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第41話 巫女と竜人

「イヅナさんの同行ですか? ええ、もちろん構いませんよ。わたくしも島民代表の方から頼まれましたので」


 マリアにイヅナのことを聞くと、あっさりとそんな答えが返ってきた。


「島民代表から?」

「はい。『我らの中でも特に精霊様とのかかわりが深い巫女であれば、必ず何かの役に立つはずです』と」

「精霊とのかかわりが深い巫女か……」


 その言葉に、ふと考える。


 ……精霊を祀る巫女。彼女にはどんな力があるんだろうか?


 俺たちと同じく精霊と心を通わせることができるのが、巫女だという。

 だけど、その力について詳しい話は聞いていない。


 ……もしかすると、俺や師匠と同じように精霊の力を――。


 そうだとすれば、心強い。


「まあ、今度ちゃんと聞いてみればいいか」


 自分の中でそう結論付けて、マリアとともに海岸線へ。

 すると、そこにはすでに支度を整えたイヅナとドラグの二人が待ち構えていた。


「さあ、行こうやないの。姫サン、騎士サン」

「……舟はいつでも出せる」

「ああ、ありがとう」


 四人で乗り込む小舟は、少し手狭に感じる。


 そのまましばらく波に揺られて大陸側に戻ると、すぐに長老が数人の亜人を引きつれてやってきた。


「おかえりなさいませ。よくぞご無事で」

「長老、こちらに被害はありませんでしたか?」

「ええ。高波が押し寄せてはきましたが、目立った被害はありません。これもお二方のおかげです、本当にありがとうございます」


 頭を下げる長老とマリアの話を聞き流しながら、周辺に目を配る。


 確かに長老の言う通り、目立った被害の跡は見えない。

 海沿いには簡素ではあるが、防衛用の木の柵が建てられている。

 きちんと忠告通りに海岸線の警備を固めてくれていたようで安心した。


「なるほど、そちらの方がオラティオーの協力者なのですね」

「ああ、そうや。長老サン、よろしゅうな」

「ええ、こちらこそ」


 軽く握手を交わす二人。

 すると、横合いからドラグが声をかけてきた。


「……長老。オレに集落を出る許可を」

「ドラグさん……?」


 首を傾げるマリアに、ドラグは感情の読み取れない表情のまま向き直り、告げた。


「……オレも、ついていく。亜人種の代表として」


     ◇ ◆ ◆ ◇


「良かったのか、ドラグ?」


 亜人種の集落を出てしばらく、俺たちは北域から南へと下っていっていた。


「……ああ。どのみち亜人種からも誰かが同行することになっていただろう」

「ん? ウチのせいか?」

「……違うとは言い切れないな」

「ハハハッ! おもろいな、竜の(あん)サン!」

「……竜ではない。ドラグだ」

「そうかそうか! 竜人やったな、兄サン!」

「……ドラグだ」


 何やらおかしな会話をしている二人をよそに、俺たちは先へ先へ歩き続ける。

 すると、もう集落の影すらも見えなくなった頃、ついに初めての魔物と遭遇した。


「ほら、二人とも。話はそこまで」


 向かいの森の入り口付近、見えるだけでも十体ぐらいはいるだろうか。

 ほとんどが猿や狼などの小型。数体だけは熊のような大型の魔物も混じっている。


「マリア、二人にこの間の“アレ”を」

「は、はい……っ!」


 まだ若干緊張に声を上擦らせているマリアの声が届いた直後、後ろをついてきていたイヅナとドラグの肩口に精霊の光が灯る。

 そして、イヅナには着物と扇、ドラグには戦斧(ハルバード)全身鎧(フルメイル)に、それぞれ別の武装へと姿を変えた。


「ぅしっ、じゃあウチから行かせてもらうで!」

「あっ、イヅナさん! ちょっと待っ……――!」


 マリアの制止も聞かずに、明らかに後衛職(サポーター)らしい武装のイヅナが意気揚々と魔物の群れへと突進していった。


「食らいぃ! これが『精霊の炎』や!」


 扇を横に薙ぐと、そこから金色の炎がブレスのように広がってゆく。


「なるほど。自分が燃やすと決めた対象のみを燃やす炎か」


 イヅナが大立ち回りを繰り広げる様を眺めていると、魔物だけが燃やされ、周りの木々には一切燃え移る気配がないのがわかる。


 精霊は自分の思いを具現化してくれる。

 だから、敵である魔物を除くすべてのものは、絶対に燃えないものとして自分の中で確固たるイメージを持っているのだろう。

 面白い発想だ。


 だが、さすがに数が多い。


「すまない、ドラグ。ちょっとイヅナのサポートをしてもらえるかな? ちょっと周りが見えてなくて危なっかしいから」

「……ああ、任せろ」


 短い返答の後、ドラグが戦斧を肩に担いだまま駆け出す。


 そこから、本格的な魔物の掃討が始まった――。




 戦端が開かれてから、約三時間ほど。

 俺たちはなぜか、鬱蒼と草木が茂る森の中を当てもなく歩いていた。


「……ここは、どこなのでしょうか」

「……さあ、俺にもさっぱり」


 つまり、道に迷ったのだ。


「うぅん……ちょいと調子乗ってもうたかな……?」

「……深追いは厳禁だ」

「えぇ、先に言うといてほしかったわ」

「……言ったんだが」

「ウチが覚えてないから、つまりは言うてないってことやな!」

「……はぁ」


 意外とこの二人は相性がいいのかもしれない。

 実際、さっきの戦闘でも二人の連携は急ごしらえだとは思えないほどにしっかりとしたものだった。

 だから、スムーズに魔物の掃討が進んでしまったというわけだ。


 だけど、今回はそれが悪い方向に転がってしまった。


 ……まさか、あれほどイヅナが好戦的だったとは。


 まさに猪突猛進。

 魔物の姿を認めると、すぐに危険だとか考える間もなく突進していったのだ。


 そのせいで迷ったわけではあるんだけど……。


「でも、こうなれば元の道に戻るのは難しいだろうなぁ」


 元々、森を迂回して進むルートをとっていたのだが、森をすでにそこそこ奥まで入ってきてしまったせいで、入り口の方へ戻ることすら難しい。


 ……さて、どうしたものか。


 ひとり頭を悩ませていると、後ろからちょいちょいとイヅナが肩を指で叩いてきた。


「ここはウチがええとこ見せるとこちゃうかな?」

「何か案があるってこと?」

「ふっふっふ、刮目や!」


 懐から数珠を取り出すと、それを手にしたまま合掌した。


「この森に住まう精霊様。どうか私どもの言葉に耳を傾けてください」


 まるで祈るような仕草をとったまま、姿の見えない精霊に向けて語りかける。


 そのままどれぐらい経っただろうか。

 すると、次第にイヅナの周りに精霊の光が集まってきた。


『何奴……?』

『人の身でありながら、この地に来訪せし者が現れようとはな』


 俺の知る精霊とは言葉遣いからして違う。

 しかし、イヅナはすぐに彼らと打ち解けて、今も次の目的地までの道のりを尋ねている。


 ……そうか。これが巫女の力か。


 精霊とすぐに打ち解け、自分の味方にしてしまう。

 やっぱり、イヅナを仲間にして正解だった。


「あっちに人がめっちゃ住む町があるみたいや! ほら、行くで!」


 いつの間にか話を終えていたイヅナが、森の奥を指さしながら先へ先へ進んでゆく。


「……あとは、あの性格だけなんとかなれば、だなぁ」


 呆れながらも、精霊たちにお礼を言ってから彼女の後を追う。

 そして森を抜けた先、そこには亜人種の集落の何倍も大きな町が待ち構えていた。

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