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第42話 王都の北の玄関口

「君たち、この町――『ヘネラ』に来た目的は?」


 町への玄関口、門の足元で衛兵にそう声をかけられる。


「えっと、王都に向かう途中でして、必要なものを買いそろえるために数日ここに宿泊しようかと」

「なるほど、王都に。では、何か身分を証明できるものは?」

「えっと、このカードで大丈夫ですか?」


 そう言って取り出すのは、冒険者登録をした際に渡された一枚のカード。

 それを受け取ると、衛兵は満足げに頷く。


「よしっ、通っていいぞ。冒険者、()()だ」


 彼の言葉にピクリと一瞬眉が動いてしまうが、そのまま俺は何事もなかったかのように衛兵に手を挙げて町の中へ。

 そして、しばらく進んだ後、路地裏に入って手を鳴らす。


「ありがとう、みんな。もう幻影、解いていいぞ」

『あいさー!』

『りょーかい!』


 精霊たちの声が届いた瞬間、俺の背後に気配を感じて振り返る。

 すると、そこにはさっきまでは見えていなかったマリア、ドラグ、イヅナの三人が頭まですっぽりと隠れるローブに身を包んで立っていた。


「……いやぁ、路地裏にローブ集団が固まっていると、怪しさ満点だな。提案したの俺だけど」


 あまりの怪しい出で立ちに苦笑いで肩をすくめる。


「ホンマやで、騎士サン。あのまま見つかったらと思うたら、気が気やなかったわ」

『みつかるわけないじゃーん』

『しんがいしんがーい』

『そうだそうだー』

「いやいや、すまんの。皆サンのこと疑ってたわけやないんや。ホンマすまん。許してくれんか? 後生や、後生」


 なんていうか、ちゃんと謝る気があるのかないのかわからない絶妙に軽い謝罪のやりとりが目の前で繰り広げられている。

 その間にイヅナから横に視線を移すと、ドラグが両手を握ったり開いたりして落ち着かなさそうにしていた。


「……鱗のない身体は、落ち着かない」


 今、竜の亜人たる象徴の硬い鱗や鋭い爪はなく、ドラグの身体は普通の人間と大差ない姿に変わっている。


「ああ、それもさっきの幻影と同じようなものだよ。感触も変えている分、手は込んでいるけど」


 こういう大きな町では、亜人種はあまりに悪目立ちしすぎる。

 だから、人に見えるように、精霊たちに頼んで細工をしてもらったのだ。ただ、どうしても身体の違和感は消せなかったようだ。


 そんな話をしていると、おずおずとマリアが手を挙げた。


「皆さん、まずは宿を取りませんか? これからの話はその後でゆっくりと」


     ◇ ◆ ◆ ◇


 どうにか安宿の一室を確保できた後、俺は変装したドラグとともに、この町にある冒険者ギルドの支店へと足を向けた。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。依頼の受注でしょうか? 報酬の受け取りでしょうか?」


 出迎えてくれた受付嬢からは、眼鏡をかけた知的な印象を受ける。

 それと同時に、こうも思った。


 ……あ、普通だ。


「……? どうかされましたか?」


 何も話さない俺たちを見て、受付嬢が首を傾げる。


「あぁ、いや、なんでもないんで、お気遣いなく」

「そ、そうですか……?」


 ……言えない。最初に会った受付嬢が《《あんなの》》だったから、ほかの人もおなしな人ばっかりなんじゃないかって思っていたなんて。


 思えば、ドンクルの受付嬢は強烈だった。

 なにせ、出会って最初のひと言が『いらっしゃいませ! 依頼の受注にしますか? それとも報酬の受け取りにしますか? それとも魔物の……か・い・と・り?』だったし。


 あのときはあまりにもおかしな出迎えの言葉に、一度『すみません、間違えました』と外に出てしまったほどだ。


「では、ご用件をどうぞ」


 再度そう促されると、急激に現実に引き戻される。


「えっと、俺たちはこの町に来たばかりなんです。なので、この町の近況というか、情報を聞かせてもらえないか、と」

「なるほど、そういうことでしたか。冒険者は『情報が命』ですからね」


 すると、彼女はこの町で最近起こったことなどを話してくれる。

 近くにどんな魔物が出たか。今はどんな依頼が多いか。おすすめのお店や、この町の特産まで。


 ……普通に平和な町って感じか。


 話を聞く限り、目立った事件もなければ、治安が悪い連中もあまりいないようだ。

 これなら、王都に向かうまでの準備をしている間、そうそう大きな問題が起こることはないだろう。


「ありがとうございます。また依頼を受けるときは、よろしくお願いします」

「ええ、我がギルドはいつでも冒険者の皆様をお待ちしております」


 最後にそう言葉を交わし、俺はギルドを出る。

 そこには無言で腕を組んで待つドラグの姿があった。


「……問題はなかったか?」


 一瞬、見慣れない人間姿のドラグに声をかけられて反射的に身体がビクッと震えるが、すぐに気を取り直して向き直る。


「ああ、一応目立った問題はなさそうかな?」


 そう言いながら歩き出した俺は、そのまま宿まで向かう道中、さっき聞いた話をざっくりとドラグに説明してやる。

 すると、薄い表情の中にも、少し安堵のような色が見えた気がした。


「……ならいい」


 それでも素っ気ないドラグの返事を聞きつつ、宿への道を歩き続ける。


 この辺りは商業地区のようで、人も多く行き交っている。ただ、徒歩の人だけでなく、馬車なんかも時々道の中心を通っている。


 ……ここらへんは王都にちょっと似てるかな?


 王都の方がもっと徒歩の人が少なく、馬車の方が多いが、今まで訪れた町の中では一番王都に近い印象を受けた。


 辺りを観察していると、ふと違和感に気づく。


「ん? 何か向こうの方が騒がしいな……」

「……見てくるか?」

「いや、俺も行くよ」


 先行して様子を確認してこようかとドラグは提案してくるが、いくら平和な町とはいえ、何が起こるかわからない。

 念のため、いつでも武器を展開できるように身構えておきながら、俺も一緒に騒ぎの中心に駆け寄っていった。


「すげぇ……。王都の騎士様なんて初めて見たよ」

「やっぱりここいらの衛兵とは違って、歩いているだけで凛々しさが溢れてくるわねぇ……」


 そんな小声のやりとりが聞こえてくる。


 ……王都の騎士?


 疑問に首を傾げながら、門の方から馬に乗って行進してくる一団に目を凝らす。

 人数はだいたい二十名に満たないぐらい。皆、同じデザインの白銀の鎧を身に纏い、胸のあたりには王国の紋章が刻まれている。


 間違いない。あの一団は、王都の騎士たちだ。


 ……だけど、どうしてこの町に?


 基本的に王都の騎士団というのは、魔物の討伐などの任務がない限り、そうそう王都から出てくるものではない。

 ただ、この町の周辺には今、そんな大きな事件はないと聞いている。


 そのとき、俺の目にひとりの男の姿が留まる。


「……おいおい。なんでお前がここにいるんだよ」


 騎士たちを率いる先頭、皆と同じ騎士鎧に身を包んだユウヤが馬上から野次馬たちを見下ろす姿があった。

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