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第20話 北域という場所

「そういえば聞きたかったんだけど、北域ってどんな場所なんだ?」

「え!? な、ななな何ですか!?」

「あ、なんか……ごめん……」


 俺たちは今、絶賛竜の背の上で空中散歩中。

 竜の背に跨ったままの状態で、マリアは必死に足元を見下ろさないように目をギュッと瞑って上を向いていた。


「……そんなに怖いか?」

「い、いえ……わたくしは王女ですもの。この程度の……この程度……」


 言って、うっすら目を開いて眼下に目をやる。

 しかし、すぐに顔を跳ね上げる。


「す、すみません! やっぱり無理ですっ!」


 マリアは高いところが苦手なんだろう。

 懸命に竜の身体に両腕でしがみつきながら、顔だけは器用に上に向けて悲鳴を上げている。


 とはいえ、この空の旅の水先案内人は他でもないマリアだ。

 さすがに船頭がいなくて目的地にたどり着けるほど、俺も精霊竜も優秀ではない。


 今の俺が出来ることと言えば、話で気を紛らすことぐらいだ。


「で、さっき聞いた北域の話なんだけど……」

「は、はい! 北域にはですね、大きく二つの地区があります! はい!」


 やけに早口、いやに大声だけど気にせず、話に耳を傾ける。


「ひとつは亜人種の方々が住まう集落がある地区。ここは通称“亜人区”なんて呼ばれていますね」


 ひとつ指を立ててから、彼女はさらに続ける。


「もうひとつが“オラティオー自治区”と呼ばれる場所になります」


 言って二本目の指を立てた瞬間、俺は眉をひそめる。


「オラティオー? それって……」

「北域の地をまだこの国が手に入れる前から、その地に住んでいた先住民族の方々がいたんです。その方々が“オラティオー”という名の民族だったので、彼らが住む島が“オラティオー自治区”と呼ばれているんです」


 王国内にそんな地区があるのは知らなかった。


 しかし、話すマリアの表情は少し曇っている。


「……自治区とは言いながら、実際はそんな文字通りの場所では――」


 そこまでで言葉を区切ると、マリアは遠くを見て、ひと際大きく目を見開く。


 つられて見た視線の先、視界に飛び込んできたのは苦くも懐かしい王都の景色だった。


 ……そうか。もう、王都か。


 王国南部を発って、向かう先は北部。

 中心部に位置する王都の上空を通過するのは当然だ。


「もう、ここで暮らしていたのも遠い昔のことのようですね」


 今までの恐怖なんてどこかへ行ってしまったかのような冷静さで、マリアは王都を見下ろしている。


「戻りたいか? あの場所に」

「それは……」


 言葉に詰まる。

 しかし、すぐにゆっくりと話し始める。


「……戻りたい気持ちはあります。あの場所には、やり残してきたことがたくさんありますから」


 それでも、とマリアは首を横に振った。


「まだ、あの場所には戻れません。他の王子たちの暴走を止め、恩恵(ギフト)に左右されない真に自由な国をつくるまでは――」

「……うん、そっか」


 しっかりと強い意志のこもった目だ。

 王都の景色を見て、彼女の覚悟が揺らぐか心配だったけれど、これならばきっと大丈夫だろう。


「なら、このまま北域まで一直線に……――」


 そこまで言って、俺は言葉を止めた。


 視線を感じた。

 他に誰もいない、こんな空の上で。


 ……いったいどこから、誰に見られているんだ……? 


 眼下の景色に、隅々まで目を走らせる。


「レオンさん?」


 マリアは視線を感じていないのか、首を傾げるばかり。

 だけど、これは勘違いなんかじゃない。


 じっとこちらを見つめている者が、この王都のどこかに――。


「――見つけた」


 それは王都で一番目立つ場所。すなわち王城。

 その中でも、騎士団が日ごろから使用している訓練場にただひとり、まだ年若い青年騎士が佇んでいた。


「……そうか。そうだったよな。お前もここにいるんだったよな」


 見間違うはずもない。

 なにせ、その男は()()()()()()()()()()()()


 この地に因縁があるのは、決してマリアだけではない。


 俺の肉体を奪ったあの転生者――ユウヤ。奴は今でも俺の身体と名前と地位と、すべてを掠め取って、この王都で生き続けている。


「いつか、俺も決着をつけないといけないのかもしれないな……」


 師匠のおかげで第二の生を踏み出してふっ切れた気でいたが、やはりあの姿を見てしまうと、少し思うところがある。


 とはいえ、今はその時ではない。

 だから、一瞥だけくれて王都上空を抜けようとした。


 ――そのときだった。


「……ん? 何か光って――」


 訓練場。騎士が佇む一画で、突然、光が弾けた。


「……っ!? 避けろ! 早くッ!!」

「え……?」


 状況がいまいち呑み込めていないマリアとは対照的に、竜は即座に理解して、身体を捻って急旋回する。


「ひっ……!?」


 マリアの悲鳴が聞こえた気がするが、それも風の音に流されてゆく。


 その直後、さっきまで自分たちがいた空を超スピードの斬撃が駆け抜けていった。


「い、いったい何が……!?」

()()だよ。地上からの」

「斬撃って、ここ、空ですよ!? そんな場所に剣なんて届くはずが……」


 たしかに、あいつからすれば遥か上空のただの()にしか見えないほど、距離が離れている。

 普通なら剣での攻撃なんて、届くはずがない。


 ただ、それも()()()()()()()()()の話だ。


「あいつの恩恵――『剣聖』の力だ」


 世界中のあらゆる剣技の上達を早め、剣の扱いを補助し、すべての剣士の頂点に位置する者。それが『剣聖』。

 かつての俺が持っていた力だ。


「おそらく剣を超高速で振り抜いて、その衝撃を風の刃として飛ばしたんだろう」

「そんなでたらめな……」


 そう驚くことでもない。

 師匠だって似たようなことを軽々とこなしていた。


 とはいえ、師匠の斬撃は精霊魔法ありきのもの。

 今の斬撃は恩恵の補助を受けているとはいえ、純粋な人の力だ。


「……使い手が違えば、ここまで変わってくるんだな」


 やはり俺はまったく使いこなせていなかったんだなと、痛感させられる。

 ただ、いくらこれが人間離れした技術だからといって、易々と落とされてやるつもりはない。


「次が来る。全速力で振り切ってくれ」

『フンッ。無茶を言ってくれる……っ!』


 竜は鼻を鳴らすと同時に、瞬間的に速度を上げる。

 それに合わせるようにして、徐々に斬撃と斬撃の間隔も狭まってくる。


『チッ、振り切れん……!』


 ……これはマズいな。


 このままでは直撃してしまうのも時間の問題だろう。


「仕方ないか……」


 言って、高速移動する竜の背の上で立ち上がる。


「れ、レオンさん!?」

「一瞬だ。一瞬だけ動きを止めてくれ。頼めるか?」

『動きを止めろ、だと……? いったい何を言って――』


 しかし、竜は言葉を止めると、すぐ気を取り直して返してきた。


『五秒後、ほんの一瞬動きを止める。そこで何とかしろ』

「ああ、わかった」


 頷きながら、鞘から剣を引き抜く。

 構えつつ、一拍、二拍、三拍……と数えて。


 ついに、その時が訪れた――。


「――行けッ!!」


 止まった一瞬でしっかりと竜の背を踏みしめ、一息に剣を上から下へ振り抜く。

 すると、そこから斬撃のかわりに暴風が走り、直下からの斬撃のことごとくを飲み込んでゆく。


 そして、斬撃が止んだ。


「今だ――ッ!」

「ひぃぃぃっ!?」


 俺の声とマリアの悲鳴に後押しされるかのように、竜は瞬時に最高速に乗り、空を翔け出す。


 息を吐き、剣を収めて振り向いたときには、すでに訓練場に佇む騎士の影は見えなくなっていた。

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