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第37話 立ち向かう者

「……さすがにこのサイズはどこから攻撃すればいいのかって感じだなぁ」


 海面を走りながら見上げる巨大イカは、見上げている首が痛くなるほどに規格外の大きさをしている。


 相手にとって、こちらは海の上を跳ねる小魚程度にしか思っていないのだろう。

 まったく意に介さず、ただひたすらに島へ向かって前進を続けている。


「まあ、まずは様子見といこうかな」


 いつまでも考え込んでいても、何も始まらない。


 一度息を吐くと、鞘に仕舞われた剣の柄を強く握って跳躍した。


「まずは一本――ッ!」


 そいっ、と気合を入れながら、垂れる触手の一本を両断する。


 ……あれ、思ったより簡単に切れる?


 ほんの少しの違和感を覚えつつ、もう一本、二本と連続で切り落としてゆく。

 そして、五本ほど切れたあたりで、ようやく巨大イカはこちらに敵意とともに視線を向けた。


「おっと……!」


 切り落とされたものと別の触手が頭上から迫り、それを大きく飛び退くことで避ける。

 直後、空を切る触手が叩いた海面から水柱が上がったのが目に入った。


「一本だけでも威力は十分っと……」


 当たるとひとたまりもないだろうけど、切り落とすこと自体はそれほど難しくもない。

 要は時間の問題だ。


「これなら、別に島民の助けを借りてこなくても大丈夫だったかな」


 躱して、斬って、躱して、また斬る。

 それを繰り返していくうちに、巨大イカの触手は両手で数えられる程度までにその数を減らしてくる。


 ……いや、イカにしては触手多いな。


 本当にイカなのかと疑問を持ちながらも、また剣を振るう。


 そして、その腕の数が五本を斬った頃、異変は起こった――。


「……まあ、そう簡単にはいかないよなぁ」


 頭上からの攻撃が止んだかと思った瞬間、切り落とされた断面がボコボコと泡立つようになると、そこから肉が隆起して新たな腕が生えてきたのだ。

 それも次々と凄まじい速度で修復されてゆき、数秒後には元の傷ひとつない姿に逆戻りしてしまっていた。


 このままで終わるはずがないと思っていたが、まさか回復能力を持った魔物だったとは……。


「さて、じゃあこれから第二回戦といきますか……!」


 息を吐いて気合を入れなおすと、目の前の巨大イカを見上げる。

 すると、今度は巨大イカも俺を敵だと認めたのか、しっかりと殺意の籠められた視線でこちらを見下ろしてきていた。




 一足で大きく飛び退いて、巨大イカと距離をとる。


「斬撃はそこまで効果がない、となると……」


 握ったままの剣を鞘に戻し、両手を空ける。

 次の瞬間、両手にそれぞれ風と炎の魔法が現れた。


『ぼくらもさぽーとするよ!』

『するよっ!』

「うん、助かるよ」


 精霊たちの助けをありがたく受け取ってから、もう一度立ちはだかる巨大イカへと駆け出してゆく。


「まずは一発……!」


 手始めに右手に集められた炎を弾のように投げつける。


「で、二発……ッ!」


 炎が巨大イカの本体に着弾したと同時、そこへ風を送り込み、さらに炎の勢いを強めてやる。

 強まった炎はそのまま巨体の全体へと広がってゆき、しばらくそのまま燃え続ける。


「……さて、魔法(こっち)の結果はどうかな、っと」


 火の勢いが収まるまで見守り続ける。


 だが直後、炎から姿を現した巨大イカは表面を少し焦がした程度で、まったく目に見えるほどのダメージは入っていないように思えた。


「まあ、そうだよなぁ……」


 しかも、こうしているうちにも、黒く焦げた箇所が元の白さを取り戻していっている様が目に映る。


 触手を切り落としても、すぐに生えてくる。

 本体を魔法で焼いても、すぐに修復される。


 とはいえ、こうして立ち止まっていれば、触手を広げてじりじりと島への距離を詰めてくる。


 正直、回復能力を持つ魔物がここまで面倒だとは思わなかった。


「回復力に限界があるならこのまま時間をかければ大丈夫だろうけど、もし限界がないなら――」


 気を落ち着かせるように息を吐いて、今度は風を両手に収束させる。

 そして、それをさっきより大きく、強く纏め上げてゆく。


 自分が制御できる限界まで風を集めて、それを暴発寸前で留めて、眼前の巨体を見上げた。


「――やっぱり、すべてを吹き飛ばせる一撃で破壊するしかないよな」


 ニヤリと口の端を上げて、両手を巨体へ向ける。


「これで吹き飛――ッ!?」


 全力で暴風を解き放とうとした瞬間、頭上から()が降ってきた。


「なっ……!」


 意識外からの一撃に咄嗟の回避もとれず、身体が宙に浮く。

 その瞬間、ギリギリで押しとどめていた暴風が手を離れる前に炸裂した。


「ぐっ……!?」


 制御を失って破裂した暴風の圧を受けて、凄まじい速度で弾き飛ばされる。

 それでも何とか体勢を立て直した後、背後にキッと鋭い視線を向ける。


 そこには、鎌首をもたげる大蛇の姿があった。


「いったい、いつからここに……?」


 サイズは、巨大イカと変わらないほどまでに大きい。

 こんな大木のようにそびえる魔物を見逃すことがあるだろうか……?


 困惑に足を止めていると、大蛇の尾が水面から飛び出してこちらを薙ぎ払ってくる。

 大きくバックジャンプして今度こそそれを躱す。


 そして全力で距離をとった後、短く息をつく。


 ……ただでさえ厄介なのが二体か。


 巨大イカだけなら、少し手こずる程度で済んだかもしれない。

 が、そこにどんな能力を持っているかもわからない、同程度の巨体を持つ大蛇の魔物まで現れたのだ。


 ……これはまず魔物が増えた原因を突き止めて、それを排除するのが先だな。


 そう方針を決めて、大蛇の周囲に目を配る。


 すると、巨体の背後、揺れる海面に何やら一部分だけ光を放っている場所があることに気がついた。


「あれは、もしかして――」


 あの血を思わせる赤黒い光には、ひとつ心当たりがある。


 それを認識した瞬間、俺は大蛇に向かって跳躍していた。


「シャァァァ――ッ!!」


 大口を広げて迎撃してくる大蛇の横をすり抜け、その背後へ回り込む。

 そして、その光の元凶へ目を向けた。


「お前の目的は()()だったのか、ユウヤ」


 目に飛び込んできたのは、洞窟の奥で見つけた魔物を喚び出す魔法陣。

 これで大蛇は召喚されてきたのだろう。

 やはり、ここにもユウヤの名前が記されていた。


「『せいぜい足掻いてみせろ』か」


 ……まったく癪に障る。


 苛立った気持ちをぶつけるかのように、魔法陣が揺れる海面へ剣を一閃。

 海面から飛び散った飛沫が収まった頃、もうそこには魔法陣の光は僅かたりとも存在していなかった。


「さてと、これでもう魔物は増えないだろうけど……」


 ゆっくりと二体の魔物へ振り返る。

 二体はすでに臨戦態勢を整えてこちらを見下ろしていた。


「……この状況、どうひっくり返そうか」

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