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第12話 王女との出会い

「この国を、恩恵に左右されない国に変えたい、か」


 彼女の願いを聞いて、まず思ったことがある。


 ……無謀な望みだ。


 恩恵を持たない彼女ひとりで、この国に根づく意識を根底から覆すことなど不可能に近い。

 しかし、彼女の瞳は強い意志に燃えていた。


「眩しいな……」


 自分にはない、強い願望。

 あまりにも眩しすぎる。


 ……それに比べて、俺は空っぽなまま。


 でも、もしかしたら――。


「マリアとともに行けば、何かが変わるかもしれない……」


 不思議と、そんな確信がある。

 だから、彼女へ手を差し出して、こう言った。


「――マリア、俺にも君の望みを手伝わせてくれないか?」

「えっ……?」


 目を丸くする彼女に、優しく告げる。


「君の言う『恩恵による差別のない平等な世界』を、俺も見てみたいと思ったんだ」


 そんな理想に満ちた世界でなら、俺も望みを持てるかもしれない。

 それに何より――。


「ここまで関わっておいて、放り出すのは違うだろう?」


 まず、関わりたくないのであれば、マリアが追手をかけられているのを見過ごせばよかったのだ。

 それを追い返した挙句、しっかり安宿で匿っているのだから、もうすでに“共犯者”だ。


「だから、見せてくれないか? 俺に、君の描く理想の世界を」


 口元に笑みをつくり、差し出した手をほんの少し彼女の方へ。

 すると、マリアは少し逡巡した後、覚悟を秘めた表情でその手を取った。


「はい、ここに誓いましょう。わたくしは、あなたに必ず理想の国を見せると――」


 握った手はか細く、ナイフすらも握ったことはないような柔らかさを感じる。

 だからこそ、追手から死に物狂いで逃げ続けて、何としてでも望みを叶えんとする彼女の心の強さに惹かれたのかもしれない。


 ……さあ、これからどうなるかな。


 そんなことを思いながら、窓の外、もう橙に染まりつつある空を見上げた。




 二人の決意から、はや三日。

 未だに俺とマリアは、この安宿の一室から外に出られないでいた。


「ほんっと、どうするかなぁ……」


 マリアの夢を手伝うとは言ったが、実はそう簡単な話でもない。

 まず、「理想の国を実現する」という夢は、漠然とし過ぎて何から手をつけるべきなのかわからない。


 ……そもそも、冤罪とはいえ手配書が出回っているしなぁ。


 さすがに俺が匿っていることはバレていないと思うけど、それでもさすがに今の状況で大通りを歩くのはリスクが高すぎる。


 ――結果、この有り様だ。


「でも、そろそろまた精霊たちが町の情報を集めて戻ってきてくれるはずだから、今度は……――」


 独り言をぶつぶつとつぶやきながら、町の地図に羽根ペンを走らせていく。

 書き込んでいくのは、この町の人通りの多い場所や時間帯、さらには警備兵の巡回ルートに至るまでの、詳細な情報。

 それらはすべて、精霊たちに頼んで集めてもらったものだ。


 地図が文字の羅列で読みにくくなってきた頃、背後からマリアの声が飛んできた。


「……どうして、そこまでわたくしのために必死になってくださるのですか?」

「え? どうしてって言われても……」


 正直、答えに困る。


「出会ったばかりで、何よりわたくしの話が作り話かもしれないのに……」

「作り話だったの?」

「い、いえ! そんなことは……っ!」

「じゃあ、何も問題ないじゃないか、それで」

「ですが……」


 未だに納得できない様子のマリアに、俺は書く手を止めて振り返った。


「今まで、俺は義務感だけで生きてきたんだ」


 これまで自分の意思で何ひとつ決めてこなかったと、かつて師匠にも言われたことを思い出す。


「だけどまあ、あることをきっかけにすべてを失ってから、俺は決めたんだ」

「決めた……?」

「ああ、今度こそ、自分の思いに正直に生きるってな」


 まだ自分の望みは見つかっていない。

 けれど、今、彼女の理想に手を貸したいという気持ちはたしかに、自分の中にある。


「だからまずは、この町から外へ出ないと、な?」

「は、はいっ!」


 そう言って、俺たちは笑みを交わし合った。


 その後、戻ってきた精霊たちの頭を代わる代わる撫でながら、地図に書かれた情報を更新していく。

 すべてを書き終えた俺は、息を吐いて地図全体を見渡した。


「……うん、やっぱり行動するなら深夜か」


 深夜なら、人通りも少なくて警備にも薄い箇所ができる。

 その隙を突いてこっそり町を出るのが一番だ。


「では、決行は今夜でいかがでしょう?」

「ああ、なるべく早い方がいいだろうしね」


 ただ、ひとつだけ懸念があるとすれば、彼女がこの町にいることが知られて警備が厳重になることだけど――。


「今のところは、何も異変はないか……」


 一抹の不安を抱えながらも、迎えた深夜。

 宿から物音を立てずに出ると、そこはしんと静まり返っていて、ただ緩やかに吹く風の音だけが響いていた。


「よしっ、まずは無事に宿から出られたな、っと……」


 今の俺とマリアは、二人とも目深にフードを被っていて、周りから顔は見えない。

 これなら、たとえ人と出くわしたとしてもすぐにバレることはないはずだ。


「行きましょう、レオンさん」

「あ、ああ」


 マリアの声に促されるように、俺は調べていたルートを足音を殺しながら進み始める。


 調べた通り、人通りは皆無。

 巡回する警備兵ともすれ違わない。


 すべてが順調に進んでいた。

 そのはずだった――。


「なっ……!?」


 おかしい。

 どうしてこんなに鎧の音が聞こえてくるんだ……!?


「れ、レオンさん? どうしましたか?」

「しっ! 静かに……」


 昨日の夜までの警備兵の数と、今、耳に届く鎧や足音の数が違い過ぎる。


 ……もしかして、警備が厳重になっているのか?


 これは想定外だ。

 すぐに精霊たちに呼びかける。


「すまない、みんな。大通りと門のあたりを見てきてくれないか?」

『はいはーい!』

『ぼくたちにおまかせ!』


 精霊たちに様子を見てきてもらっている間、俺たちはその場でじっと隠れていることしかできない。


「あの、ずっと思っていたのですけど、時々レオンさんが会話をされているのは……」

「あっ、言ってなかったか。精霊だよ」

「精霊……」

「とはいっても、他の人には見えないのかな?」


 自分も魂だけの姿になって、彼らに魔力の使い方を教わらなければ見えなかったのだし。


「いえ、ぼんやりと光の塊のようなものは見えるのですが……」


 その言葉に、思わず目を見開く。


 いつか師匠が言っていた。

 精霊魔法は自由の力。対するファクティス神の恩恵は生き方を縛る力。

 相反するものであるため、恩恵を持つ者には精霊の姿が見えないのだと。


 ……そうか、マリアは無恩恵者だって、エマさんも言っていたな。


「もしかすると、精霊魔法だって扱えるかもしれないな」


 そんな独り言をつぶやいていると、すぐに精霊たちが戻ってくる。

 話を聞く限り、どうも警備が厳重になっているようだった。


「くそっ、最悪のタイミングで……!」


 これからどうするか。

 考えを巡らせている中、不意に数名の足音が背後から来た。


「君たち、そこで何をしているんだ?」


 振り向くと、全身鎧(フルプレート)の警備兵が三名、目に入る。


「近頃、この町に手配犯である『灰の魔女』が侵入したという情報提供を受けた。念のため、そのフードの下を確認させてもらえるか?」

「そ、それは……!」


 ……くそっ、最悪だ。


 彼女の灰の髪を見られたら最後。すぐに他の場所にいる警備兵たちも集まってくる。

 その前に……――。


「チッ、一旦、退こう……!」


 マリアの手を取り、警備兵たちとは逆方向へ走り出す。


「ま、待てっ!」


 遠ざかっていく警備兵の声と足音を聞きながら、なるべく人気の少ない路地裏へと逃げ込んでいく。


 こうして、俺たちの長い夜が始まった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 姿を隠す魔法を使えるのにわざわざ目立つ事をしている所が気になります
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