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第46話 精霊の隠れ里

 王都へ発つ決意を固めてから三日ほどして、ここヘネラの町に長らく滞在していた騎士団も魔物の調査に北へと旅立っていった。


「じゃあ、そろそろ俺たちも行こうか――」


 宿屋を出て、今は町の外。

 王都へ続く一本道に立った俺たちは、南の方へ決意を籠めた視線を向けた。


「――王都へ」


 皆の表情を順に見ていくと、力強く頷き返してくれる。


「とりあえず、王都までの途中にある村にいくつか寄って、情報を集めていこう」

「はい、それで構いません」

「……賛成だ」

「せやな。ウチもそれでええわ」


 全員の了承が取れたところで、ゆっくりと歩き出す。


 さあ、ここから俺たちの本当の闘いが始まるんだ――。



 ……なんて、意気込んだ俺たちだったが、なぜかまたしてもどこかわからない森の中を彷徨っていた。


「……王都までは一本道、だったよな?」

「え、ええ。そのはずですが……」


 マリアと顔を見合わせ、同時に首を捻る。

 そして首を傾げた体勢のまま、ここまでの道のりを思い出す。


「たしか、商隊を襲っていた魔物を見つけて、マリアの頼みで助けに入ったはいいものの、またまたイヅナが暴走して逃げる魔物を追撃しはじめて、深追いに深追いを重ねて気づけば森の中……っと」


 ……うん。なんか、似たようなこと前にもあったな。


 イヅナの方に追及の目をやると、あからさまに目を逸らして口笛を吹き始めた。


「~~~♪」

「……少しは自重しろ」

「なっ! んな殺生な!?」


 思った以上にあの二人の相性はいいんじゃないだろうかと、そのやりとりを見ていて思う。

 だが、たしかにイヅナには“自重”や“慎重”という言葉を知ってほしいものだ。


 すると、俺たちの冷ややかな視線に耐えかねたのか、イヅナはわざとらしく声を張り上げた。


「あー、もうわかったわ! 王都までの道さえわかりゃええんやろ! 大人しく道案内役しとりまーす」


 いじけるような物言いに思わず苦笑が漏れる。

 そんな中、イヅナは周囲の精霊たちと言葉を交わして、ここから王都までの道のりを調べていた。


 そうしてしばらく経ったとき、イヅナは目を丸くしながらこんなことを口にした。


「――ん、『“精霊の隠れ里”に案内したい』やって?」


     ◇ ◆ ◆ ◇


 森の中をこの土地に住む精霊たちに案内されながら進んでゆくと、すぐに薄い膜のようなものを通り過ぎる。

 その瞬間、一瞬で景色が切り替わった。


「な、なんですか、ここは!?」

「……転移? いや、幻影か?」

「ほぇぇぇ……島にもこんな場所はなかったわ……」


 皆の表情を見てゆくと、全員同じように驚いてポカンと口を開いたまま固まっている。

 しかし、俺は少し違う印象を受けていた。


「……懐かしいな」


 ここに流れる空気というか、雰囲気というか、そういったものがなんとなくあの『精霊の森』に似ている感じがしたのだ。

 あの薄い膜のようなものを通り抜けた感覚すらもそっくりだ。


 ……師匠、元気にしてるかな?


 あの森に住む師匠のことを思い出しながら、先導する精霊についてゆく。


 しばらく進んだ先、精霊たちが飛び回る広場のようなところに行き着くと、急に俺たちの方に興味の視線が殺到した。


『ややや、お客人とは珍しい』

『ほう、人間に亜人、さらには人間ですらない者までおるとは』

『それに異邦の精霊までおるではないか』


 ここの精霊たちはやけに古めかしい喋り方をするみたいだ。

 俺に手を貸してくれている精霊たちには子どもっぽい無邪気なタイプが多いせいか、てっきり精霊とは『そういうもの』だと思っていた。


 ……精霊の性格にも、結構、地域差みたいなものがあるんだなぁ。


 なんてことを考えていると、その間に他の皆は精霊たちにすっかり囲まれてしまっていた。


『どこから来られたのだ?』

「えっと、ヘネラという町から王都に向かう道中でして」

『ふむ。ヘネラというのはわからぬが、行き先が王都とな』

「……(こくり)」

「何かあるんか? 王都に」


 精霊の口ぶりにどこか含みのようなものを感じて、イヅナが問いかける。

 すると、精霊のうちひとりが重々しく口を開いた。


『実は王都の方へ出た同胞が、妙な噂を耳にしたと言っておってな――』


 そんな不穏な前口上から告げられた内容は、「王都では行方不明事件が頻発している」というもの。

 その言葉を聞き届けたマリアは、怪訝そうに眉を寄せた。


「ここでもまた、行方不明事件ですか……」


 マリアの言葉に、俺も亜人種の集落での一件が脳裏によぎる。


 ……人体実験、だったか。


 行方不明やら切り裂き魔やら、近頃の王国は物騒な事件が多すぎる。

 俺が騎士団にいた頃はそうでもなかったと思うんだけど……。


「やはり、王都に舵を切って正解でしたね」

「……ああ」


 あのままユウヤら騎士団を追って北域に戻っていれば、この王都で起こっているという行方不明事件を知ることもなかったはずだ。


「ま、まあ、ウチは全部知っとって、ここに誘導しとってんけどな? 迷ったわけやないんやからな? な?」


 皆、真面目に現状を分析している中、イヅナだけが空気を読まずに弁明の言葉を並べている。

 だけども、イヅナの大暴走のおかげでここにたどり着けたのもまた事実。


 結局、誰も苦笑いを浮かべるだけで、反論することもなく生暖かい目で見守るばかりだった。


「じゃあ、まず王都を目指すってのはそのままでいいとして、問題は……――」

「ええ、王都への潜入方法、でしょうか」


 王都とは、すなわち敵の本拠地。

 マリアを謂れのない罪で投獄し、『灰の魔女』の汚名を着せた王子たち。そして、彼らの手足となって働き、外敵排除のために動く騎士たち。

 そんな彼らが巣食う王都は、今や“魔窟”とでも呼ぶべき場所だ。


 そこにノコノコと正面から入っていったところで、即座に囲まれて袋叩きにあい、そこで一巻の終わりだろう。


「無難なところだと、また精霊たちの力を借りて幻影なんかで無理やり侵入することだろうけど……」


 この方法に関しては、ヘネラがそれほど厳重な警戒態勢を敷いていない町だからこそとれた策。

 この国で一番厳重であるはずの王都で、まったく同じ手法をとって違和感なく正体を隠し通せるかと言われれば、正直難しいだろう。


 皆で同様に唸りながら思案に暮れていると、ふとマリアが口を開いた。


「……あの、とある方に手紙を届けることは可能でしょうか?」

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