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第31話 精霊祭

 精霊祭で島民に訴えかける場をもらってから、五日。

 その日はすぐにやってきた。


「お三方とも、足を運んでいただきありがとうございます」


 まだ朝日も昇りきる前、マリアとドラグとを伴って訪れたのは、あの大滝。

 そこにはすでに島民全員が集まっており、その背後には多くの作物が山のように積まれていた。


「これより、精霊祭を始めさせていただきます」


 島民代表の言葉とともに、皆はそれぞれ作物を抱えて滝の裏へと歩き出す。


 最奥に佇む精霊像の足元、そこにはすでに絨毯が敷かれている。

 絨毯の上に次々と島民たちが作物を並べてゆくのを見守りながら、しばらく待つ。


 すると、並べ終えたことを確認した島民代表が、皆の一歩前に躍り出た。


「精霊様。そして、はじまりの神よ。我らを見守り、守護してくださったおかげで、今年もこれほどの豊かな実りに恵まれました。どうぞ、お納めください」


 その言葉と同時に、一同が平伏する。


『うむ、くるしゅーない!』

『でも、これだけたべたらくるしーんじゃない?』

『うむ、くるしーです!』


 頭を下げていてもわかる、耳元ではしゃぐ精霊たちの声。

 どうやら貢ぎ物はお気に召したようだ。


 ひとしきり彼らが騒ぎ終えたところで、並べられた作物たちが淡い光に包まれて消えてゆく。


『じゃあ、みんなで“おれい”しよっか~!』

『ほんき、だしちゃおっかな~』

『かかれ、かかれ~っ!』


 すると、なぜか精霊たちは滝の外へと飛び出していった。


 ……なんだか、嫌な予感が。


 精霊たちはまっすぐな性格で良い子たちではあるんだけれど、少しいたずらっ子のような節があるのだ。

 これは、ちょっと様子を確認しにいかないとマズいかも――。


「……レオンさん?」


 精霊像の前で語り合う島民たちの中から抜け出し、滝の外へ。


 その瞬間、驚きに目を見開いた。


「なっ……!?」

「どうしたのですか、レオンさ……えっ!?」


 後を追って出てきたマリアも隣に立ち、同じように動きを止める。


 滝の外、そこにあったのは視界いっぱいに広がる一面の花畑。


『はーっ、はっは! これがぼくたちのぜんりょくぅ!』

『どうぞ、おうけとりください!』


 ……精霊たちがいたずらをしていたら叱らないといけないかと思っていたけど、これぐらいなら別にいいか。


 そんな穏やかな気持ちだったのも束の間、滝の中から戻ってきたドラグや島民の皆が花畑を目にしてちょっとした騒ぎになったことで、少し後悔したのだった。


     ◇ ◆ ◆ ◇


 その夜、精霊祭の夜の部である宴が幕を開けた。


「はじまりの神が創造なさった精霊様は、楽しいことが何より好みだと伝えられている。そのため、我々は一年に一度、こうして酒を酌み交わしながらバカ騒ぎをする夜を過ごすのだ!」


 代表の言葉に、至るところから「おぉ~!」と歓声があがる。

 その中に混じって「話が長くて寝ちまうぞ~!」だの「早く酒を飲ませろ~!」だのと聞こえてくる。

 昼間の真面目な信仰者としての姿とは裏腹に、なかなか陽気な人たちみたいだ。


「ははは、わかったわかった。――では、乾杯っ!」

「「「かんぱ~いっ!」」」


 大合唱の後、木のジョッキを打ち鳴らす音が辺りに響き渡る。


 そこからはバカ騒ぎの名にふさわしいほどの喋り声や笑い声なんかが飛び交う時間が過ぎた。


「お三方、祭は楽しまれておりますか?」

「ええ。ドラグはあっちでひとり静かに飲んでいるし、マリアの方は……――」


 言いながら、隣に視線を向ける。


「あのっ! ぜ、ぜひうちでつくった料理を食べていただければ……!」

「この酒はこの島だけでしか作られていない伝統の酒なんですよ! ぜひぜひもう一杯いかがですか?」

「あちらの舞台の方で精霊様に奉じる芸を行うのですが、マリア様にも見ていただきたく……」


 やはりというか、なんというか。

 マリアの周りには次々と島民たちが寄ってきては、皆思い思いの品を勧めている様が目に入る。


「ははっ。さすが大人気ですね」


 ……大人気なのは、俺が精霊と一緒についてきたせいな気がするけど。


 未だ絶賛大人気中のマリアに心の中で謝りつつ、辺りを見渡してみる。


 広場の中心には藁の山を燃やしている大きな焚き火。

 そして、それを囲む島民たちはもう大半が顔を真っ赤にして、すっかり出来上がっている状態だ。


「こんなに賑やかで盛り上がった精霊祭は、私が生まれて以降、一度も見たことがありません。これもレオン様やマリア様のおかげですね」

「いやいや、俺たちは何もしていないよ」


 頭を下げようとするが、それを手で制す。

 すると、代表は立ち上がって手を差し出してきた。


「では、本題と参りましょう。これ以上出来上がってしまったら、話どころじゃありませんからね」


 それもそうだ、と苦笑い。


 そして、差し出された手を握り、俺もゆっくりと腰を上げた。


「じゃあ、まずはマリアを救い出してくるよ」


 その手を離すと、ひとまずこれからの話の主役を救い出しに、人の群れへと向かっていった。




 なんとかマリアを救出すると、俺たちは舞台上へ。

 とはいっても、中心に立つのはマリア。その隣にドラグとともに控えつつ、ひたすらに彼女からの言葉を待った。


「すぅ……はぁ……」


 何度か呼吸を整え、マリアはまっすぐな目を舞台下に向けた。


「皆さん。これより少々、わたくしのお話に耳を傾けていただけますか?」


 その言葉に場が、しん……と静まり返る。

 けれど、誰も何が起こるかわかっていないようで、首を傾げては小声で何やら話し合っているのが見える。


「改めまして、わたくしの名はマリア・フォン・エアハート。この国の第二王女です」


 あまりに優雅な一礼に、周囲から感嘆の声が上がる。


「わたくしはこちらのレオンさん、そして亜人種のドラグさんの協力を得て、大陸からやってまいりました」


 そう前置きしつつ、さらに言葉を続ける。


「……ここにたどり着く前に、わたくしたちは亜人種の集落でとある貴族の非道な行いを目にしました」


 ドラグの方を一瞥すると、無表情の中にも少し翳りが見えるような気がする。


「亜人の連続誘拐、そして、人体実験。彼らはただ信仰が異なるというだけで、神の恩恵をその身に宿さないというだけで、そのような非道な行いを受けていたのです」


 その瞬間、一気に島民たちのざわめきが大きくなる。


 怒り、悲しみ、諦め。

 彼らの表情には、様々な色が浮かんでいる。


 しかし、それを振り払うようにマリアは語気をさらに強めて言った。


「わたくしは、それを許容する今の王国が許せない」


 こぶしを握り、怒りをあらわにする。

 だが、続く言葉はなぜか弱弱しいものだった。


「ですが、わたくしの王位継承権は第五位。それも無恩恵者(ギフトなし)。そんなわたくしに今の王国を変える力はありません」


 だから、と告げる。


「――この国を変革するために、あなた方オラティオーの力を貸していただきたいのです」


 瞬間、宴の浮ついた空気は消え去り、ひりついた空気が流れ出す。


 がしかし、島民たちの反応はどれも微妙なものだった。


「王国を変革って言われても……」

「現状に不満がないわけではないが……」

「ああ、儂らはこの島に引きこもっておれば、そう被害はないしなぁ……」


 それは建前だろうと、瞬時に気づいた。


 王国に盾突くことが、どれほど無謀で危険なことなのか、恐怖と不安でいっぱいなんだろう。そう顔に書いてある。


「協力してくださるのであれば、わたくしたちはともに変革を目指す同志です。必ずわたくしたちがあなた方を守ってみせます。だからどうか……――」


 その言葉を発したと同時、背後から聞き覚えのある男の声が来た。


「――()()、か。言葉だけは立派なものだ、無能のお姫様?」


 振り返った先、そこには俺から肉体を奪い取った男の姿があった。

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