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第16話 攫われたマリア

 血まみれで道端に倒れるダリオを見つけた俺は、ひとまず彼を家の中へ連れて行き、そこで応急処置を行っていた。


「みんな、綺麗な水を出してくれるか?」

『おやすいごよーう』

『すいすい~』


 精霊たちに綺麗な水で傷口を洗ってもらってから、傷薬を塗ってから手早く包帯を巻きつける。


「よしっ、これでひとまずは……」


 ダリオの治療がひと段落ついたことを確認してから、ふぅ……と息をつく。


「……すまない」

「大丈夫だ。――それより、何があったんだ?」


 家に運び込む直前、ダリオは確かにこう言った。


『嬢ちゃんが、連れていかれた』


 家の中を見渡すも、すっかり荒らされており、マリアの姿はどこにも見当たらない。

 幸い、ダリオの妹であるエルマの部屋は荒らされてはおらず、無事だったみたいだが――。


 ……逆に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。


 最初からマリアを標的に定めており、その身柄を確保できたから、わざわざ奥のエルマの部屋まで押し入らなかった、ということだろう。

 しかも、協力者である俺のいない時間を狙いすましてきた。


 ――つまり、これはかなり綿密に計画を練られたうえでの襲撃だ。


「……突然、見知らぬ男が五人、押し入ってきた。マリアを引き渡せ、と」


 推測通り、マリアをピンポイントで狙った犯行なわけだ。

 どこからマリアの居場所がバレたのか。本来なら、それをじっくり調べたいことだけど、今は一刻を争う。


 今はまず何より、マリアの連れ去られた先を突き止めなければ……。


「すまない、急ぎお願いできるか?」

『あいあいさー』

『おちゃのこさいさーい』


 精霊たちに魔力を分けてやり、マリアの捜索隊として送り出す。


 ……ここ最近、ずっと精霊たちに頼りっぱなしで、少し申し訳ないな。


 そう思ったのも束の間、すぐに気を取り直して部屋の中を調べ始める。

 外の捜索は精霊たちの方が適任だが、残された自分にも荒らされた部屋から数少ない犯人の痕跡を見つけるぐらいはできる。


 そうしていくらか時間が経った頃、精霊たちが戻ってきた。




 精霊に先導されながら、俺は闇夜の中、路地裏を駆け抜けていた。


『まちのはし~、おっきなおやしき~』

『はやくはやく~!』


 聞けば、町のはずれの放棄された屋敷にマリアは囚われているようだ。

 さすがに敵の素性まではわからなかったみたいだけど……。


 そこまで考えて、ふと後ろを振り返る。


「何か、少し引っかかるんだよな……」


 荒らされたダリオの家の中を思い出す。


 手あたり次第に家具が倒され、床一面にものが撒き散らされた、あの部屋。

 襲撃を受けたのだから、あれだけ荒らされていても不思議はない。


 でも、なんというか不自然な感じがした。


 荒らされ方がどこか規則的で、倒された家具も綺麗すぎるのだ。


 ――まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()みたいな……。


「……気のせいか」


 緩めた速度を上げつつ、マリアが囚われている屋敷へと急ぐ。


 そうしてたどり着いた屋敷は蔦が絡みついており、いかにも廃屋といった様相を呈していた。


『ここ、ここ~』

「ああ、みんなありがとう」


 精霊たちを労いながら、みんなに魔力を分けてやる。


 ……それにしても厳重だな。


 こんな街はずれのボロ屋敷に似合わない、明らかに過剰すぎる人数の警備。

 しかも、全員が正規兵のようなきちんとした装備ではなく、中には“冒険者くずれ”とでも言うべきものも混じっている。


 正規の警備兵とごろつきが一緒に屋敷を守っているなんて、あまりにも異様な光景だ。


「まあ、なんにせよ、ここでじっとしてても変わらないか」


 ふぅ、と息を吐き、肩の力を抜く。

 そして、精霊に目配せをした瞬間、徐々に自分の身体が透けていき、最終的には闇に紛れてほとんど見えなくなってしまった。


「……これでも師匠は、しっかりと捉えて斬ってくるんだよなぁ」


 全身に幻影を纏うようにして、自分の姿を隠す魔法。

 ほとんど輪郭も見えないぐらいだというのに、師匠はお構いなしに居場所をつきとめて斬りつけてきたものだ。


 だが、さすがにこんなところに師匠クラスの感知能力を持った者はいないだろう。


 気を引き締めると、俺は足音を殺しながら屋敷の中へと足を踏み入れていった。




 屋敷への潜入に成功した俺は、ひとまず幻影の魔法を解いてから、柱の陰に身を潜めた。


「……ふぅ、まずは第一関門突破だな」


 今、精霊たちには屋敷内を回って、マリアの居場所を探ってもらっている。

 その間に、自分も屋敷の警備ぐらいは確認しておこうと思ったのだが……。


「随分と中の警備は薄いな……」


 屋敷の外はあれだけ過剰なほどの人数を割いていたのに、中はほとんど人影がない。しかも、魔法で聴覚を強化してみても、このフロアからはまったく足音が聞こえてこない。


 さらに耳を澄ませてみて、聞き取る範囲を広げてゆく。


 ……ここから一番近い人間で、ひとつ上のフロアか。


 足音から察するに、そのフロアにも五人程度しかいない。

 完全に屋敷内へ侵入されることを想定していない警備体制だ。


「……明らかに不自然すぎる」


 ――罠か、ただの慢心か。


 相手の正体がわからない以上、何とも言えないが、少し嫌な予感がする。


「とはいえ、じっとしているわけにもいかないな」


 まず、一番に怪しいのは人が固まっているひとつ上のフロア。

 もう一度全身に幻影をかけなおすと、階段をゆっくりと上がってゆく。


 やはり、その道中ですら誰も警備兵が見当たらない。

 俺がようやく人の姿を捉えたのは、階段を上りきって、上のフロアに到達した後のことだった。


 ……突き当りの部屋の前、扉の両脇にひとりずつ。廊下の巡回に三人。


 外の警備体制はわかった。

 あとは部屋の中がどうなっているのか――。


 その瞬間、精霊たちが戻ってきた。


『なかに“まりあ”いたよ!』

『こわーいひと、なしっ!』


 ……なるほど、なら警備は外の五人だけか。


 中にマリアがいるとなると、余計に警備のザルさが気になってくるが、今は余計なことを考えている余裕はない。


「よしっ、行こう……!」


 意を決して、まずは手近な警備兵に音もなく接近。

 そのまま、一瞬で意識を刈り取る。


「なっ、だ、誰だ……!?」


 狼狽する警備兵たちの声が届いてくる。あまり騒ぎになるとマズい。

 未だに状況を把握できていない男たちに肉迫し、次々に首筋へ魔法による電撃を流し込んでいく。


 そうして数秒のうちに五人を沈めた俺は、ついに扉の先へとたどり着いた。

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