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第19話 協力者を求めて

「……あぁ、平和だなぁ」


 青く澄み渡る空、ゆったり流れる白い雲。

 風が草木を揺らす軽やかな音が耳を刺激する。


 なんとものどかな時間だ。


「色々あった分、余計にそう感じるよ……」

「……ええ、本当に」


 二人揃って長い長い息を吐き、空を見上げる。


 というのも、ドンクルの町を出てはや一週間。ようやく追手もかけられないようになり、魔物の集団からも逃げ延び、久しぶりに手に入れた平穏な時間なのだ。

 今はもう何も考えず、頭をからっぽにして空を流れる雲でも眺めていたい気分だ。


『ぼくたちものんびり~』

『しろい、くも、ふわふわ……じゅるり……』


 周りを飛び回っている精霊たちもどこか嬉しそう。

 すると、その姿を見たマリアが、ふと何か思い立ってこちらを見た。


「そういえば聞きそびれていたのですが、レオンさんと精霊さんたちはどうしてあの町へ?」


 ……ああ、そういえばそこらへんの説明してなかったなぁ。


 ここまでなし崩し的に一緒に行動してきたけど、あまりこっち側の事情を説明できていなかったことに、今さらながら気づかされた。


「そうだなぁ、どこから話せばいいか……――」


 自分が元はレオナルド・ウォーロックというまったく違う人間だったこと。

 唯一神を名乗るファクティスという女神の計略によって、異世界からの転生者に自らの肉体を奪われてしまったこと。

 魂だけの存在になってさ迷っていたいたところで精霊たちと出会い、彼らの住処でクリスティアという不思議な女性に拾われたこと。

 そして、彼女からこの魔導人形の身体をもらい、第二の生を踏み出したこと。


「――とまあ、師匠から『やりたいことを見つけてこい』って送り出されて、あの町にたどり着いたんだ」

「……女神様に転生者、精霊、ですか。何と言いますか、壮大なお話すぎて正直現実味が……」

「普通、そう思うよなぁ」


 言いながら、右腕の肘から先を切り離して、空いた左手でキャッチする。

 そのまま切り離した右腕を弄んでいると、マリアは一瞬目を見開いて、肩をすくめた。


「……いえ、現実でしたね。あの町で出会ったのも、わたくしが救われたのも、すべて」


 その瞬間だった――。


『まもの~! まもの~!!』

「――ッ!」


 弾かれたように周りを見ると、優に二桁を超える魔物たちが遠巻きに俺たちを取り囲んでいた。


「大猪に小狼、怪鳥……と。ずいぶんと気合いの入ったメンツだな、これは」


 あまりにも気を抜いてゆっくりしすぎて、これほどの数に包囲されるまで気づけなかったとは、情けない話だ……。


 とはいえ――。


「さすがにこの程度の魔物じゃあ、準備運動にもなりはしないだろ」


 見渡す限りに魔物、魔物、魔物。

 けれど、どいつもこいつも小物、小物、小物。


 正直、話にならない。


「さあ、サクッと終わらせようかな」


 腰に吊った鞘から長剣を引き抜きつつ、立ち上がる。


 まず標的に定めたのは、空を舞う怪鳥の群れ。

 あいつらが頭上をとっている以上、地面の敵に集中できない。


「ちょっと力借りるよ、みんな」

『あいあいさー!』

『どんっ、とこいっ! どどんがどんっ!』


 風の精霊の力を借りて、長剣の刀身部分に風を膜のように薄く纏わせる。

 そのまま剣を腰だめに構えると、まずは軽く一度、頭上へと振り抜く。


 直後、剣から飛ぶのは、風の刃。

 そして、飛ぶ斬撃は怪鳥目がけて進み、その首をたった一撃にて刈り取った。


「――……アァァァッ!?」


 断末魔の奇声を上げ、怪鳥はまず一体が空から墜ちる。


「まずは一体」


 言いつつ、次は三度剣を振るう。

 次は二度、そして三度。

 その度に怪鳥は抵抗することすらできずに、一体、また一体と地に向かって墜ちてゆく。

 それは空から怪鳥の姿が消えるまで続く。


 そのあまりの一方的な鏖殺(おうさつ)に、魔物であっても唸り声ひとつすら発せない。


 耳鳴りがするほどの静寂の中、長剣を鞘に仕舞う鍔鳴りの音が、この広大な草原に染み渡った。


「……ふぅ、やっぱり師匠のようにうまくはいかないか」


 斬り落とされた怪鳥の首を見て、ため息をつく。


 思い出すのは、この身体を世界樹から切り出してくれたあの時。

 あの時の斬撃の鋭さは、こんなものではなかった。


 ……もっと修行が必要ってことかな。


 ただ、今はそれを気にする前に――。


「さあ、そろそろこいつらも我慢の限界だろうし、とっとと片付けて……」


 そこまで言って、言葉を止める。


 何かがおかしい。


 ……あれ、こんなに多かったか?


 目を凝らしてみると、今までいなかった猿や小鬼なんかも増えている。

 数にして、さっきまでの倍近く。


「……こ、これは、さすがに」


 横目にマリアの顔を窺うと、不安そうに眉を曲げてじっとこちらを見上げていた。


「はぁ、しょうがないか……」


 このままでは、ジリ貧になるだけ。

 だから、俺は空に向かって閃光の魔法を打ち上げた。


「れ、レオンさん? いったい何を……」


 戸惑いの声をあげるマリアをよそに、俺は遥か遠くの空、そのただ一点を静かに見つめ続ける。

 すると、澄んだ蒼空の中に突如()()が現れた。


 その()()の影は徐々に大きくなり、こちらへと向かってくる。


「……ん、あれは……?」


 ようやくマリアにも見えたみたいだ。

 マリアは手で日の光を遮りながら、目を凝らす。


 次の瞬間、その目が驚愕の色に染まった。


「なっ! あれは――『竜』!?」


 戦場に舞い降りたのは、翼をもたない細長い体躯の竜。

 その身体は透け、ぼんやりと金色の光を纏っている。


「レオンさん、早く逃げましょう! この数の魔物に竜まで現れたら……」

「ああ、それは問題ないよ」


 取り乱す必要はない。

 何せ――。


「――この竜は俺が呼んだんだから」


 ニヤリと口角を上げてやると、見事にマリアは口を開いたまま言葉を失う。


『レオン、何用か?』

「ああ、急に呼び出してすまない。見ての通り半端じゃない数の魔物に囲まれてピンチでね」

『なるほど。手を貸せ、と』

「うん。ちょっと俺の手持ちの魔法じゃ、威力が足りなくて一掃できそうにないんだ。できるか?」


 竜はフンッと鼻を鳴らすと、目を光らせる。

 直後、俺の腰の剣に魔力を感じた。


『狂風の魔法を付与した。それで吹き飛ばしてしまえ』

「……うん、これならいけそうだ。ありがとう」


 ゆっくり剣を引き抜き、先ほどと同じく腰だめに構えをとる。

 その体勢のまま周囲の魔力を束ね、刀身に付与された魔法に束ねたすべてを流し込む。


 一度目を閉じ、息を吐く。


 そして、一息にその剣を横薙ぎに振り切った――。


「……ッ!!」


 剣の振るわれた軌跡をなぞるようにして、狂える風が草原を疾走する。

 その狂風に呑まれた者は瞬く間にその形状を維持できなくなり、塵へとその姿を変える。

 運よく風の直撃を免れたとしても、一瞬後には圧縮された空気が炸裂し、確実に命を奪いにくる。


 空気の破裂音が止んだ頃には、すでに魔物の影ひとつ見当たらなかった。


「よしっ、マリア! 行こうっ!」

「へっ!?」


 呆然とする彼女の手を取り、竜の背に飛び乗る。


「続けてお願いなんだけど……」

『ふんっ……。して、どこへ行くのだ?』

「そうこなくちゃ。それは――」


 マリアを見る。


「えっ? え、え……っ!? ええっと……」


 すると、気を取り直した彼女は北の方を指さして、こう告げた。


「わたくしたちが目指すのは、王国北域――亜人種や先住民族の住む『ナダ地方』です!」

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