第47話 王女の協力者
精霊たちに手紙を届けてもらうことになってから数日、その返事を待つ間、俺たちは精霊の隠れ里に身を寄せていた。
「なんかこうしてゆっくり出来るのも久しぶりだな……」
北域では誘拐事件に魔物騒動、ヘネラの町では切り裂き魔事件。
ここ最近、どうものんびりできる時間がなかったなと、ゆっくりできる時間ができた今になってようやく気づけた。
『のんびり~びりびり~』
『びりびりしびれる~』
空中にふらふらと浮かぶ精霊たちの様子を眺めながら、本当にここの隠れ里の精霊たちとは性格が違うな、と感じる。
オラティオーの島で出会った精霊たちはそこまで違いを感じなかったから、だいたい同じだと思っていたけど、そうでもないらしい。
……ここの精霊たちはたまに王都に出てるみたいだし、そのあたりの影響かな?
うーん、とひとしきり唸ってみるも、特にこれといった答えは出てこない。
気分転換もかねて、精霊たちがつくってくれた急ごしらえの寝床から出てみる。
振り返って見た寝床は、人ひとりがすっぽりと収まる程度のサイズ。草を敷き詰めたベッドだけがある、こじんまりとしたテントみたいなものだ。
外見も、一見するとただの草むらに思えるぐらいに青々とした草に覆われている。
「おはようございます、レオンさん」
「ふわぁ……ねむ……」
「……しっかりしろ」
広場の方へ出てゆくと、ほかの三人とも同じように集まってくる。
マリアとドラグははっきりと目を覚ましているが、どうもイヅナは半分も目が開いていない状態で、ふらふらと危なっかしい足取り。
「ほら、あそこの泉で顔を洗ってくれば目も覚めるだろ。早く行ってくればいいよ、イヅナ」
「あー、そうさせてもらうわー……」
ふらついた足取りのまま泉の方へと向かってゆくイヅナの背を見送っていると、不意にこの里に住む精霊のひとりが飛び込んできた。
『文の返辞を持って参ったぞ』
「もう届けてくださったのですね! 感謝いたします!」
感謝の言葉とともに精霊から手紙を受け取ったマリアへ、すぐさまペーパーナイフを召喚して差し出す。
そして封を切った手紙の中から出てきたのは、数枚の紙の束。
そのひとつを手に取ったマリアは、満足そうに口の端を緩めた。
「流石ですね、アンゼルム卿は――」
聞き覚えのない名前に眉をひそめながらマリアの手元を覗き込むと、見やすいように少しこちら側に傾けてくれる。
「これは、身分証か……?」
紙の束は、合計で四枚。
誰かもわからない人の名前や似顔絵が書かれたその紙の端の方には、何やら貴族の紋章のような印が押されている。
見覚えがある中だと、冒険者ギルドでもらった登録証が一番似ている。
「はい、偽造身分証ですね」
さらりと告げるマリアの顔を見て、イヅナは目を丸くする。
「いやいや、偽造言うてもウチらと似ても似つかん人の身分証渡されてもかなわんで」
「……そこは大丈夫だろう」
イヅナの疑問に答えたドラグが、不意に周囲の精霊たちを指さした。
「……彼らの力を借りれば問題ないはずだ」
「あっ……!」
そう、幻影を使っての正面突破が難しいと感じていたのは、見破られる可能性というよりは、身分を保証するものがないからというのが大きな理由のひとつだった。
運よく王都へ入ることができても、そういう小さな違和感から綻びが生じてしまう。
だからこそ、今の俺たちにはこういう『怪しい者ではない』と担保してくれるものが必要だったのだ。
「でも、こんなものいったい誰が?」
誰に手紙を出したのかも知らない俺たちは、一様に首を傾げる。
すると、マリアは中に入っていた手紙の下の方を、その細く白い指で示した。
「アンゼルム・ヒューブナー?」
「はい。我が国の侯爵のひとりで、わたくしが王都を抜け出す際の手筈を整えてくださった陰の協力者なのです」
それから告げられるマリアの話では、どうやらそのヒューブナー侯爵はマリアの思想に強く賛同していたようで、ほかの王子たちに気取られる危険を顧みず牢から解放し、王都の外へと逃がしてくれたとのことらしい。
「とても高潔な方で、お兄様方のどの派閥にも属していない中立派の中核を担う人物だったのです。ですが、王都を離れたことで連絡手段を失っておりまして……」
「なるほど、それで精霊にその役を頼んでいたってことか」
「ようわからんけど、それで王都に潜り込めるっちゅうことか?」
「……適当すぎだ」
イヅナの出した結論に皆が白い目を向ける。
そうして、俺たちは王都へ潜入するためのピースをすべて揃えられたのだった。
◇ ◆ ◆ ◇
「ふむ、通ってよし」
壮年の男騎士の渋い声を聞きながら、俺たち四人は門をくぐって王都へ入る。
すると、あまりの人の多さに圧倒され、一斉に足を止めた。
「今日は祭りなんか? えらい人多いんやが……」
「……ああ、ここから見えるだけでも、亜人の集落よりも遥かに多い」
二人は初めて王都に来たみたいで、キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回している。
逆に、マリアの視線はまっすぐと、ある一点を捉えている。
その視線の先を辿ると、中心に向かって階段状になっている王都の頂上――白亜の城が鎮座していた。
「……ついに戻ってきたのですね、この場所へ」
覚悟を決めたような鋭い視線を向けるマリアの肩に、そっと優しく手を置く。
「行こう、宿とってくれているんだろ?」
「え、ええ。アンゼルム卿が手配してくださっているはずですが……」
「おーい、二人とも。ほら、行くぞ!」
数度手を叩いて、なんとかイヅナとドラグの意識を現実に引き戻す。
そして、手紙に記されていた場所に向かうと、その建物を見上げて、四人全員で言葉を失った。
「えっと……宿、なんだよね……?」
「え、ええ……。そのはず……なのですが……」
言葉に詰まりながら、その建物の各所を確認してゆく。
俺たちの中で一番大きなドラグの背丈よりも優に高い門。
明らかに四人では持て余すほど膨大な部屋数あるうえに、廊下には立派な壺などの調度品が並べられている。
「どう見ても『屋敷』やないかい!」
イヅナの勢いのいいツッコミを聞きながら、俺とマリアは丸くしたままの目を見合わせる。
「……屋敷の設備の確認をしてくる」
「あ、ああ、頼むよ」
ドラグがマイペースにどこかへ向かってゆくのを見送り、俺たちはひとまず手近な部屋に荷物を下ろす。
それから屋敷への侵入者や不審物などがないかの見回りを精霊たちに頼んだり、食料なんかの確認をしてきたり、それぞれ役割を分担して自分たちの拠点を作り上げてゆく。
そうこうしているうちにドラグが戻ってきて、ついに俺たちは王都での調査を開始したのだった。




