せ、まずはドラグとともに先行。

 邪魔な枝葉だけを双剣で斬り落としていきながら、音のする方へ疾駆する。


 たどり着いた、騒動の中心。

 そこには三体の魔物と、その姿に怯えて立ちすくむ十人程度の男女たちがいた。


 ……どうして、こんなところに人が?


 いや、疑問に思うのは後だ。

 まずは――。


「――魔物の殲滅だ、ドラグ!」

「……承知した」


 襲われている人たちを背に庇いながら、魔物と対峙する。


 魔物とはいえ、見る限りそこまで強力な個体はいないよう。

 すぐに一体、また一体と斬り捨てていき、数分後にはもうここに立っている魔物の姿は存在しなかった。


「じゃあ、とりあえず事情を聴かせてもらってもいいかな?」


 ゆったりと振り返りながら視線を向けるのは、木の幹に身を隠してこっちの様子を窺っている男女数名。

 見たところ、全員歳は若年~中年層ぐらい。

 どの人も身体つきは荒事向きじゃないように見受けられる。


 ……とてもじゃないけど、魔物を討伐しにきた冒険者には思えないな。


 それに、目を凝らしてみるとわかる。

 手に持つ武器のどれもが錆びていたり、刃が欠けていたり、柄が曲がっていたりと、まともなものがひとつとしてない。

 まるで、農民が無理やり武装したみたいなチグハグな感じを覚えた。


「わ、我々は……その……」

「そ、そこの魔物に急に襲われたんだ! 俺たちは悪くない!」

「は、はぁ……」


 なんだか剣呑な雰囲気になりかけたところに、マリアが割って入る。


「ひ、ひとまず彼らを安全な場所までお連れしませんか? ここに留まるとまた魔物に襲われないとも限りませんから」

「ええんちゃうか? で、どこに連れてく?」

「……この森からならば、王都が一番近い町ではありますが――」


 たしかに王都は一番近い町ではある。

 ただ、歩いてすぐ、と言えるほど近いわけでもなく、そもそも王都で騒ぎを起こした俺たちが近づくのは問題がある。


「なら、彼らの住んでいる場所まで送り届ければいいんじゃないかな?」

「そ、それは……」


 しかし、彼らは俺のその提案になぜか難色を示して、互いに顔を見合わせる。

 何やら相談を始めた彼らの背中を眺めながら、その不審な様子に少し考え込む。


 ……まるで、見られたくないものでもあるみたいな――。


 そこまで考えると、ちょうど向こうの結論も出たようでひとりの女性が進み出てきた。


「それでは、申し訳ありませんが私たちの()()までお願いできますでしょうか?」

「は、はい。もちろん構いません!」


 彼らの先導で向かうのは、森のさらに奥の方。

 そんなところに人が住んでいるなんて、普通は考えられない。


 ……それに()()って言い回しもちょっと気になる。


 彼女は村や町ではなく、わざわざ()()と言った。それが引っかかっていた。


 疑問に首を傾げているうちに、彼らは目的地にたどり着いたようで一斉に足を止める。


 視線を上げる。

 そこには、手づくり感満載の不格好な木を繋ぎ合わせた柵のようなものが突き立っていた。

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