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幕間4 策動する者たち side.転生者ユウヤ

 ……時は遡り、王都。


「行ったか」


 ユウヤはそうこぼすと、抜き身の剣を鞘に仕舞う。

 しかし、遥か遠くの空を見るその目は、未だ鋭いまま。


 すると、その肩口に小さな光が生まれた。


『転生者ユウヤ。あの者はお前の身体の――』

「……ええ、理解しておりますよ。女神ファクティス」


 光の玉に目を向けることなく、ユウヤは答える。


 豆粒程度すらも見えない遥か上空にいた者は、姿かたちこそ違えどこの身体の元の主――レオナルドだと、瞬間的に察した。


「にしても、あの方角は……」


 飛び去って行った北の空へ視線を向け続ける。


 そのまま訓練場にひとり佇んでいると、ふと背後から声が来た。


「レオナルド様。第一王子ダスティン殿下がお呼びでございます」


 振り返ると、黒い装束に全身を包んだ者が片膝をついてそこにいた。


「……音と気配を殺すなと散々言い聞かせておいただろう」


 その手は、剣の柄に置かれている。

 いつでもその首を刎ね飛ばせるように、と。


「申し訳ございません。ですが、我らは殿下の“影”ですので」

「フンッ……」


 面白くなさそうに鼻を鳴らしてから、柄に置いた手をそっと離す。


「……わかった。執務室だな?」

「はい」


 黒装束の男が一瞬で姿を消したことを確認してから、ユウヤは第一王子の待つ執務室へと向かい始める。


「おい、あれはもしかして……」

「ああ、第一王子直属の第一騎士団、その副団長を務めるレオナルド・ウォーロック様だろう」

「入団直後から大躍進を続け、今や副団長。前回の討伐戦では、飛竜(ワイバーン)の群れを単騎で討伐したという、とんでもない御方だ」


 ひそひそと何やら文官たちが話しているのが耳に入ってくる。


 ……本当にこの身体の()()()()()には助かっているな。


 楽すぎる異世界生活に、つい口の端が上がってしまいそうになる。

 それを手で隠しつつ、表情を元に戻すと、ユウヤは扉をノックした。


「第一騎士団所属、レオナルド。参りました」

「入れ」


 短い返答。

 その後、扉を開くと、大きな椅子にもたれかかる男がそこで待ち構えていた。


「やあ、レオナルド。急に呼び立ててすまない」

「いえ、構いません」


 背もたれから身体を離し、机に肘をつくのはこの執務室の主――第一王子ダスティン。

 彼は柔和な笑みを携えながら、ユウヤをまっすぐに見つめていた。


「さて、今回呼び立てたのは他でもない。少し聞きたいことがあってね」


 言いながら、部屋の端に控えていた侍女と文官らに目配せして、退室を促す。

 そして、少数の側近だけ残ったことを確認すると、ダスティンは先ほどまでの柔らかな表情を消し、冷ややかな声で告げた。


「……先ほど、訓練場であったことを話せ」


 鋭い追及の視線を受けて、ユウヤは微かに身体を震わせる。


「突然、王国南方より飛来する影が見えましたので、正体を確認するべく斬りかかりました」

「ほう。遥か上空の飛来物に対し、()()()()()か。さすがは『剣聖』の恩恵(ギフト)を持つ者だ。……それで?」

「はい。飛来する影は斬撃をすべて避け、さらには暴風の魔法を打ち返してきました。そして、その後は北部へと飛び去ってゆきました」


 その言葉を聞いて、ダスティンは眉をひそめる。


「剣聖の斬撃をすべて避けたうえに、反撃まで……? して、その正体はわかったのか?」

「はい。おそらく、飛来する影は竜型の精霊。その背に一組の男女が騎乗しているようでした」


 精霊という単語を耳にした瞬間、ダスティンの顔色が一変した。


「……なに? ファクティス神の威光が及ぶこの王国に、精霊だと?」

「間違いないかと」

「では、その背に跨っていたという男女は何者なのだ……」


 眉間を押さえ、ダスティンは大きく息を吐く。

 しかし、そんなダスティンに追い打ちをかけるように、ユウヤはさらに爆弾情報を口にした。


「男の方は不明ですが、女の方はあなたの妹君――灰の魔女、その人でしょう」

「なっ……!?」


 驚きに目を見開くダスティン。


 しばらくそのまま固まっていると、不意にダスティンの背後に黒い影が降り立った。


「――ッ!?」


 剣の柄に手を添えて身構えるが、その黒装束を目にした瞬間、動きを止める。


「……“影”か」

「殿下、失礼いたします。急ぎご報告申し上げたいことが」


 一瞬顔をしかめるが、ダスティンはすぐに気を取り直して黒装束に目を向けた。


「よい、申せ」

「はっ。北域の直轄領を任せていた代官リオネル・アゼマ男爵が、亜人種の集落にて連続誘拐事件を引き起こしているとの報告が入りました」

「リオネル・アゼマ男爵。たしか第二王子派閥だったか、奴は」

「はい。おそらくはイアン第二王子の例の()()()に関するものかと」

「チッ、また面倒なことをしてくれる……!」


 ダスティンは苛立たしげに舌打ちをこぼすと、すぐにユウヤに問いかけた。


「例の二人組は北域の方へと飛び去ったと言っていたな?」

「はい、おそらくは」

「ならばレオナルドよ。我が配下二名を伴って、北域の調査に行け。第一目標は例の二人組。第二目標がアゼマ男爵だ。障害となるものは殺してしまった構わん」

「はっ。承知いたしました」


 恭しく一礼すると、ユウヤは執務室を出る。


「意外に早い再会となりそうだな。哀れなレオナルド」


 そして廊下の窓から見える北の空に目をやって、そう微かにつぶやいた。

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