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読めなくなるまで

作者: 行世長旅

作家になりたいけれど、作品を読むのもままならなくなった。

自分は結果が全然出ないのに、周りはどんどんデビューしていく。

それを妬ましく思う。

悔しくて惨めで情けなくて、勉強のためにと読むのもできなくなった。

作家になれていない自分との差を、突き付けられているように感じた。

もう、しばらく読めていない。

書くのもできていない。

作家を目指し始めた頃は、好きな作品を真似るように書いていた。

パクりをしていたという意味ではなく、参考に、という意味で。

どこに盛り上がるシーンを入れればいいのか、どこに伏線を仕込んでおけばいいのか、どこにさりげなく説明を差し込めばいいのか。書き方を自己流で解釈しながら物語を作っていた。

初めて書いた作品は、自己評価では最高のものだった。1番好きな作品に近づけつつもオリジナリティがあって、読者を驚かせるための仕掛けをかなり取り入れた。

これは作家デビューもすぐだなと思いながら、新人賞に応募した。

一次審査が終わって評価シートが送られて来るまでの間を、早くも作家デビューした妄想をしながら待っていた。

けれど結果は、一次審査落選だった。

応募した出版社のサイトには一次審査の通過者の名前が羅列されているのだが、そこに自分のペンネームは無かった。

見落としたのかもしれないと何度も確認したが、それでも見つけられなかった。

最後にもう1度と思ってしっかり確認し、それでも無いと認めた時は、喪失感が急激に襲ってきた。

あれほどまでに自信があったのに。一次審査を通過すらしなかった。どうして。何故。

疑問が頭を駆け巡るが、答えは出てこない。答えになるはずの評価シートは、一次審査を通過した者にしか送られてこない。

物語がダメだった? いや、あの人気作を参考にしたんだ。展開でダメ出しをくらうはずがない。

もしかしてパクりだと思われた? いやいや、それなら異世界転生ものや追放ものなんてほとんどの作品がパクりになる。

答え合わせの無い自問自答を繰り返しているうちに、1つの可能性に思い至った。

もしかして、応募要項に何か違反している項目があったのではないだろうか。

ライトノベルの応募要項は、新人賞ごとに微妙に異なる。1ページ内の行数が違っていたり、本文の合計文字数の最大値が違っていたりする。

そういったルールの違反をしていたのではないだろうか。

投稿前に気をつけたつもりだが、改めて確認してみる。

サイトの応募要項と、自分の作品を比べてみる。

けれどやはり、違反箇所は見当たらない。

ただ、なにせ今回が初投稿のため、自分がわかっていなかったり気づいていないルールがあるのかもしれない。

とにかく、なんで落選したのかもわからないまま初めての新人賞は終わった。

この後1週間は意気消沈していたのだが、書きたい物語がまた浮かんできた。

プロットを作っている内に気力も回復し、徐々に元の意欲まで戻る。

今度は流行りのテンプレで行こう。前回の作品は自分が1番好きな作品を元にして書いたのだが、それは世間的にはちょっと古いとされるものだった。

今度は自分がそこそこ好きな作品の中から流行しているものを選ぶ。それを元にして書く。

方針も決まると、徐々に文章が書き出されていった。

次こそはと思い、投稿した。

けれどそれも、一次審査で落選した。

どうして。なぜ。

2度も連続で応募要項を違反してしまうとは考えにくい。今回は特に念入りに確認した。見返して見てもやはり不備は無い。

つまり、作品が一次審査も通過できないほどの出来でしかなかったのだ。

前回はまだ不備の可能性もあると思えていた分、気持ち的にはまだ誤魔化せていた。

けれど今回でハッキリした。

自分の作品は、面白い可能性を見出だされすらされていない。

その程度の作品でしかないと、前回の分と合わせて大きく落ち込んだ。

それからは、物語を書けなくなった。

書き始めてみても、冒頭をちょっと書いて終わる。2話にすらたどり着かない。

その内に物語を考えられなくなった。書きやすそうなワンシーンも文字に出来ない。ライトノベルに関係の無い駄文すらも書けなくなった。

文章を、まったく書けなくなった。

それが何年も続いた。

その内に、自分が新人賞に応募した頃に受賞した作家は、コミカライズからアニメ化まで決まっていた。

創作グループに参加してみた時には、1年ぐらい前からライトノベルを読み始めてみたと言っていた人がネット小説が書籍化したと報告していた。

周りはこんなにも結果を出しているのに、どうして自分は落ちぶれてばかりなのだろうとさらに悲しくなった。

それでも、勉強のためにと読んではいた。

いたのだが、肝心のライトノベルは全然読まなくなった。書けなくなったものを読むのがつらい。見るのがつらい。

ならばと漫画を開いてみるも、内容を面白いと感じるだけの心の余裕も無くなっていた。

決定的だったのが、コミカライズした作品の著者に知っているペンネームを見つけた時だった。

創作グループに自分より後から入ってきた人で、書き方も何もわからないからと相談に乗ったことがある相手だった。

大した話は出来なかったが、それでもその人は真面目に聞いてくれた。

そんな話をした後に自分は創作グループを抜けてしまったため、その後にどうなったのかは知らなかった。

どうやら、自分が落ちぶれている間に、その人は凄い勢いで成果を出したらしい。

知っている名をコミカライズ作品に見て、羨ましさで泣いたのを覚えている。

もう、創作物を楽しいものとして捉えられない。

その日から自分は完全に、書けなく、読めなくなった。


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