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第40話 新たな仲間

 星の明かりが照らす中、俺たちはオラティオーの集落の中心で酒を酌み交わしていた。


「酒だ! あるだけ持ってこい!」

「誰かこいつを止めな! もうひとりで樽を飲み干そうとしてるよ!」

「あぁ? 俺の酒が飲めねえってのか!?」

「あはは! 誰に話しかけてんだ。そいつ、犬じゃねえか!」

「もうこいつらダメだ! 物置小屋を人だ犬だとか言って話しかけてやがる!」


 あちこちから怒号かと思うほどの大声が飛び交い、中には会話として成立していない謎の独り言のようなものまで聞こえてくる。

 もう誰も彼も顔を真っ赤にして、酔いに身を任せているような状態だ。


 ある人は肩を組んで昔話に花を咲かせていたり、ある人はそこらへんに転がっている小石にぶつかって「ごめんなさいごめんなさい」と謝っていたり、ある人は酔いつぶれて酒を手にしたまま道端で寝転がっていたり。


 なんとも騒がしくて、混沌とした宴が広がっていた。


「まあ、今日ぐらいはいいかな……」


 なにせ、今日はあのどうしようもないと思われていた魔物の脅威に立ち向かい、打倒した記念すべき日なのだ。

 今日ぐらいは羽目を外してもいいだろう。


 そんなことを思いながら、自分も酒をゆっくり呷る。


「……この身体じゃ酔えないことだけが、まあ残念だけど」


 続けて少しずつ酒を飲んでいると、ふと背後に気配を感じて振り向いた。


「レオンさん、楽しんでいますか?」

「まあまあかな」


 酒を持つ手を挙げながら、近づいてくるマリアを見上げる。

 すると、彼女も手にしていた酒のカップをコツンと合わせると、俺の隣に腰を下ろした。


「マリアこそ、王女様にはちょっと刺激が強いパーティーなんじゃない?」

「まあ、王都ではこのようなパーティーは開かれておりませんから。ですけど――」


 一度ぐるりと見回して、にこやかな表情で告げた。


「皆さんが笑い合っているこういう空気は、嫌いではないです」

「そっか……」


 その言葉を聞きながら、マリアと同じように周りを見渡す。


 みんなの笑顔はとても晴れやかで、とても楽しそうで、それを守れたんだと思うと悪くないなという気持ちが湧いてくる。


「……うん、悪くないな」


 そう言いながら、酒をもう一度呷った。




 酒も進み、宴も終盤に近付いてきた頃、祭りの陽気な雰囲気と似つかわしくない硬い表情の島民が数人近寄ってきた。


「……少し、よろしいでしょうか?」

「あなたは……」


 先頭に立ち、声をかけてきたのは何度も言葉を交わした島民代表の男。

 彼はまずマリアに向かって頭を下げた。


「あなた様方への数々の無礼、誠に申し訳ございませんでした」


 一拍遅れて、後ろに控えていた数人も続けて頭を下げる。


「……この者たちはあなた様を口汚く罵ったことを悔やみ、直接謝罪を申し出た者たちでございます」

「私どもは我を忘れ、我らの大切な島を救ってくださろうとしたあなた様に心無い言葉を……――」

「そ、そんな! 頭を上げてください!」


 揃って頭を下げ続ける島民たちに、マリアは大慌てで彼らに顔を上げるように声を張り上げる。

 しばらく粘っていたが、彼らもさすがに折れて頭を上げていた。


「す、すみません。我らも少し宴の熱にあてられて冷静さを欠いていたようです……」

「い、いえ、わかっていただけたなら何よりです」


 ようやく冷静になった両者は、そのまま腰を落ち着けて話始める。


「そういえば、あの滝の裏の像は無事でしたか?」

「ええ、神像も精霊像もすべて傷ひとつありませんでした。あなた様方のおかげです」

「いえ、わたくしのおかげなどではありませんよ。実際に恐怖を押し殺してあの脅威に立ち向かったのはレオンさん、そしてあなた方です」

「そう、ですね。ですが、我々に戦う力をくださったのは、あなたです。マリア様」


 ようやく、打ち解けてきたみたいだ。

 お互いに頬を緩めながら、酒のカップを差し出しあう。


「――マリア様。我らオラティオーの民に、あなた様の王道を支え、ともに戦うことをお許しくださいますか?」

「許すもなにも、わたくしたちはすでにともに戦った“戦友”ではありませんか」


 そして、コツンと軽くカップを合わせて笑い合った。


     ◇ ◆ ◆ ◇


 翌朝目を覚まして家の外に出ると、まだそこら中に寝息を立てながら転がる島民たちの姿があった。


「……うん、酔えない身体になって良かったのかも?」


 なんとも言えない微妙な気持ちを抱えながら、前に案内してもらった道を通ってあの滝へと向かう。

 相変わらずの轟音と跳ねる水飛沫を見て、少しホッとする。


 ……話は聞いていたけど、実際に目にすると「ちゃんと守りきれたんだ」って実感が湧くな。


 この間、精霊たちが咲かせた綺麗な花畑もそのままの姿で残っている。


「せっかくここまで来たんだし、手でも合わせていこうか」


 日頃から精霊には世話になっているのだ。

 たまには祈りぐらい捧げてもいいだろう。


 ……まあ、はじまりの神とやらには会ったことがないけど。


 自虐ぎみの笑い声を漏らしながら、滝の裏へ。

 そして、像に手を合わせようと奥に進んでゆくと、そこには先客がすでに膝を折って、祈りを捧げていた。


「君は……――」

「……ん? ああ、姫サンの騎士サンかいな」


 ゆっくりと目を開き、振り返る巫女服の女性。

 彼女はこちらに視線を流しながら立ち上がり、自分の名を口にした。


「ウチはイヅナや。この島で巫女の真似事なんかやっとる(モン)や。よろしゅう」

「ああ、君が島民たちを取りまとめてくれたっていう巫女か。こちらこそよろしく」

「なんや、こそばゆいな」


 お互いに手を差し出して、軽く手を握る。


 挨拶もそこそこに、俺もイヅナに(なら)って片膝をついて精霊像と神像に向かって祈祷をはじめる。


「そういや、騎士サン。こっから姫サンとどこへ行くんや?」


 無言の時間がしばらく流れた後、目を開けたイヅナが発した第一声がそれだった。


「そうだな、マリア次第だとは思うけど……。それが何かしたのか?」

「いや、昨日お偉いサンらが決めたらしいんやけどな。協力者って言うても、何十人もでぞろぞろ旅するわけにはいかんやろ? やから、誰かが代表になってついていこうってことになったらしいんや」

「で、君がその代表として来ると?」

「まあ、そんなとこや」


 顎に手を添えて、少し考える。


 確かに二人だけではできることが圧倒的に少ない。

 それに精霊を信仰する巫女ともなれば、俺たちとの相性も悪くないだろう。


「そっか。マリアに聞いてからにはなると思うけど、これからよろしく頼むよ」

「よしっ、決まりやな!」


 ニカッと笑うと、イヅナは腰を上げて表に出てゆく。


「……なんていうか、調子狂うなぁ」


 首筋を掻きながら、俺もその後を追った。

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